襲撃 1
戻ってくる飛行船の攻撃をやり過ごし町を抜けエレベーターへと戻ってくる。
「さっさと帰ろう、これ以上の戦闘は不毛だ」
「戦いはそもそも不毛だよ」
ギルベルトとテオが運んできた箱を乗せ皆がエレベーターへと乗ると、エレベーターは撤収を始めた。
外の景色が消えると皆が大きく息を吐いて手にしていた武器を床に落とす。
「疲れたなぁ。大丈夫かエレオノーラ? さっきよりは顔色も良くなったか」
「はい、落ち着きました。みんな死んでしまって私一人だけで心細かったんです。空から落ちてくる塊に、頭部の損傷は即死で私じゃどうしようもなくて」
「死んだみんなは記憶がないから、エレオノーラも忘れるべきだ。上に戻ったらすぐに休むべきだな」
「はい……、そうさせてもらいます。今日はみんなで帰れると思ったんですけどね」
少し冷静さが戻ったのか身分の仕事を思い出したかのようにホルテンに怪我の様子を見に行く。
そしてベニユキはエレベーターの隅に座るアンバーに声をかける。
「大丈夫か?」
「ああ、まぁ……心配してくれてありがとう。……でも、今は一人にしておいてくれないかい? ガーネットがいなくて頭が真っ白なんだ、今話しかけられてしまうと泣いてしまいそうなんだ。ほうって、おいて……くれ」
そっとアンバーから離れキュリルとともにいるグリフィンのもとへと向かう。
「今回も大きな被害が出たな」
「ああ、だが皆武器の扱いに抵抗は無くなり以前より意欲的に戦ってくれるようにはなった。一長一短で武器の扱いが上手くなるとは思っていないが、今まで逃げ腰で戦っていたものが覚悟を決め前に出てくれるだけでも十分だ。戦士の素質を得た」
エレベーターの中心に光の粒が集まりミカが現れた。
彼女は運んできた箱に目を向け頭を下げ感謝をのべる。
『皆様本日もありがとうございました。持ち帰っていただいたものはその場に置いておいてください。命にかかわるような大きな怪我をした人たちはすぐに部屋に戻って眠りについてください、死んでしまう前に記憶をこちらで保管いたします』
ギルベルトとネシェルが睨みつけるがミカは気にする様子はない。
エレベータが礼拝場へとホルテンはエレオノーラに支えられながらよたよたと舞台を下りていく。
戦闘で疲れたテオやギルベルト、アンバーたちも俯き舞台を降り足取り重く自室へと戻っていった。
軽傷だったグリフィンとキュリルが横の扉から食堂へと向かって出ていき、ベニユキも腕の怪我があるため休むために自室へと向かった。
『お疲れ様ですベニユキさん』
部屋に入ったベニユキの前にホログラムのミカが立っている。
「どうしてここにいるんだ?」
『少しお話がしたくて、少しだけお時間よろしいでしょうか?』
「腕を割と大きな怪我をしているんだが」
『数分ほど、それほど時間を取りませんベニユキさん』
「傷が痛むから早くしてくれ」
『現在箱舟3号は何者かの追跡を受けています。気が付いたのは皆さんが世界へ通りている時に妙なノイズを検知したことから。おそらくは他の連絡の取れていない箱舟の誰か……あるいは我々の敵のどちらか』
「敵?」
『詳しい話は、次に皆様が目覚めたときにしようと思っています。ですがおそらく次降り立つ世界で彼らと戦うことになるでしょう、人との戦闘はまだ早いと思っていましたが覚悟を決めてください。話はそれだけです、それではごゆっくりお休みください』
「人か……。どうしてそれを俺に話すんだ?」
ミカからの返事はなくベニユキは睡眠カプセルの中に入り眠りについた。
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ふと気が付くとベニユキは横になり何かに乗せられどこかの建物の中を移動していた。
体中にひどい痛みを感じながらも何が起きているのかを確認しようと起きようとしたが何かで拘束されているため身をよじることすらできず、かろうじて指先や視線が動かせる程度。
しかし腕も足も一部がまるで感覚がなくベニユキは起き上がるのやめ視線を動かす。
「……ここはどこなんだ」
声もうまく出せず掠れるような声が出る。
その声に反応しルナが顔を覗き込んできた。
「ユキ? ユキ! 気が付いたんだね、よかった。今病院についたから、助かるからね! ここは私の働く会社の支援を受けている最新設備が揃った病院、権限ある立場なら優先して設備を使わせてくれるから」
涙声で叫ぶルナ、彼女の服もプラチナブロンドの髪も泥と血で汚れており、そこでベニユキは担架を乗せられ救急隊に病院内を運ばれていることを理解する。
病院内は人が多いようで子供の鳴き声と大人の怒号があちこちから響いており誰かの血で汚れた看護師たちが駆け足で足りまわっていた。
茶色い髪と目をした女性看護師が駆け寄ってきてベニユキを乗せた担架を運ぶ救急隊に尋ねる。
「患者の状態は!」
「意識を取り戻しましたが血は止まりましたが片腕と片足を失い、臓器にも少なからず損傷が見られます」
「わかりました。ご苦労様です彼をこちらの部屋のベッドへ」
担架は病室へと通されベニユキはベットへと移された。
治療室ではなく病室へと案内する看護師へとルナが詰め寄る。
「待ってください、この状態を見てユキはすぐに治療が必要なんです!」
「わかっています。ですが手術室は現在埋まっており今は応急の手当てだけで精一杯なんです。ですがまだ痛み止めも化膿止めもあります、あるのは今だけでいつまで持つかわかりませんが」
「手足をつなげないとまだつながるはずです! 私はレベル3権限を持つ研究者だ! お願いだ、これでどうにかならないんですか?」
「いや、あの。ごめんなさい……手術室はレベル6権限を持つ方々を優先して……治療しておりますので……その後もレベル5権限の方々も控えていて」
「レベル……6? 役員レベルの方々もここに?」
「あの、外はどうなっているんでしょうか。時間とともに怪我人が増えていて、すでに一日で対処できる数ではないんです。患者はみんな本社の関係者ですし」
遠くで聞こえた大きな音とともに病院全体が小さく揺れる。
病院内にいる者たちの不安の悲鳴と鳴き声が重なり合う。
「エレオノーラ、すこしいいか」
「先生」
体格の良い大柄の男性看護士がやってきてルナと話していた看護師を呼ぶ。
彼女は呼ばれて部屋を出て行き小声で話し始めた。
「新たな患者だ、会社の大株主のタリュウ殿が避難中に負傷しこちらに来られるという連絡が入った。8番手術室を開けるのを手伝ってくれ」
「え、でもこれからあの患者さんの状態の確認を……、それに今確か8番は開発部局長の息子さんが手術を受けていませんでしたか?」
「ああ、だが今治療を受けている方々の中では……一番権限のレベルが低い、あの子には悪いが院長の決定だ、指示に従ってくれ」
「ホルテン君、あの子まだ子供なのに……」
看護師たちはゆっくりと歩き出し部屋を後にしていく。