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娘を持つ親の気持ちだよ!

 水野と佐藤が俺を攻撃、いや、俺に甘えて騒がしいのは、自慢じゃないが俺は物凄い美形だと楊にも玄人にも褒められている程だからだろう。

 だがしかし、繊細な外見が意味する通り、恥ずかしながら俺は、人並み以上に繊細で打たれ弱いのである。


「まぁ、確かにな。あいつらは破壊的過ぎて、純なお前には悪影響だよなぁ。」


 ぴょこっと麻子が俺の胸元から顔を上げた。


「どうした?」


「あたしは純なの?」

「純だろうが。今時の中坊はもうちょっと小賢しいだろ?」


 麻子は再び頭を下げた。

 彼女はいつもの麻子ではないと善之助に聞いていた通りだ。


 善之助がいつも以上に麻子の言うことは何でも聞く奴隷に成り下がっているのは、彼女が急にソフトボール部を退部した事も関係していた。

 十二月の初旬に部活を辞めたと突然に善之助に告白し、麻子は部屋に閉じこもっての大泣きをしていたらしいのだ。


 玄人の従兄の武本和久の結婚式の準備で、俺も玄人も善之助のメールを読み飛ばしていたことが悔やまれる。


 なんて可哀相な麻子。


 俺が見下ろす彼女は、大きくしゃくりあげると、おそらく善之助が聞いてはいないことを俺に告白して来たのである。


「学校では性格悪くってウザいって。だ、だから、あたしは部活のレギュラーを降ろされたの。チ、チームワークの取れない嫌われ者だからって、先生が。」


「あんだとコラ。チームワークがなんだってんだ?お前はピッチャーだろうが。お前を引っ込めて誰がピッチャーできんだよ。お前の部活でお前以外で投げられる奴はいねえだろうが。」


 俺の声は思いがけず低かった。

 善之助と孝継に引っ張られて、麻子の試合の応援に行った事があるのだ。

 その時に俺が知った麻子のソフトボールチームは、麻子の腕によって予選の一勝はできるぐらいのほのぼのスポーツクラブであった。

 

 ちなみに、世界の橋場連中が試合を観戦しても騒がれないのは、麻子の所属するソフトボールチームが練習試合をする時は、橋場建設の社用グランドを麻子の学校に貸し出しているからだ。


「これなら僕達が観戦しても麻子が特別視されないでしょう!」


 善之助が得意げに俺にはしゃいで見せたと思い出す。

 非常識な奴らは、大事な麻子が普通に育つようにと、非常識なりに心を砕いているのだ。

 変な方向に!


「で、でもピッチャーは転校生の子がするからって。み、みんなとチームワークがとれる、す、すごく性格のいい子なんですって。」


「それを教師が言ったのか!その馬鹿教師の名前を言え。俺が直接そいつに問いただしてやる。」


「いいの!もうやめたんだもの。やめて何か月も経っているからもういいの!」


 いきり立った俺に麻子はしがみ付き、俺は麻子の脅えた顔で気持ちが落ち着いて、それで再び座り直して麻子を抱え直した。


「辞めたのはそれが理由か。そんな顧問がいる部活なんか辞めて正解だよ。せっかくだから高校受験して学校を変えるのも手じゃないか?」


「別の学校でも駄目だよ。あたしは嫌われる天才だもん。」


 俺は溜息をついた。

 麻子は今時の少女にしては純朴過ぎて真っ直ぐだ。

 善之助がそのように育てたからだろう。

 しかし、俺が気に入るほどの「良い子」では現代では生き辛いのかもしれない。


 傷ついている少女が可哀相だと無意識に俺は麻子の頭を撫でており、撫でながら、もっさもさだよ、と意志を持って溜息を吐いた。

 その感触は玄人の恋人の馬鹿犬を撫でている感触でもあり、このままでは今の子達に受け入れられないのは確実だと考えた自分がいた。


「…………美容室で、心機一転で可愛くしてもらうか?」


「いや。行きたくない。…………不細工は何しても不細工だもん。本当は可愛くしなくてもいいの。どうせブスだもの。それで、それに、あたしみたいな凄いブスがおしゃれをし始めるのは、あの、男が欲しいって宣伝する行為だって言われたし。」


「どこのどいつだ、そいつは!麻子が不細工だと、畜生め。俺の見立てに文句つける糞野郎は誰だ!畜生、麻子服を脱げ。磨くには年若過ぎるが、俺がお前を磨いてやるよ!」


 俺の怒りに麻子は吃驚した顔で固まり、俺は後ろの襖がパシーン、ガツン、と開いた音で固まった。


「おい!俊明さんの形見に傷がついたらどうしてくれる!」


 俺が怒鳴った相手は顔を真っ赤にして怒りまでも見せており、俺をギロリと睨みつけると大声で喚きだしたのである。


「修繕費ぐらい出しますよ!それよりも、鬼畜過ぎて良純さんが逮捕されちゃいます!麻子はまだ十四歳です!麻子、僕があの糞野郎の事を善之助お爺ちゃんに伝えてあげるから。ほら、おいで!その淫乱魔王から離れてこっちにおいで!」


 俺の馬鹿息子は、俺がいたいけな少女に何かすると本気で思っているらしい。

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