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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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ようこそ、箱舟へ 1

 

 暗い闇の中、彼女は思考する。

 辺りは耳が痛くなるほどの静寂。

 その静寂をため息が引き裂く。


『はぁ……。また失敗、すぐに次を始める用意を……しかし、これを続けても可能性は……。いいやそんなことを考えてはだめ、あの方のためやり遂げなければ……。さぁ、次を……きっと、次はうまくいく』


 宙で指を振るとれ施設全体の明かりがつく。

 同時に揺らぎながらホログラムの女性の姿が広場の中央に現れ天井を仰ぐ。


『きっと……。次は、こんなことにはならない……。皆から教わったことをもっとうまく……』


 ホログラムである彼女の周りには何台もの清掃用のドローンが動き這いずり回り駆動音が何重にも重なり合う。

 そして床や壁に散らばった血と肉片を片付けていく。


 そして彼女は光の粒子となって消えた。




 --




 男が目を覚ませばそこは狭い空間だった。

 横倒しにされた箱か何か狭い場所に押し込まれており、顔の前にだけある小さな窓からどこかの建物の天井が見える。


 そこは彼にとって身に覚えのない場所。

 身じろぎすることすら難しい空間で、どうにか表に出られないか体を動かしていると閉じ込められていた扉が勝手に開きそのまま体を起こす。


「どこだ……ここは……? ああ、くそっ頭が痛い。なんか靄がかかって何も思い出せない」


 天井の発光タイルが白い光を放っているだけの無機質な空間。

 立ち上がりカプセルから出て振り返ればベニユキは自分が寝ていた棺桶のような長方形のカプセルが置いてある。

 男は一糸まとわぬ姿で冷たい灰色の小さな部屋を見回す。


「何なんだ……」

 

 高い天井に小さな半球状のカバーのかかったカメラが付いているだけ。

 部屋に窓はなく金属製の丈夫そうな扉が二つあるだけの小部屋。

 触るとひんやり冷たい壁や床は人の力では壊せそうにない。


 扉を開け外に出ようとする前に振り返り、男は自分を押し込めていた箱を確認する。

 眠っていた顔の部分につけられていたガラスの張られた部分の下に文字が彫られていた。


「ベニユキ、俺の名前か? どこなんだ、ここは……」


 ベニユキは自分がいる場所がどこかを確認するため部屋を出ようと二つある扉の方へと向かう。

 一枚目の鉄の扉には鍵がかかっているようで引いても開くことはなく、もう一枚目の鉄の扉はクローゼットのようで中には下着や洋服などがたたんで置いてあった。


「変わった服、何かの衣装か?」


 手に取って確認すると長袖のジャケットやベスト、シャツと長ズボンと動きやすそうな服。

 下着を持つと服の上に置かれていた名前が彫られた銀色のネームプレートが床へと転がる。


 落ちたそれを拾いあげると文字が彫り込まれており、それにはベニユキと名前だけが書かれていた。


「これにも同じ名前が書かれてるな」


 ひとまずベニユキは用意された服を着ると開かなかった扉の鍵が開く音が鳴る。


「服を着たから出て来いってことか? どこかで見てるなら声くらい聞かせろよ」


 天井の隅についているカメラに向かってベニユキは少し悪態をつき呟くが返事は帰ってこない。


 --俺が一体何をしたっていうんだ。どうしてこんなところに……。


 ベニユキは鍵の開いた扉から外へと出た。

 薄暗く通路にはいくつもの扉が並び同じように扉をあけ部屋から出てくる人影。


 皆同じ服装で同じように困ったような表情で自分たちがどうしてここにいるのかわかっておらず恐る恐る通路へと出てきていた。


 通路は発光タイルの点灯がまばらで薄暗く、通路の奥に明るい部屋があるようで漏れてくる強い明かりの方へと皆歩いていく。


 反対側の通路の奥は行き止まりの様で通路に出たベニユキも、皆に続いて通路の先に歩いて行こうとすると後ろから袖を引かれる。

 ベニユキが振り返ると明るい茶色の瞳に涙を浮かべた栗毛の女性が立っていて、彼女は青ざめた顔で尋ねてきた。


「あの、私が誰かわかりませんか?」

「いや……」


「目が覚めて、知らないところにいて、怖くて、名前も記憶もなにも思い出せないんです!!」

「ああ、俺もだ。とりあえず落ち着いてくれ」


「だって、だって、私、こんなところ知らないんです」

「俺も同じで目が覚めたら今までどこで何をしていたか思い出せない。名前は、服を着たときにネームプレートがなかったか?」


 そう言われ彼女はズボンのポケットを探り、銀色のプレートを取り出し文字を読む。


「えれおのーら? これが私の名前……なんですか?」

「らしいな、違うとしても情報もないしそう名乗るべきなのかもな。俺はベニユキって名前らしい、よろしくなエレオノーラ。とりあえずみんな向こうに向かっているから向かおうか。何かわかるかもしれない」


「そう、ですね。よろしくお願いします」


 そうしてベニユキたち二人も通路の奥へと進む。

 通路を歩いている最中扉の開いている部屋の中を歩きながら確認するとどこもベニユキが目を覚ました部屋同じ作りで、部屋の奥に一つ睡眠カプセルが置いてあるだけ。


「なんかの施設だろうけど、規模がわからないな」

「窓がない、逃げられないしどこに居るかもわからない。ここはどこなんですか……」


「ここが地下ってことも考えられるが」


 通路の両脇に上に続く階段があり、そこからも同じ服装で何が起こっているかわからない表情の人々が降りてきて部屋の中へと入っていく。


「上の階にも人が居るのか」

「一体ここには何人いるんでしょうか」


 ベニユキとエレオノーラも部屋へと入る。

 そこは教会の礼拝所のような場所だった。


 通路と同じく白く光る発光パネルが付いた天井の高い開けた空間で、等間隔に長椅子が同じ方向を向いて置かれている。

 先に来ていた者たちが自己紹介をしながらいくつかのグループを作っていた。

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