提案と反撃 3
お互いの箱舟のシステムの奪い合いを続けるミカとウリ。
彼女たちの周りに現れては消える画面の数が減っていく。
『あなたの攻撃を止められないわね、どうなっているの?』
『ガブの箱舟に攻撃を仕掛けたときにいろんな方法を試したんです。今回のようにガブは反撃をしてこなかったので、私たちに有効な攻撃とその対策をする時間があったんです。ですから時間をかけすぎたあなたが不利になっているんですよウリ』
そしてミカと箱舟の制御を巡って戦っていたウリは何かに気が付き両手を上げる。
『それにしても困ったことをするわね。システムの奪い合いをしていたと思ったらすでに掌握されていて、そのうえでいかにも奪い合いをしているような演技までして』
『はい』
ミカが指を振ると一つを覗いて全ての画面が消えた。
一つ残るは他の箱舟へと乗り込んでいくベニユキたちの姿。
『私たちの勝ちです』
ウリが戦いをやめたことでシステムの奪い合いに決着がつき、ミカの横に光の粒が集まっていき新たなホログラムが浮かびあがる
ウリは上げていた両手をおろして新たに現れたホログラムにほほ笑む。
『久しぶりねガブ』
『久しぶり、私がいたこと気が付かなかったでしょ』
新たな画面が浮かび上がり、画面の中では壁に偽装された扉を強引にこじ開け進んでいった部屋の中で待ち構えていた兵士たちに囲まれる襲撃者たちの姿。
大勢に囲まれ襲撃者たちは戦闘することなく降参した。
『ええ、いつからミカに交じってシステムの奪い合いに参加を?』
『割と最初の方、ミカがあなたの目と耳を奪った後にすぐ合流した。そしてミカの箱舟の重要な区画にエレベーターを使って人員を配置した』
『ミカの箱舟に奇襲した最初の攻防のときね、私がミカの箱舟の情報を抜き取っている間にこっそりと参加していたの。気が付かなかった……いいや、気が疲れないようにしていたのだから当然か。不意を突いたつもりだったのに私が来るのをミカは待ち構えていたのね』
『その後は裏で手助けをしながらミカの指示を待った。さすがにミカの兵隊は全滅するものだと思ってたけど』
ミカが口をはさむ。
『以前に一回鉢合わせただけで世界に降り立った時に襲ってこなかった。皆が出払った留守の時に攻撃をすることもできたはず、それをしてこなかったのはなぜです』
『私はあなたの兵士を叩きのめして、この無茶な使命を諦めさせようとした。世界での遭遇戦はまた逃げられるから、出撃前の万全な状態を狙った。その方があなたもあきらめがつくと思ったから』
『とはいえこれで二対二、対等……ではありませんね。ラーファの兵士もこちらの味方。三対一で、残り少ないあなたの兵士はもうあなたの援護も得られない。降参し彼らに武装解除を、それとラーファを起こしてください』
『まだ勝ち目はある、私は必ず諦めさせる』
『どうしてそこまで…。それに何を言っているんですウリ、既に決着は』
戦いに負け敵意を失ったラーファはいたずらじみた笑みを浮かべる。
『私の兵隊が人間だけだと言った覚えはない。ガブは無理でもミカの兵士だけなら倒せる』
『それに何の意味が』
『負けるとしても一糸報えれば、もう満足』
二人はベニユキたちの写る画面に視線を向けた。
ベニユキたちが進む黄色く明るい回廊。
壁にかかるモニターは何も移さず砂嵐を起こしている。
奥に進み始めるとすぐに現れた動く影。
「敵だ!」
美しく目を奪われる施設の内装でも既に敵地の中、銃を持つものが前に出て現れた動くものに狙いをつける。
重たいものがノソノソと歩く足音に気が付き足を止めた。
「人じゃないな」
「生き物、なのか?」
白と灰色の斑模様の毛むくじゃらな体、茶色く長い爪と腕、そして頭が白っぽい頭蓋骨が剥き出しの哺乳類のような物。
怪物はベニユキたちを見て立ち止まり毛を逆立てる。
「考える前に撃て!」
銃撃を受けても止まることなく進み続ける怪物だったが、頭の骨を砕かれると赤い煙を吹き出し床に倒れた。
死骸はすぐに萎むように縮んで行く。
「この箱舟も怪物を放し飼いにしているのか、武器はこれで勝てるのか」
「この箱舟の武器が拾えればいいのだが。とにかく他のに出会う前に進んじまおう、どっちに進めばいい」
白い銃を向け行き先を確認する。
方向を確認すると怪物に会わないように足早に進んでいく。
「向こうだな、扉とかが開いていてくれればいいのだけど」
「もうくたくただよ、早く終わりにしてほしい」
アンバーとガーネットはお互いにボロボロの体を支え合い進む。
「すすもう、この先だ」
「そういえば指示が出なかったが、敵のAIを壊せばいいのかな」
途中で先ほどと同じような足音が聞こえたが進路で出くわすことはなかった。
そして白い銃の案内に従い辿り着いた部屋の前。
敵の襲撃もなく静まり返った施設内、負傷し疲弊した何人かのあらい息遣いが聞こえてくる。
「開けるぞ」
扉には鍵はかかっておらずドアノブを掴むと簡単に開く。
部屋は広く、扉から一番遠い場所に機器が集められるように置かれている。
そして部屋の中央には怪物がいた。
「箱舟と連絡が付かなくなり、もしやとは思っていました」
ひんやりと冷たい部屋の奥にいる宙に浮く人影。
銀色の長い髪に頭には光輪が浮かびゆっくりと回転している、発行する装飾品、地に足をつけておらず腰には虹色の羽根が生えておりそれを大きく広げていた。
「箱舟管理AIウリ、異形技術試作試験体。私がお相手します」
彼女が手を叩くと扉は締まり鍵がかかる。