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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
3章 --刹那を刻むアルヒェエンゲル--
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襲撃 2

 病室はベニユキ以外にも数人全身を包帯で巻かれ点滴や心電図のような機器をつながれ寝かされ、ルナは落ち着きなくベニユキのそばでうろうろとしている。


「どうしよう、ごめんね私を庇って。私が作ったAIのあの子らを回収したいだなんて無茶を言ったから腕と足が……」

「ルナ、お前の怪我は?」


「大丈夫、ユキが守ってくれたから軽傷で済んだんだよ」

「お前が無事で本当によかった」


「私が、私が無茶なことを言わなければ!」

「それは、言っても仕方ないだろ。俺がいなかったらお前が死んでいた、俺を残していくな」


 パイプ椅子に腰かけベニユキに話しかけていたが病室に手押し車を押した老婆が病室に入ってくるののを感じて振り返る。

 背は曲がっておらずぴしっとした老婆の方もルナの方を見て軽く会釈をした。


「おや、見た顔だねぇ。まぁここに来る前にも何人かいたけど話せる状態は君が最初だ」

「あ、どうも……」


 知り合いの様でルナも老婆に向かってぎこちなく頭を下げる。

 老婆は一人の怪我人のそばまで行くとよいしょと声を出して近くにあった簡素なパイプ椅子に腰かけた。


「臓器再生錠剤や細胞増殖薬、保肉クリームなどの量産が行われていればもう少しこの光景も柔らかいものになっただろうに」

「そうですね、でもまぁ素材の調達がネックでしたから」


「異界のことかい? 時間がネックになるならあんたのところで開発していた人工知能を乗せればいいのさ」

「異界ではなく並行世界です、何かをきっかけに異なる発展を遂げた同じ地球ですアンバー様」


「どうだっていいさ、人が住んでいる世界は発見できたんだったか」

「そこまでは……私も別部署の人間ですから。技術情報の話は流れてきていましたが」


 老婆は押してきた籠からコードの伸びたヘルメットのような物を取り出し、後から取り出したクリームをヘルメットの内部に塗り付け一つ一つが封をされた除菌シートでクリームを伸ばしながらぬぐう。

 そして寝かされている患者の頭に巻かれた包帯を外すとそれをかぶせる。


「君らも使うかい? 私の愛する娘の記憶分のメモリーカードを抜いてもメモリーカードに余りがある、基盤剥き出しの物をポケットに入れて持ち運ぶわけにもいかず、全部が入っているカードケースごと持ってきたからね」

「えっ?」


 籠の中にはコードの繋がる四角い機械の箱がありそれを老婆は膝の上に乗せて操作する。

 ボタンを操作し、機械は静かにファンが回りだす音がし始め、怪我人にかぶせられたヘルメットは青い光を灯す。


「記憶保管器……どうしてそれを?」

「別に変な話じゃないだろう、ここは病院だ企業の支援も受けている。まぁ、保管されていたのはここではなく別棟だったから少し歩いたけども、この子が命の危険がある怪我じゃなくて考える余裕はあったよ。いやぁ最新型は軽くとよかった、旧型だったら人目に付き一人じゃ動かせなかったからね」


 老婆は救急箱のような取っ手のついた箱を開ける。

 中には何十枚もの薄いプレートのような物が本棚の本のように隙間なく並べられ入っていて、その一枚取り出し膝の上の機械に差し込む。


「さて、後は記憶が転写し終えるのを待つだけか」

「私が借りたとして、でもそれだけでは」


 老婆は自分の片耳の補聴器のようなを指さし彼女は話を続ける。


「戦闘部隊の盗聴していたがすでに戦闘は絶望的なようで、襲撃者の排除ではなくレベルの高い権限をより多く非難させる方へとシフトしたようだ」

「ただのテロリストに負けているのですか?」


「現在別の対抗手段を上層部は考えている。まぁ放っておけば世界を滅ぼしかねないし、今回の襲撃は過去のものとは違う。世界全国に影響を与える一企業の本社を襲撃したんだからね。この国の治安維持機構と世界中の軍隊も動き出す」

「テロリストにそこまで……」


 大きな揺れとともに窓の外で爆炎を伴うキノコ雲が複数空へと伸びていく。


「相手がただのテロリストなら問題はないさ。問題はただのテロリストではないということ。彼らは別支部で研究されていた兵器人間の感性に近い実験体、それと襲撃して回って集めた最新兵器と異能技術。彼らはその両方で武装した怪物たちさ」

「そうならないように支部は分割されて兵隊で守られていたんじゃ。そう、危険な実験を行っていた設備ランクの高い会社は戦闘ドローン部隊も……」


「残念ながらそれでは止められなかったようだ。そこの部分は完成したということだろう、最強の兵隊に最強の玩具の数々を手にしこの本社を叩きに来た。考えても無駄だろうが目的は何だろうねぇ」

「自分を人ならざるものした復讐、ですか?」


「知らないよ。私らは巻き込まれただけさ」

「終わったら、記憶保管器を貸していただけますか?」


「ああ、かまわない。私ももうすませてある。彼の後に君も自分に使うんだよ、数日のうちにこの国は地図から消えるだろうから、それまでにはアーク計画の研究棟には向かいたいね」

「研究等に、なぜ?」


「今からだとどこも人でごった返していて国外へと逃げることはできないだろう、箱舟にこのデータだけでも乗せるのさ。他の協力者が準備を整えているよ、君にも協力してもらう。具体的には私の代わりに研究等に走ってもらいます、そのころにはあらかた破壊し尽くされて敵も興味を持たず安全に進めるでしょう。私は歩けはするがこの年になると走るのはどうもねぇ」

「わっ、わかりました。」


 痛む体を動かしベニユキは声を絞り出す。


「だ、ダメだ、ルナ……」


 ベニユキの無事な方の手を取るルナ。


「大丈夫だよユキ。少しだけいってくる」


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