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誰にも欲しがられないと泣くのなら、奴隷のまま奥歯を噛みしめて嗤おう (馬17)  作者: 蔵前
十三 俺の息子でない息子を守ってくれるかい?
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あの嘘吐き

 痛みで目覚めたのか、ぼんやりと俺の目に映る天井は暗く、どこかの倉庫のようであった。

 体が重く動けなくなっている自分は、誰も助けに来ないはずだと知っていながら何とかできたらと、自分の腹を見下して探った。


「ハっ。腸が出てる。無理だよ。俺はもう駄目じゃねぇか。ハハハっ。」


 感じ過ぎて麻痺しているのか、なぜか痛みは感じない。

 意識も薄れているではないか。

 それでも、誰もいない事に絶望は感じない。


 ただ、悲しいだけだ。


 俺が全てを壊し、一人寂しく死んでいく。

 俺は彼らの遺体のそばからも汚らわしいと離されて、誰も来ないここに捨てられたに違いないのだ。

 親父は俺を許してはくれない。

 それでいい。

 忘れ去られるのであれば、恨み憎まれ続けていたい。


 世界は歪み、瞬きは重くなり、これで目を瞑ったらお終いなのだと目を瞑った。

 しかし、いつの間にか俺は望んでいた腕に抱きかかえられており、頬に雫を感じることから自分を抱く男が情けなく大泣きをしているのだと知ると、自分の大当たりだと気分が軽くなった。


「馬鹿野郎。お前の女房子供を殺した男に泣いてどうするよ。」


 ぎゅうと俺は一層強く抱きしめられ、俺は彼の鼓動を聞きながら何もしたくないと、もう何もしなくてよいのだと望んでいた幸福を手に入れた気がしていた。


「息子が死ぬんだ。俺のせいで、お前がこんな生き方だ。」


 あぁ、俺はこいつの息子だったのだ。

 奴はこんな俺を息子だと言ってくれるのか。


「泣くなよ。生き返ってやるよ。お前の孫かその子供ぐらいに。それで、それで違う生き方をしてやるからさ、泣くなよ。」


 俺はあの時、「お父さん」とただ奴に呼びかけてやれば良かったのかもしれない。

 俺は奴に約束をしたがために、何度も生き、失敗しかできない。

 彼はそんな俺に血眼で掛かりっきりだ。


「僕の、さ。血の繋がらない息子に今世こそは幸せに寿命を全うさせたいんだ。彼を見守ってくれると約束してくれるかい?」


 ジェットはそう言いながら俺に炎を生み出す鳥を差し出した。

 俺は彼に騙されて、彼の話す息子とはその時自分以外の人間の事だと思い込んだまま、あのヨタカによく似た炎の鳥を受け取ったのである。


 俺は彼の愛し続ける息子に嫉妬を抱きながら、彼に嫌われたくない想いだけで彼に手を差し出したのだ。


 この行為が彼が俺から奪った力を俺に返し、自分自身を守って今度こそ寿命を全うするのだと約束させられたのだと知らずに。


 あいつはなんと嘘吐きなのだろう。

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