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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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ダンジョンからの脱出 2

 

 ベニユキたちはグリフィンたちと合流すが、非常階段の前で立ち止まっており逃げようとはせず息を切らしたマルティンが訪ねる。


「どうして上に行かない?」

「どうやら鍵を掛けられたようでね、開きそうにない」


 テオが突撃銃の銃床でドアノブを叩いており扉を破壊しようとしている。


「どうして!?」

「タリュウ君だろうね、キュリル君が止めてくれると思ったけど流石に無理だったか」


「どうするんだよ、他に逃げ道は」

「ないな。この扉は頑丈で、銃で破壊できる類ではない。いまテオ君に開けてもらっている」


「開くのか?」

「無理なら普通の道を探すまでだ」


「落ち着いてるな」

「慌てても仕方がないだろう。見えないかもしれないが、これでも焦ってはいるよ」





 ――



 ベニユキたちが地下に閉じ込められている頃、階段を上がり上の階が崩れているところまでくると通路に出て上に向かう道を探すタリュウ。


「ほら早く行け!」

「でも……まだ、ベニユキさんたちが」


「うるせぇ、口答えするのか!?」

「……ごめんなさい」


 タリュウはエレオノーラたちに銃を向け彼女たちを歩かせる。

 音を立てないようにバットを構え一番前を歩くキュリルは振り返り尋ねた。


「目的のものを手に入れないで、どこに行く気なの?」

「ああ? 決まってるだろここから離れるんだよ! こんなところ、にいつまでもいられるかよ!」


「でも記憶が」

「いいんだよもう、死ぬよりかはましだろうがよ!」


「静かにしてくれないと怪物が襲ってくるんです」

「だったら俺をこれ以上苛立たせるなよ!」


 怯えるエレオノーラの手を握るテンメイが尋ねた。


「逃げたいなら、一人で逃げれば? どうして私たちがあなたについて行く必要がある?」

「お前たちは俺が守ってやるからついてこい」


「いままさに守られてないんだけど?」


 銃床で額を殴られテンメイはよろめく。

 額を斬り血が流れるテンメイを心配するエレオノーラ。


「テンメイ!」

「いいか、口答えするな。俺を苛立たせれば怪我するぞ」


 怒鳴り続けるタリュウを睨みつけるテンメイとキュリル。


「外は知らないけど、こんな怪物がうろつく世界で生きていけるとは思えないけど?」

「うるせぇって言ってるだろ!」


 先頭を歩くキュリルは足音が聞こえ足を止める。


「誰が止まっていいって言った!」

「足音、ちゃんと周りに目を向けてよ」


 相手はまだ遠くにいるにもかかわらず4人が少しばかり見上げるほどの巨体。

 贅肉とも筋肉とも言えない縦にも横にも膨れ上がった巨大な人影で、周囲には無数の蠅が飛び紫色の体に留まっては飛び立ちを繰り返す。

 猫背で首も肉に埋まり頭より太い腕をだらりと垂らして歩いてくる巨体を見て4人は後退りする。


「嘘でしょ、天井に頭が当たるほど、何あの怪物!?」

「でっかい怪物!」


 近くの部屋に入ろうとしたが扉が歪んでおり、人が入れるような隙間すらあかない。


「何してるの早く入って!」

「開かない、開かないの!」


 扉が開かないとわかると手にした黒い機関銃を撃つことなく無言で走って逃げだすタリュウ。

 エレオノーラとテンメイをかき分けキュリルが前に出ると扉を手にした棒で叩く。

 音を立てて隙間を拉げ何とか扉は人が入れるほどに開く。


「早く入って」


 巨体は走れないようでのしのしと体を揺らして迫ってきている。

 部屋に入ると奥まで進みキュリルは壁を叩く。

 大きな音に驚き不安そうな顔をする二人を背にキュリルは壁を叩き続けた。


「なに、してるの?」


 足音は近づいてきておりエレオノーラとテンメイは祈りながら白い銃を構える。

 何度となくキュリルが棒を振っていると壁にひびが入り、そこをさらに強く打って穴を開けた。

 あとはそこを広げるように叩いていき、人一人は入れるほどにまで穴を大きくすると反対側の部屋に三人は逃げ込む。


「ありがとう」

「いいよ、おでこ大丈夫?」


 息を少し切らせ汗をぬぐうキュリル。


「私はテンメイよろしく」

「私はキュリル、お互い災難だったね」


 彼女はテンメイと握手を交わし、続いてエレオノーラとも自己紹介をして握手を交わす。


「彼は?」

「逃げた、一人でね」


「頼りにならない男だ」

「最初見た時にわかってた」


 壁の穴から向こう側を覗くキュリル。

 ちょうど巨体が部屋の前まで来たところで慌てて頭を引っ込める。


「誰かいませんあ?」


 歪んだ扉を軽く押しのけ怪物の巨体は部屋の中を覗き、呂律のまわらない口で言葉を発した。

 その声にビクリと体を震わし3人は身を寄せ合う。

 体子と首を動かし中を確認して部屋に誰もいないとわかると巨体はまた通路を歩きだし去っていく。


 息を吐き壁にもたれかかるキュリルに声を潜めてエレオノーラが声をかける。


「壁に穴を開けられるだなんて、すごい力ですね」

「この棒、なんか振ると威力が増すみたい」


「ただのバットじゃなかったんですね」

「それでも全力で殴ってやっと穴が開いたんだけど、地下の壁は固いね壊せてよかった。ガラスの壁とかなら一発で粉々なんだけど」


 血が止まらない額を押さえ壁に空いた穴を見るテンメイ。


「これならあの怪物とも戦えるね」

「なら、変わってくれる?」


「……ごめん嘘。戦えない」

「グリフィンたちが助けてくれなかったら、私も死んでた。助け合いは大事だ、私たちも協力していこう」


 テンメイとエレオノーラは頷く。

 エレオノーラは持ってきた水をキュリルに渡すと順番に水を飲み三人は大きく息を吐いた。


「これからどうする」

「私は戻ってグリフィンたちに合流したい」

「私もベニユキさんたちの元に戻りたいです」


 少し休んでキュリルはバットを握って立ち上がり床を叩きだす。

 何度か叩くと床は壁より脆く簡単にひび割れ崩れ落ちる。


「戻ろう、非常階段の位置は変わらない」

「あとは下に階にいる化け物に出会わないようにするだけ、か」

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