お祖父ちゃん、わたしまだ21だけどもうすぐ米寿ってボケちゃったの?
「お祖父ちゃん、米寿おめでとう!」
夏も近づく八十八夜、北海道某所。女子大生の星香は、祖父で本日
満八十八歳の誕生日を迎えた星一郎に祝福の言葉を述べた。
「ありがとう星香、この年になってボケずにいられるとは思わなかったよ。
趣味をたくさん持って、普段から人よくしゃべって頭を使うのがいいんじゃろうな」
星一郎は朗らかに呟く。
「お祖父ちゃん、俳句や絵や尺八もまだまだ続けるつもりなんでしょ」
「当然じゃな。その世界は90代や100歳過ぎて現役もたくさんおるから、その方達に
比べればわしもまだまだ若造じゃよ」
その他家族親戚も大勢集まって、夜桜見物で星一郎の米寿祝を大いに盛り上げた。
そのあと星一郎は天体観察も楽しむ。彼の子どもの頃からの一番の趣味なのだ。
その趣味は星香もそうであるように孫の代まで受け継がれている。
「そういえば、星香もそろそろ米寿じゃな」
「お祖父ちゃん、何言ってるの。わたしまだ21だって。再来週で22よ。
もうすぐ米寿なのはお祖母ちゃんの方だよ。ボケちゃったの?」
星香は苦笑いを浮かべ、ちょっぴり心配そうに問いかけた。
「いやいや星香。ボケてはおらんよ。よぉく考えてごらん。グローバルな視点だけでは
気付かんだろう」
星香は少し考えてみる。
「あっ、そういうことか! 水星だと公転周期が約88日だから、地球でのわたしの年齢くらい
で米寿になるね」
星香はふふっと笑う。
「星香が今のわしの年になる頃には、水星旅行にも行けるようになっておるじゃろうな」
「いやぁ。さすがにそれは無理じゃないかな。せいぜい火星くらいでしょ」
天体望遠鏡で水星を眺めながら、星香は朗らかに笑うのだった。