背水の防衛線 6
通路の奥で襲撃者の姿がちらりと見えるが攻撃はしてこず、よたよたと歩くエレオノーラは撃たれることなくキュリルたちの方へと向かって行く。
「何かおかしいな」
「何がだ?」
「襲撃者は我々を殺そうとしている。それなのにエレオノーラ君が我々のもとへと返そううとしている」
「向こうで何かトラブルが起きて、その隙をついて逃げだしてきたのかもしれないだろ」
グリフィンは静かにエレオノーラに狙いをつける。
「待てよ、撃つ気かエレオノーラを?」
「俺の勘が、……いや普通に罠がとわかるだろ」
止めようとするベニユキを振り切りグリフィンは短く射撃。
一発で頭を撃ち抜かれた彼女は手をついていた壁に血を撒きその場に倒れ、手を差し出していたキュリルが驚いてしりもちをつきアンバーとガーネットが悲鳴を上げる。
「仮に罠だったとしても、なにか助ける方法が……」
「あったかもしれないが今はどうしようもない。それに」
づりふぃんが続けようとした矢先倒れたエレオノーラの胸元についた物体が大爆発し、壁に隠れていたベニユキたちも熱と衝撃に揺さぶられ倒れた。
「ばく、はつ!?」
「珍しい話じゃないさ。戦場では」
起き上がり爆発の衝撃から我に返ると、金属が擦れるような重たい足音が複数重なり合って迫ってきているのを感じとり武器を取り直す。
「さぁ、次が来るぞ!」
グリフィンの一喝に声に皆が黙って武器を構えなおした。
そして爆炎の中から飛び出てくる新たな敵。
直後に相手が何かを確認はせず一斉に射撃を開始するが相手は倒れなかった。
「頼んだぞ、その新兵器の力を見せてくれ」
新武装で身を包んだカノンとコウエイが前に出る。
手にはオートマトンの上に取りつけられているものと同じ重機関銃、持ってきたコンテナの一つから弾倉を取りだし取り付け構えた。
「戦います」
「こ、これ以上。誰もころさせない、です!」
引き金を引き重機関銃から放たれる弾丸。
二人は直撃した際ばら撒かれるであろう肉片を見ないよう顔を背けたり目を瞑ったりして射撃をしていた。
そして放たれた弾丸を射線を読んでアクロバティックにかわす敵。
「攻撃が当たっていない」
「狙ったとたんに避けているな予測している? 援護射撃が必要だ!」
銃撃を耐え抜き現れたのは光沢のある乳白色に塗装された身体の人型。
金属製にしたマネキンのような印象を受ける相手は6名だったが、そのうちの一人を一人奥に隠れ狙いをつけていたネシェルが撃ち抜く。
首を失った一体はその場に倒れるが、残りは素早くネシェルに気が付き狙われないよう素早く動き出す。
「あの動き本当に人か? さっきまでのやつらじゃないよな!」
「武装云々が変わったとかはないぞ! 人型だがそもそも人なのか?」
頭には虫の目の様にいくつものカメラが付いており、その一つ一つのレンズがベニユキたちを捕らえてピントを合わせた。
敵は二手に分かれカノンたち二機の強化外骨格の横を通り過ぎて、生身のベニユキたちを狙って向かってくる。
キュリルは咄嗟にバットに持ち替え人型の頭部を狙うが、敵は脅威の反射神経を見せ振られたバットを受け止めた。
腕が裂け中のワイヤーを束ねたような人工筋肉が膨張しバットを強く握りこむ。
「受け止めた!」
攻撃を受け止められたキュリルが目を見開く。
「攻撃の手を止めるな!」
グリフィンが叫ぶが今まで敵を破壊してきた攻撃を防がれ、驚きからバットを握ったまま固まるキュリル。
敵は彼女の持つバットを強く引っ張りバランスを崩したところに蹴りを入れる。
助けようとキュリルと敵との距離が離れたところにすかさずアンバーが追撃をしようとする敵へとむけて攻撃。
しかし、攻撃は弾かれ体の装甲に無数の引っ掻き傷をつける程度。
「腕が硬い! 足もだ!」
弾丸の威力では敵の体を後ろに下がらせることができたが倒せず、銃弾を浴びながらも起き上がろうとする敵に恐怖するアンバー。
「なんだ、なんだこいつも硬いぞ! 全然壊れない!」
「狙ってアンバー、関節を狙えばもしかしたら壊せるかもしれない」
だが、動きを止めたこともありコウエイの乗った強化外骨格の重機関銃が火を噴く。
何度となく怪物を破壊してきた重たい連射音を放つ銃は、アンバーと勝っていた敵と近くにいたもう一人の敵も巻き込んで粉々に砕かれる。
「やった、倒した!」
「早くキュリルを、まだ助けられるから」
アンバーはそういいつつガーネット共に、蹴りを受けうずくまるキュリルを引きずってその場を離れていく。
先に出てきた壊した3機を含む6名の後に現れた、10名ほどの更なる敵。
増援は体が一回り大きく、二メートルを少し超えるほどの逆三角形のシルエットをした筋骨隆々のような人型。
背中には自身の二の腕と同じ太い腕をぶら下げており、肩には小さい砲台が乗っている。
「追加が来たぞ!」
「まだ先のも処理できていないのに!」
大きな方の人型がカノンたちに向き合い重機関銃を放つ。
小柄の方が相手は飛び道具を持っていないようで、ベニユキたちにこぶしを握り迫ってくる。
咄嗟に銃床を振り回し拳をしのぐがそこで銃が壊れ、二発目の拳を防げず殴り飛ばされるベニユキ。
グリフィンが拾った手斧を掴み取り強く握って敵に振り下ろし拳を握った腕を破壊する。
「距離を取れ」
「助かった」
増援と合流し増えた敵にベニユキたちは押されていた。