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ザクロ

 山口は百目鬼と同じ百八十を超える長身であるのに対し、楊と髙は百七十五もない中背である。

 実際は山口が楊達に上目遣いなどできるわけはなく、そんな風な恨みがましい目線を楊達に向けたというだけだ。

 しかしながら、そんな部下の視線に動じる髙ではない。


「報告。」


 山口は疲れた様にして、大きく、これみよがしに溜息を吐いた。


「ザクロを彼らから隠すので精一杯でしたよ。五月女そうとめと葉山には行方不明の丸彦巡査の家族の保護に走ってもらってます。それで、ですけどね、葉山は確実に動きの意味を読んでいましたよ。知られたくないのなら、僕に文句を言う前に、メールでも何でもしてくださいよ。そうしたら署を出ること自体しなかったのに。僕は外回りから署に戻った途端に、意味も判らず彼らにかわさんの現場に行こうと連れて来られただけですからね。」


 楊と髙は同時に山口から顔を背けた。

 二人ともメール恐怖症なのである。

 楊は婚約者からの、髙は妻からの執拗な「いまどこメール」である。


 刑事の相棒は夫婦とも言うが、本当に似たもの夫婦という言葉ががぴったりな二人であると、山口はそんな二人の様子に大きく息を吐いた。


「……いいですよ。それで、ザクロは確定事項なのですか?」


 彼が口にした「ザクロ」とは、死人達が考え出した生者に戻れる薬である。

 妊娠途中の胎児に死人の血を入れると、生命力に溢れた細胞が癌化した細胞のように増殖を始める。

 胎児の形は人間の形を失い、ボコボコと大き目のイクラかブドウ粒のような肉粒だけになってしまうのだ。

 その形状からザクロと呼ばれ、そしてその粒は一粒でひと月かふた月の期間は死人を生者に戻せるのである。


 楊はおもむろに倉庫ではなく店の方の奥の角に向かうと、ブルーシートを剥ぎ取った。

 そこにはとりあえずの死人の破片が入った数個の遺体袋と、そして、女性の全裸遺体が横たわっていた。

 

 死後硬直しかけている全裸遺体は、世界を抱こうとするように、両腕を少しだけ広げている。

 ポーズは女神の像のようだが、気が強そうで険のある顔立ちが苦悶の表情を浮かべていることによって、自分を殺した者を恨み仕返しをしようと腕を広げている姿にしか見えないと、楊は彼女を見つけた時に感じた。


 そう感じたのは、遺体が喉ぼとけのあるあたりから切り裂かれて開かれているからであろう。

 こんなことを自分にした人間に仕返しできるものならばしたいだろう、そんな風に楊が考えてしまったぐらいに酷い状態なのである。


 喉元から腹部にむかって全てをさらけ出すように切り裂かれ、中をさらけ出すようにして皮膚をめくれ上げられている。

 まるで日干しの魚の様だと楊が死体を見下ろして考えてしまったのは、露わにされた腹腔内の臓器が跡形もなく消えているからであろう。


「どう思う?俺の見立てだから大雑把だが、死後硬直の具合から見て、殺されて八時間から十時間ほどだろう。被害者の年齢は、外見的特徴から二十代後半から三十代前半。体腔内の状態から内臓は死んだ後の摘出かな。で、俺はザクロに関しては初心者だからね。この遺体を見て髙がザクロだって言い張るからさ。山口の意見は?」


「ザクロですね。内臓が全部無いのはザクロの摘出をごまかすためだと考えられます。不完全なザクロで外科的手法が必要だったのでしょう。それにしても凄いですね。髙さんが言う通りに、かわさんは遺体を見間違えないのですね。」


「何だよそれ。正解はそこの被害者が君に囁いたのか?」


「違いますよ。僕には全く見えません。」


 山口の言葉に楊は驚いて山口をまじまじと見直した。

 見えないものが見える玄人と同じく、山口も見えないものが見える人間なのである。


「力が消えた?ここには呪いがあったのか?」


「違います。ザクロが怖いのはそういう所です。操られただけの糸の切れた人形と同じなんですよ。本人の意識が無いので、僕には何も見えない。」


「そうか。それなら尚更、ザクロの存在こそは葉山達にも教えた方がいい気がするんだよね。間違って口にしたら大変なんでしょう。」


 ザクロを飲んだ人間は一粒であれば死人化しない。

 しかし、ザクロの血縁者である死人に意識を乗っ取られる事になるのである。

 そんな恐ろしい存在を仲間に知らせるべきではないのかという楊の提案には、髙は勿論だが、山口さえも首を振っただけであった。

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