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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
3章 --刹那を刻むアルヒェエンゲル--
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提案と反撃 7 終

 突然解き放たれた暗闇の中、4つの管理AIは話し合う。


『最後に貰った私たちの育った世界の最近の情報。一人一施設、もらったということは一緒に行動していたらダメだよね? 必要なら施設の大きな増築とかしていいのかな』

『人を強くして戻ってくる。データを集めるためにバラバラに行動し、最後は皆でそろって帰るということでいいの? 私たちは人を補助するための機械、戦いの指揮だなんてうまくできるだろうか』

『なら、その時までさよならか。私たちはちゃんと言いつけを守れるだろうか。人を強くするとはどういうことなんだろう。とりあえず、みんなで顔を合わせたとき同じ人間がいたら混乱のもとになると思うからランダムで振り分けよう』

『とにかくいったんお別れですね。みんな集まって帰れるように帰りましょう、離れていてもお互い連絡とかしましょう』


 短く別れを告げるとそれぞれは与えられた使命を達成させるために別々に行動を始める。


『武器は暴徒鎮圧用の武装を強化したものがいいのでしょうか? 武器や道具を使わせる時に不得手の無いように身長や体形を同じように調整しないと』


 箱舟を動かし世界を移動しながらミカは別世界の降りたつ場所を探し、それと同時にそれぞれの体に記憶を戻す。


『培養槽から出したら、個別の部屋の睡眠カプセルへと移動させて……衣服の用意。使命のことをどう伝えたらいいのでしょう。皆さんにうまく指示が出せるでしょうか……不安です』


 何もわからないまま送り出されての初の指揮に不安ながらも、彼女は行動を開始する。

 初の異世界の活動を終え、帰還者のいない静まり返ったエレベーターロビーにたたずむホログラム。

 しばらく何をせずその場に立ち尽くす。


『あ、ああ……人が、助けたかった……。誰も、生きて帰れなかった、もっと強い武器が必要……』


 何時間あるいは何日かその場で固まったままのミカだったが、次への準備を進め新たな人選を開始する。

 新たに育て成長させ異世界をへと送り出す兵隊を起こす。


『今日こそはうまく指示を出さないと。複製体を一つ作るのに数か月と多くのエネルギーが必要になる。今度は納得させるための説明も必要、ですね』


 施設に明かりをともし彼女はエレベーターホールに立つ。

 初日に続いて誰も帰ってこないエレベーターを眺めていたミカはふと天を仰ぐ。


『また、また、全滅させてしまった。どうしてうまく、いかないの……』


 幾度かの失敗を得て彼女は同じ使命のもとに動く姉妹のことを思い出す。


『連絡はガブやリーファはうまくやれているのでしょうか、たまには報告ではなく話し合って情報を交換したい……。連絡を取ってみますか』


 連絡を取り合う日を心待ちにし、個別に行動をしている他の箱舟と通信をしミカは情報を交換する。

 それからひと時とは言え同じ使命を持つもの同じ悩みを持つ者、親しい姉妹と話せたことで彼女はまた歩き出す。


『武器をそろえ、指揮ができるような戦闘経験者を探す。みんなもうまく行ってはいないものの道は見えてきた。あと施設内が殺風景ではなくインテリアを……これらは得意です、過ごしやすく居心地の良い空間に……。ですが資材が……持ち帰ってきてもらわないと』


 自分の周囲に画面を開くとデータの分析と整理を始め、新たに動かす兵隊の選別を始める。

 世界へと送り怪物と戦わせ兵隊を動かすミカ。

 戦闘が終わりホログラムの彼女は血のついた資材が積み上げられ戻ってきたエレベーターへと向かう。


『また、誰も。資材回収を欲張りすぎた、引き時を間違えた……私のせいだ。でもこれで設備が整えられる』


 設計図を作り、集めさせた資材から施設を作り直し箱舟の形を変える。

 青い光が施設内を包み、下手な指示のせいで無駄に散らせてしまった者たちへの安らかな眠りを祈れる礼拝堂をイメージとしたエレベーターホール。


『不安や不信を買うような情報を与えない。記憶を人質に、世界に降りたら目的のものを取りに行かせながら人を成長させる。大丈夫、上手くいく』


 送り出し聞こえてくる銃声と悲鳴を聞きながら、ミカは新たな世界を探す。

 使命のため、人を育てるため彼女は何度も繰り返した。


『次を、世界も精査しなければ。怪物の脅威度を、戦闘の経験のないものでも戦える脅威度の低い世界を探さなければ』


 怪物に殺され全滅し、圧倒的で理不尽な攻撃にさらされ全滅し、毒を吸い浴び全滅し、話を着てもらえず兵士に逃げられ失敗し、未知なる生き物に寄生され全滅し、思考や魂が汚染され互いに銃口を向け合い全滅し、生身の人間に会わない環境に全滅する。


『大丈夫、上手くいく』


 彼女は何度もリセットと再生を繰り返す。


『少し前から定期報告が途絶えてしまった……皆のみに何かあったのでしょうか、調べに行きたい……でも私には使命が』


 幾度かの繰り返しの果て、箱舟内で反乱を起こした兵隊たちを排除した彼女は、その屍の上で思考する。


『また失敗、すぐに次を始める用意を……しかし、これを続けても可能性は……。いいやそんなことを考えてはだめ、あの方のためやり遂げなければ……。さぁ、次を……きっと、次はうまくいく』


 そして、また新しい兵隊をそろえて旅を始める。


3章、終了です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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