ダンジョンからの脱出 1
下に怪物がいると聞いて誰も口を開かなくなり、大勢が階段を降りる音が響く。
引き返そうと駄々をこねるタリュウははじめは一人でその場に残っていたが、皆が下の階へと移動しているとすぐに騒ぎながら皆のあとから追ってきた。
二つ下の階、地下3階の扉の前に立つとグリフィンと並んで歩いていた切れ目の女性が彼に耳打ちする。
「……グリフィン」
「なにかなキュリル君」
「エディンの死は彼のせいです、騒ぐから。私たちはばれずに進めていた」
「彼の様子を見てわかったよ、もう少し利口な子だと思ったんだが。危険な目に合わせてすまなかった」
「あやまっても犠牲が出たことに変わりはない」
「ああ、同じ間違いはしないつもりだ」
一番下の階、銃を向ければ緑色の光は下ではなく真横を向けると点滅をやめ点灯し続ける。
「この階で正しいようだ、偵察が正しいのならこの階には多くの怪物がいる」
「どうする?」
これから怪物と戦うことを考え大きくため息を吐くグリフィンにベニユキが尋ねた。
「我々が先行して注意を引こう。大きな音で奴らはこちらを追ってくるだろう」
「その間に俺たちが? 目的のものを取って来いと?」
「いやなら怪物たちの気を引く役を変わってくれてもいいが?」
「いいや俺らが行く。ただしエレオノーラとテンメイはここで待機させてくれ」
ベニユキの条件にグリフィンは頷く。
「いいだろう。キュリル、君も残りなさい」
「いいんですか? 私は目的のものがある場所までの道を知っていますが?」
「銃を向ければ場所はわかる。我々は囮だ、君は銃を撃ち尽くしその鉄の棒しか持っていないだろう。ここで彼女らと退路を守っていてくれ」
「わかりました」
突撃銃を構えなおしグリフィンは最後尾を振り返る。
「ついてきたからにはタリュウ君にも囮を手伝ってもらおう」
「うるせぇ! 誰が行くかよ、あんな化け物の相手なんかできるか!」
「……やれやれ、困ったものだ」
ベニユキたち3人と先に進んでいたグリフィンたち3人の合わせて6名は、息を整え武器を持ち皆の代表してグリフィンがドアノブに手をかける。
「では行くぞ、我々が飛び出てから向かってくれ」
「いいのか囮を頼んで」
「かまわない、こちらが提案したことだ」
扉を開けた途端に紫色の肌の人間が立っているのが見えた。
グリフィンの後ろに控えるテオとアインが突撃銃を構える。
大声で騒いでいたためか扉の周りに集まってきており一斉に充血した目を向けた。
「では生きてまた会おう」
茶色の銃を撃ちながら出ていくグリフィンたち。
人の形をした怪物たちは音につられるように走って彼らを追っていく。
ゆっくりと扉は締まり扉の向こうで銃声が離れて行くと、ベニユキたちが白い銃を構えて扉を開ける。
「……いないな、行こう」
エレオノーラが心配そうな表情をしながら小さく手を振りベニユキたちを見送った。
グリフィンたちが走っていった方向からけたたましい銃声が聞こえ、例外を除いて動く怪物の姿はない。
「行こう」
「ああ」
壁は撃ち込まれた突撃銃の弾丸がめり込んでいるが撃たれた相手の姿はない。
床には戦闘の時に出た大量の薬莢が転がっていてそれを踏まないように進みだす。
周囲は上の階と違っていくつかガラス張りの部屋があり、ガラスの容器が並んだ部屋が多い。
「研究所っぽい場所だ。不気味すぎる」
「人の剥製があっても驚かないぞ」
進んだ先に頭を撃たれ痙攣している怪物が一匹倒れていて、体が跳ねるたびに服の中から無数の蠅が舞い出てくる。
ベニユキたちはその怪物が起き上がらないようにもう何発か撃ちこんでから通路を進む。
「ガラス張りが何とか言ってたな」
ベニユキが先頭を走り白い銃が光り続ける場所へと向かって走る。
周囲を警戒していたマルティンが透明な壁で仕切られた部屋の中にいたうっ血したような顔の怪物と目が合う。
「見つかった」
怪物は純血した目を大きく広げ通路を進むベニユキたちに向かって怪物は走ってくる。
透明な壁にビタンと大きな音を立ててぶつかった。
「間抜けで助かったな」
「白衣を着ている怪物もいる、ここはいったいほんとになんだろうね」
他の部屋にも何人か閉じ込められるように怪物が入っており、ベニユキたちを見つけて全力でガラスの壁にぶつかってくる。
壁があるからと楽観もできず、勢いのついたものは体が変形するほどの体当たりでガラスの壁に傷をつけられるほど。
腕や頭が曲がらない方向まで曲がっても動く怪物らに怯みながらもベニユキたちは部屋を探す。
「あった、この部屋だ」
「何匹か部屋を出て来たぞ」
ウーノンとマルティンが壁を突き破って追ってくる怪物に向かって銃を撃つ。
その間にベニユキは部屋へと入り銃が示すものを探す。
他の部屋と違って箱型の機械が金属の棚に並ぶ部屋。
その部屋だけ電源が落ちており通路からの明かりを頼りに室内を進む。
「どれだ、どれだ」
銃を向けると棚に並ぶ機械の一つに一段階より眩く光る。
大きめの旅行用の鞄ほどの大きさの物。
「これか……意外と大きい、これを持ち帰ればひとまずは帰れる」
箱の後ろについた何本物コードを強引に抜いてベニユキは箱を両手で抱え部屋を出る。
すでに銃声はやみ追ってきた怪物は床に倒れていて、来た道と奥の通路を警戒するマルティンとウーノンと合流した。
「これが目的のものだ! 手に入れた、逃げよう!」
「なんか強引に扱ったように見えたけど、壊れてたりしたらどうするんだいベニユキ君」
「でもこれでひとまず帰れるだろ、行くぞ」
「追ってきた怪物はとりあえずは動きを止めたよ、相変わらず頭にはまったく当てられないけどなんとか。今のうちに逃げよう」
機械の箱を抱えるベニユキを守るように二人が先を包み来た道を全力で駆け戻る。
腕や頭を伸ばして襲ってくる怪物を倒しながら、ガラスの壁を突破できない怪物たちの姿を横目に走っていくと非常階段の前にはグリフィンたちの姿。
「こっちだ、安全は確保してある」
白い銃を構え緑色に発行するのを確認するとグリフィンが手招きする。