襲撃 4
テンメイのエレオノーラたちは女性たちだけで集まりキャッキャと騒いでいた。
エレオノーラは振り返り皆の姿を見る。
「新鮮です。みんなで集まることなんてないですからね。ブラットフォードさんも来ればよかったのに」
「集まるとこれだけいたんだね、これからは私たちだけで部隊でも組もうか!」
「何でしょう、戦いが始まったらみんなで逃げ回るような気がします」
「ただみんな集まって背丈も大きさもあまり変わらないっていうね」
「不思議ですね、こうして集まるととびぬけて背の高い人も低い人もいない」
「見上げたりして首が疲れないくていいよね」
「普段みんなバラバラだったからあまり気が付きませんでしたけど、集まると意外といますね」
「目につくみんなを誘ったからね。ブラットフォードをいれれば私たちは十人、初めましての子もいるよ。あいさつするタイミング忘れてたや今ここでするか」
「テンメイは自由ですね」
テンメイの紹介で皆の後ろの方で、なぜ自分が呼ばれたのかよくわかっていないものたちに注目が集まった。
中世的な顔立ちの糸目の女性は皆の視線が集まると背筋を正し挨拶をする。
「皆さま初めまして私の名前はカノンです、上の名前は思い出せません。それで、急に呼び出されましたが何でしょう? どこに向かっているんです?」
尋ねるカノンの問いに素早くテンメイが答える。
「お風呂、今日は時間があるみたいだから。みんなで入りたいねって話してて、入るなら箱舟が壊れている今しかないと判断したの。戦闘に行くと必ず誰かが怪我をするから」
「それで私たちにも声をかけたと?」
「そう、一緒に戦ってた仲間だもの」
「と言われても、あまり記憶がなくて。それだけ私が死んで来たということなんでしょうが」
「安心して、みんな何回か死んでるから」
「笑顔で言われると少し怖いな」
腰まで伸びた長い髪をまとめることなくボサボサした猫背の女性が、注目を受けて視線をそらしがちに頭を下げる。
「へ、へへへ、コウエイです。よっよろしくです。皆さまとは、なっ仲良くしていけたらと思ってます」
視線に怯えるように後退りするコウエイにエレオノーラが手を差し出す。
「よろしくお願いします、辛いことも多いですが何とか乗り越えていきましょうねコウセイさん」
「よよよよよろしくお願いします」
握手を交わすとアンバーたちも二人に簡単な自己紹介をして一同は赤い暖簾のかかった部屋に入る。
暖簾をくぐりエル字の通路を進むと脱衣所になっていて、それぞれが棚に置かれた籠の前に立つと服のボタンに手をかける。
キュリルとネシェルは服を脱ぎながら。
「さっき服を着たばかりなのに、もう脱ぐなんて」
「お風呂に入るってわかってたら裸でうろつく気だったの?」
「そんなわけないでしょ。服を着るときに、さぁ戦うぞという気持ちでボタンを閉めたんだ。気持ちが緩んでしまう」
「快適な睡眠で疲れが残らないとはいえ、毎日の戦闘は本当に気が滅入るもの。今日はこのまま戦いになんてならなければいいのに」
「それはあのAIが許さないでしょう」
「確かにそうですけども、こんな時くらいは忘れたいな」
服を脱ぐと順に浴場へと入っていく。
いくつもある湯気の立つ大きな湯舟を見てエレオノーラが尋ねる。
「まさかとは思うが常にお湯が沸き続けているわけではないですよね? 水道代すごそう」
「知らないよ、でもいいじゃんお風呂には入れれば。いつでも入れるよ」
「戦いに無事勝利して帰ってこないと入れないから、何回は入れるかわからないけどね」
「みんなで入るってのも今回だけなんじゃないかな」
ワイワイと話しながら皆が体を洗い湯船につかる。
背中を洗い合いを行っていたアンバーとガーネットを最後に、十人で一つの浴槽に入ると大きな湯舟も湯があふれ少し手狭になった。
近くにいたコウエイに話しかけた。
「しかしまぁ見事に体つきに変化がないね。こういう時って体を見比べてキャッキャするもんじゃない?」
「わわわわかりません。でっでもなんで、みんな同じ湯船に? 他にもいくつかあるのに、ジャガイモ洗いの場みたいになってますけど」
「コウエイは髪長いね、短くしないの? 元の世界でも髪の長さはそれくらいなの?」
「そそそうです。私、あまり自分の容姿を確認しないもので、髪とかも放置してました」
「髪洗うのも乾かすのも大変でしょ。ミカに言えば起きたときの髪型何とかしてくれるよ」
「へへへ、髪長いほうが落ち着きまして。髪に手間かけるのも嫌いじゃないんで」
皆が積極的に新たに加わったカノンとコウエイへと話しかけ親睦を深めていると、テンメイは立ち上がり皆を見回す。
「みんな元の世界の記憶はある?」
「はい、夢で前の世界のことを思い出したりもしました」
「元の世界での仕事、大事な家族、こんなところでこんなことをしているはずじゃなかった」
「どうしてここにいるかわからないけど、元の世界は大変なことになっていた。それは記憶を返され思い出しました」