背水の防衛線 5
襲撃者の攻撃を耐えきったグリフィンたちが工場から倉庫へと戻る準備をしているころ、強化外骨格を身に着けた襲撃者たちは仲間の大半を失いつつも次の攻撃に備えて準備を進めていた。
プラチナブロンドの女性が大型の散弾銃を手にしたものへと近寄る。
「捕まえたやつは何か話したか?」
「ええ、聞きたい情報はおおよそ聞けました。爪を数枚剥がしただけで知っていることは全部、向こうも自分の記憶を対価に無理やり戦わされているみたいです。すぐに話してくれたおかげでこっちもあまりこことが痛まずに済んだ」
「それで、殺したか?」
「まだ何かに使えそうだから眠らせて向こうに転がしてあります。指示ならば始末してきますが?」
「生体爆弾を付けて目が覚めたら返してやれ」
「わかりました。そちらは、大勢を犠牲にして何か?」
「戦力を削り指令等を見つけた、やはりAIのサポートがないとこちらの分が悪い。さて、聞きだした情報、お前の持っている情報とすり合わせをしたい」
「わかりました」
「時間稼ぎの階もあって、ちょうど増援も来たようだ。さぁ、役者を呼び込もうか。我々の記憶のためにも勝利を持ち帰らないと」
「私はあれが何か知らないですけど、気味が悪いんですよね。生理的に受け付けない」
増援の到着にプラチナブロンドの女性と話す襲撃者は被ったヘルメットの奥で笑う。
箱舟のどこかミカのホログラムは、姿のよく似たホログラムの前に立っていた。
実体のない彼女らは向かい合って宙に浮かべたいくつもの画面を見ている。
画面は目がぐるしく切り替わり続け、目には見えない工房の中で会話を始めた。
『どうして、攻めて来たんですか? ウリ』
『ガブの箱舟に襲撃をしておいてよく言うねミカ。当然、達成不可能な任務を終わらせるためだよ。人は脆すぎる、人のままでは無理なんだよ。効率的に行こうよミカ』
『ウリだけでなく、ラーファまでどうして……』
『彼女は答えないよ、私が乗っ取ったときにシステムを乗っ取って今はスリープモードになっているから。彼女の箱舟はこちらで操作している、最後まで抵抗していたからね。でもまぁ、ここも時間の問題。そしたら今度はガブのもとへと向かうよ、探索をあきらめたみたいだから放っておいたんだけどね、ミカと会ったことでまた動き出したから止めに行く』
『あなたも人の兵隊を連れているじゃないですか。人の脆さに失望しながらも、まだどこかで人を信じているのではないんですか?』
『いいや、前に使用した時に不評がすごかったから。完全に駒にしてしまってもよかったのだけど、なんでだろう。でも今はラーファの兵隊を改造して使ってる。やっぱり人ではない方が使い勝手がいい。ただ指示を出し駒はただそれに従う、これがベストな選択肢なんだよ』
『ラーファの兵隊に何を……したんですか?』
『見ていればすぐにわかる。ほら、ちょうど始まるみたいだ。見ていましょうミカ、そしてあなたも気が付くべきのです。やはり人で我々の目的を達成することはできなかったのだと』
『いいえ、あなたが何をしようと彼らは勝ちます』
『他の世界を回ていたのはあなただけではない。知っているでしょう、我々4名は滅んだ世界を巡り途絶えた技術を回収する。世界を救うには元の世界になかった技術、武器が必要になると』
『武器だけではなく人も必要なんです、私たちの母がそう言っていたではありませんか』
『その母も今は私の駒の一つ。記憶をなくし、私の言われるがままに動いている』
『……仕方ないことです。私たちに使命を託すとともに、私たちの指揮下、駒へとなられた』
『到底、達成することのできない不可能な使命を与えて。ミカに尋ねたいのだけど、人が強くなり元の世界を救う、これは達成できると思う?』
『できます、出来るはずなんです。だから我々はそれを信じ、彼らを強くするのです』
『そう、ならどうなるか。試してみましょう、ほらちょうど始まるよ、ミカ。人が勝つか人では勝てないのか』
ミカとウリと呼ばれたホログラムは新たに映し出した画面へと目を向ける。
それぞれが準備を進める中ベニユキたちも作業ロボットのような強化外骨格に身を包んだコウエイとカノンを先頭に工場から倉庫へと進む準備を進めていた。
「攻めてこないな?」
すっかり静まり返り自分たちが立てる音だけが響く。
ベニユキは黒い機関銃を持ち倉庫へとつながる道の前で耳を澄ませていた。
「案外撤退したのかもしれないな? こちらも偵察に使えるものが欲しいな、通信機もないし情報不足は不利だ」
「戦いが終わったのならあのAIから何らかの連絡があるだろ?」
グリフィンとブラットフォードも傷の手当てを受けて武器を構え敵の襲撃に備えている。
「足音がする」
銃を構え通路を覗く。
壁に手を突きながら走ってくる茶色い髪の女性の姿。
「エレオノーラ!」
キュリルが手を招き彼女を呼ぶ。
彼女の胸元には機械の部品のような物が体に食い込むように取りついており、エレオノーラはそれを苦しそうに抑えていた。