鉄と熱と蒸気 5
ベニユキは壊れた戦車を見上げ砲塔に腰掛けるキュリルを見上げた。
「目的のやつ壊したんじゃないか?」
「そんなこと言ったって、まずは動き止めないといけない。必死なんだよ、怪我大丈夫? 血がすごいけど」
「脚の一本がかすっただけだ、傷は大きいが浅く腕もこの通り問題なく動く。止血して止まるといいんだが」
「早く手当しなよ、せっかく生き残ったんだから。また昨日みたいに帰る前に死んじゃうよ」
服が裂け腕から勢いよく血を流しているベニユキと軽く話すと、剣を引き抜き彼女は車体の上から屋根の上で戦うテオを見上げる。
白い銃を構え目的のものを探すネシェルと目が合うベニユキ。
「血がすごいね、気が遠くなるからあまり見せないで。くらくらしてくる」
「悪いな、ここ数日の戦闘で血を見ると悲鳴を上げたり倒れたりするやつがいるってのを忘れてた。向こうに行ってるよ」
「ギルベルトから借りたこれで調べるから、そっちで休んでなよ」
「任せる。向こうで手当てするから人手が必要なら呼んでくれ」
「いいよ、怪我したんだからホルテンと一緒に休んでて」
ギルベルトはホルテンをある程度の距離まで話すとテオと同じように飛んでくるグライダーを狙って射撃を始める。
引きずられてきた負傷したホルテンにアンバーが声をかけた。
「手、大丈夫かい? 火傷してないかい?」
「しました。痛いけど、大丈夫っす!」
「あはは、我慢できるなんて強いね。しかしこれは酷い火傷だ、早く戻ってエレオノーラの治療を受けた方がよさそうだね」
「そうっすね、大丈夫って言ったけど……痛み止めも欲しいっす」
疲れたのか力なくどさりと崩れるように座ったホルテンの赤く爛れた腕を見て、アンバーは救急箱を取り出す。
「冷やせるもの……はないか。まいったね、川の水なんて使ったら感染症とか怖いし……あ、軟膏がある。効能……火傷に……効くな、よしよし。よし、手を出してくれ」
「優しくお願いします」
封に入った刷毛と軟膏の入った容器を取り出す。
そこにベニユキがやってきて血を滴らせる彼を見たアンバーは驚き治療の手を止めた。
「終わったら俺の手当ても頼んでいいかアンバー」
「そっちも痛そうだ。一応道具はある、私は擦り傷程度しか治療できないんだけど。どうすればいいかを言ってくれれば手伝えるんだけど」
「なら頼む。今までどこに居たんだ?」
「戦いながら川を目指していたよ、白い銃もなく小道に入ったことで方向感覚がなくなってしまってうろうろしていたけども、ガーネットがいないと私は駄目だなぁ」
キュリルと銃をおろしたネシェルが戦車の上に上り白い銃をかざして車体を切り開いて中をあさる。
歯車をかき分けその奥にある箱に白い銃は反応していた。
「銃が反応してる、壊れてないみたい。あの奥の箱っぽい奴みたい」
「よかった。取れる?」
「難しい、この歯車が邪魔して引っこ抜けない。何コレ、こいつゼンマイと歯車だらけオルゴールか何かなの?」
「すごいびっしり詰まってるね。どうやって作ってるんだろ。というか何で動いてたんだろう」
「感心してないで、奥の箱を取り出す方法を考えてよ」
「周りの歯車ぶっ壊して引き抜けばいい」
「一つ一つが金属の塊だからくそ重いんですけど」
「これ鉄? にしては少し軽いけど、なんだろ合金かな興味ないけど」
歯車に守られた箱を取り出そうと彼女たちは戦車の下に向かって金属の塊を投げ捨てる。
二人で引き上げる機械の箱。
水のタンクと繋がっていたためか箱からは水が滴っている。
「これが機械頭脳なの?」
「どうでもいいよ重いし。だれか男の人―、重たいからこれ持ってー」
「あの銃を背負っておいてよく言う」
「あれ背負って帰るんだから、重たいものは落ちたくない」
屋根から降りてきたテオとギルベルトがその箱を受け取り地面に降ろす。
銃を背負いなおしギルベルトが箱を見て悪態をつく。
「重いな、取ってもないし持ちずらいな」
「一人でもてる重さじゃないし二人で持つしかないか。ここからまた山を登っていくんだろ、気が遠くなるな」
「他に持てるやつ……は怪我したか」
「あの二人は船を止めたんだから大目に見てやっていいよな」
「他に生存者はいないか?」
「いたら白い銃なり戦闘音なりで、向こうのアンバーみたいに合流してくるだろ」
空の彼方がきらりと光るのを見つけ、ホルテンは怪我をしていない方の腕で空を指さす。
「あの、何すかね、あれ?」
太陽の光を受けて光を反射する銀色のレモン型のものが五つ空にいた。
まだ距離は遠く空飛ぶ何かの大きさはわからないがプロペラを回し迫ってきていた。
「空飛ぶ魚かな?」
「んなメルヘンな」
二人の治療を終えたアンバーが救急箱を閉じ空を見上げ首を傾げる。
次第に大きくなってくるプロペラの音。
「航空機、にしちゃ丸いか?」
「銀色で目立つけど、かわいいものには見えないね」
大きさを比べることができない空を飛んでいたが、次第にそれが船のような巨大なものだとわかりはじめ慌てだす。
下部には機械兵らしきものが数機ぶら下がっていて、ようやくその大雑把な大きさを知ることになる。
「何呆けてるんだ。飛行船、でかいぞ」
「撃てば落ちる」
ネシェルが銀色の塊に向けて撃つが、船体は損傷した様子はなく進路を変えることなく真っすぐ向かってくる。
「また、耐熱……なんだよ急に、もう」
銀色の飛行船は編隊を組み十字に並ぶ。