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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
3章 --刹那を刻むアルヒェエンゲル--
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鉄と熱と蒸気 4

 砲弾は建物の壁を貫き消えていく。


「爆発しない分、避けさえすれば大丈夫っすね」

「当たれば彼みたいになるけど」


 テオは一人建物の中へと向かって行き、ネシェルとホルテンは前面についた虫のような足の動きと側面と上部に乗った砲塔の動きに気を付け走り続ける。

 足と履帯を動かし後退を続けながらすぐにまたシリンダーが回り次の砲弾を用意する戦車。


「ガラクタが」


 皆から距離を取ったネシェルが狙いを定め引き金を引くと戦車の砲塔の一部が赤く光る。

 しかしそれだけでゆっくりと黒へと戻っていく。


「あのでかいのたい、ねつ……なの」


 顔をしかめ彼女は再度狙いをつけ引き金を引いた。

 照射式で同じ個所に当てれば当てるほど相手に熱を溜め込ます銃。

 砲塔どころか足の一本まで熱に高い耐性を持ちネシェルの攻撃はすべて無力化される。


「なんでよ!」


 攻撃が通じないとわかると彼女は銃を抱えてその場を離れ町の中へと消えていった。

 地面に足を突き刺すとレンガの合間から蒸気が噴き出て石畳がめくりあがる。


「足元が、ゆれて!?」

「足を止めないで!」


 戦車は浮き上がったレンガをいくつもある細い足で蹴飛ばしホルテンはうめき声をあげて倒れ込む。

 手を伸ばし彼を引き起こそうとしたが、戦車の砲塔の動きが止まったことで諦め回避に動く。


「こっちにこい、俺が踏み台になるからあの足を飛び越えろ!」


 ギルベルトが叫び彼女はホルテンも必死にめくれ上がったレンガを蹴って横に飛んで二発の砲弾を回避した。

 ちらっと空に翼を広げ白い尾を引いてこちらに向かってくるグライダーが複数見えキュリルは舌打つが、そこに建物を登ったテオが屋上からグライダーへとむけて発砲するのを見る。


 ベニユキは何とか戦車に取り付こうとするが十本の足と側面の砲塔がそれを妨げ近づくことを許さない。

 ふと舵を壊し船がこすっていった川岸が、崩れて川底を埋め人がぎりぎり下りられるような斜面になっていることに気が付く。


「これなら、行けるか?」


 ベニユキは側面砲塔が狙っている中、川へと向かって飛び降り水にくるぶしをつけそっと戦車の近くへと近寄っていく。

 川へと降り見えなくなったベニユキを警戒してか町の方を向いていた戦車はぐるりとその場で旋回し川の方へと向かって虫のような足を延ばす。

 姿は見えていないようでベニユキを手探りで探しており、一本一本が地面を耕す鍬の様に振り下ろさ柄れ続ける。

 そんな中での三度目の砲撃。

 砲撃の反動で戦車の近くに複数のひび割れが起きる。


「このまま撃たせれば、足元が崩れて川に落ちる」

「どうせまた這い上がってくるぞ?」


「それでも隙が作れるのは大きいだろ皆の生存性にもつながる」

「倒せないと意味がないことわかっているか?」


 キュリルとギルベルトがそんなことを話しながらも足に警戒し、ギルベルトの組んだ手に足を乗せ打ち上げるようにキュリルが飛びあがろうとしたところで四発目。

 狙いはキュリルたちではなかったようで、二人は後ろでドミニクの命を散らす。


「振り返るな、敵を見てろ!」


 上部の砲塔がキュリルを狙って砲を上にあげていると、そこに機械兵の足が飛んでくる。

 足一本で砲塔は回転を止めることはなかったが、直後にその足は赤く光って溶けだし砲塔と車体の間、それとリボルバーのシリンダー部分に溶けて流れ込む。

 溶けた鉄が冷えて固まり始めると砲塔の動きが悪くなった。


「大砲は封じたよ! あとは任せた!」


 そこに一気に距離を詰めるホルテン。

 同じく駆け出すキュリル。

 戦車は多方向から攻めてくる相手の脅威を計りどれから相手をするかの計算に入り一瞬止まる。


「たぁぁ!」「いっけぇぇぇ!」


 側面の砲塔の動きに注意しながら接近し振り下ろされる光る刀身が金属の体を溶かし奥深くに食い込む。

 熱に耐性があり今まで戦った怪物たちのどれよりも硬かったが、それでも剣はゆっくりとその平らな装甲にねじ込まれていく。


「硬い、力のかけ方間違えたら折れるかも」

「気合っすよぉぉ!!」


 車体を旋回し回転させ戦車はその足で襲撃者たちを切り刻もうとするが、突き刺した剣に掴まる二人はその回転を耐える。

 更に川岸をよじ登ってベニユキも剣を握って戦車に斬りかかった。

 そこからは戦車に飛び掛かった三人が力技で装甲版を引き裂く。


 そのうちの一人ホルテンが水の入ったタンクに穴を開け蒸気が吹きあがる。


「あっつ!」


 手を押さえホルテンは転がり戦車の暴走じみた動きを遠巻きに銃を抱えて様子を見ていたギルベルトが駆け寄り襟をつかんで走りだしその場から引き離す。

 戦車はしばらく暴れていたがや毛て電池の切れたおもちゃのように動きが鈍くなっていき、最後には戦車が動きを止め沈黙する。

 静かになったことで建物の間から顔を出すネシェルとアンバー。


「破壊できたのかい?」

「うん、やってくれたよ」


 アンバーはドミニクに手を合わせる。

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