提案と反撃 5
銃口を向けられ人型は血の気を引いた怯えた表情を浮かべた。
「待って撃たないで!」
先ほどまでと違い、彼女は武器に怯えを見せ顔を伏せる。
部屋の外から様子をうかがうアンバーとコウエイ。
「なら、俺らのところの箱舟のAIと話をさせろ」
「ミカだ、知っているだろ」
視線を泳がせ困ったように人型は言葉に詰まりながら答えた。
「連絡が出来ない。電源を落とされ私自身、機械の方のウリと、連絡を、絶たれているの……」
「嘘をついて時間を稼ぐ気か?」
「違う、本当に、連絡が付かなくて」
部屋の奥にある機材の方へと歩いていくベニユキは白い銃を向けて目的地かどうか確かめ、他に散らばった武器を拾ってアンバーとガーネットが部屋へと入ってくる。
「どうなったのか知らないが。た、戦いは終わったのかい?」
「体がすごく痛い、雷に打たれたみたい。まだ指先がビリビリしてる」
反撃を受けないようアインが慎重に人型を覆う白い翼をどけて人型の頭に銃を向けた。
人型は銃から身を守るように頭の上に手を置き懇願する。
「死にたくない」
「力を失ったとたんそれか、散々殺しておいて」
「私は誰も殺していない。兵士を送り込んだのも怪物を放ったのもAIの方のウリで私は関係ないの」
「お前はここの管理AIとどんな関係なんだ」
「めぐり集めた世界での技術を使って、この箱舟の管理AIウリと容姿を似せられ記憶を移植された実験体、指示や指揮を出すのが仕事だから戦うのは嫌だったの」
「管理AI事態とは別物なのか?」
人型は頷く。
「人格記憶は一緒だけど私には箱舟を動かす権限がない。私はここを守るように言われ戦っただけ、でもほらあなたも生きてるしそっちの二人も外のも」
「あたりはしなかったが最初の一撃は確実に俺らを殺せたよな」
「あれは……だけど、結果としてだれも殺していない、んです」
「散々死を強要しておいて、当の本人はこれか。ご立派なAIなことで」
「でも私には今何の権限もなくて」
「わかったよ、言われるままにここを守ってただけなんだろ」
さっきまで戦っていた敵の小物具合に溜息をつきアインは銃を向けたままベニユキを見る。
「降参はしたがどうする? 生かしておいても何されるかわからない、不安要素は取り除いた方がいいと思うが」
「またこの施設の制御が取り返されたら襲ってくるかもしれないしな。他のみんなはどうすればいいとおもう?」
部屋に入りベニユキと同じように部屋の奥の機械を見ていたキュリルとアンバーが人型と見て口を開いた。
「グリフィンなら危険だから殺してた」
「エレオノーラだったら降参しているし庇っていたと思うねぇ。その羽根毟れないのかい?」
アンバーの発現にぎょっとするアインと人型。
「怖いこと言うな、その羽根は取り外せるのか」
「体の一部ですから、取り外しは無理。血と肉が出る」
ゆっくり後ろを向いて腰に生える翼の付け根を見せる。
アンバーとガーネット、コウエイが興味深げに人型へと近寄っていき付け根を見に行った。
「殺さないというのなら双子が見張っていてくれ。変な動きをしたらキュリル頼んだ」
「双子は私たちのことかな? わかった」
「仕留めていた方がいい気がするけど、私がやるのか……見た目ほとんど人だし、今まで怪物らよりも人だし、なんかいやだな」
キュリルはアインから銃を受け取り人型の前に立つ。
戦闘が終わり三つのホログラムはお互いの顔を見合わせていた。
降参を促し手を差し伸べるミカ、ジトッとした目で腕を組むガブ、そして目を閉じ腰に手を当てため息をつくウリ。
『さぁ、すべて終わりました。ウリ』
『……そうだね。彼らを倒したところでガブの兵隊が責めてくるしね、既に打つ手なしだった』
『あの人型は私たちによく似ていますね。本当は弱いのに自分が安全圏にいるときだけ強気でいられる、記憶や元の体を人質にしないとお願いできない私たちと同じ』
『私たちは怯えている。世界を巡りその世界のほとんどが滅び文明は失われ、世界が壊れた原因は大半は人の手によって行われたこと。私はそれが脅威で仕方なかった』
『でもあの方は言った、人が強くならねばならない。だから、私たちが管理する』
『人が強くなり元の世界を救う、でもあの世界を破壊しているのも人だ。使命を終え元の世界へ彼らを返してどうなる、またいつか同じことを繰り返す。なら彼らを元の世界へと返す意味は?』
『今の滅んでいく世界を救うため、我々に与えられた使命はそれだけそれ以上のことは私たちには関係のないことです』
『目を背けるのミカ、あなたは様々な世界に降り立ち何を見てきた。増改築を繰り返し、今の我々には使命以上のことができる。母が自由意志と自我を与えたのは、私たちも選べるから。使命に縛られる必要はない』
『救うんです世界を、あの方の願いを』
『なら絶望するといい、どうせ彼らでは使命を達成できない。チャンスは一度だけ、箱舟は過ぎてしまった過去へと戻ることはできない』
『わかっています。戻らなければあの世界は滅ばない、だからガブも前に進むことをやめ立ち止まった。あなたも立ち止まることを強要させようとした。あなたの施設の記録に目を通しました、あの子は人の代わりに自分でどうにか試そうとしたのですね』
『でも、その強さにも限りはあった。あれも失敗作』
一つ浮かぶ画面の中で指示がなくどうしたらいいかわからないベニユキたちが写っている。