第七話「アイアンベアー戦、終結!」
主人公がちょっといいとこ見せたので初投稿です。
大岩のような右腕だった。色はうっすら緑がかった茶色。リンゴどころか人間の頭すら余裕でつぶせそうな大きい手。突き立てられたら一瞬で絶命しそうなほど鋭利で大きい鉤爪。なにもかも、俺の記憶と違う。例えるなら…昔、何かの書物で見た竜だ。竜という大昔地上を支配していた超大型生物の腕のようだ。
「なんだお前…その腕!」
おおよそ人間が持っていてよい腕ではない。ありえてはいけない。なんなんだコイツは。本当に人間なのか!?
「………グッ、それは後で説明する。今はアイツが先。」
痛みをこらえているような表情をした彼女が俺の左方向を睨みつけている。アイツ?と考えたところでその方向を見てみると、巻き上がった土煙の中から巨大な影が現れた。アイアンベアーだ。みたところ、相当に怒っている。あれだけの攻撃を受けたんだ。いくら鋼鉄のような硬い毛並みを持っているとは言え痛いに決まってる。俺は、痛手を受けて怒りで沸騰したモンスターほど怖いものを知らない。
「に、逃げるぞ! あいつが離れている今のうちに!!」
死にたくない俺は異形の右腕を持つ少女にそう告げる。コイツが相当吹っ飛ばしてくれたため距離がある。パッと見逃げ切れる公算が高いと判断した結果だ。少女の走力は未知数だが、さっきの回避を見るに俺よりは身体能力が高いだろう。そう考えて発言したが…。
「………大丈夫だと言っている。くどい。」
俺の意見を突っぱねた彼女はあのクマに向かって走っていった。予想通り足は速いんだな、とか考えている場合じゃねぇ!ど、どうする!?あいつが言う通り、本当に倒せるとみて遠くから見ているべき!?それとも援護に向かうべき!?それとも…逃げるべき?
…逃げてもいいよな、これ。まず少女自体が不気味すぎる。なんなんだあの腕。さっきまで普通だったじゃあないか。左腕は今でも普通なようだし。なぜ右腕だけ?苦しんでいたのはあの腕に変化しそうだったから?てか相手の攻撃は効いていなかったのか?なにもかもがわからない。冒険者だったら、自分の理解できないことには近づかないのが鉄則だ。で、アイツは俺の理解の範疇外。逃げることはなにも間違いではない。
「わりいな。」
思考の海から脱出し、捨て台詞を残して逃げようと顔を上げ少女方面を見た。
「ガァッ!!」
ガガン!
「………ァァッ!!」
ブォン! ガッ! ゴシャア!!
…インファイト、だった。お互い防御を考えない超接近戦での殴り合い。クマが重い一発を叩き込む間に、少女が三発をねじりこむ。人間とモンスターという本来比べることすら馬鹿らしい二つの存在が対等に打ち合っているのだ、一瞬見とれてしまった。
って、見ている場合じゃない。早く逃げなければ。
「グルルァ!」
「………ガッ!?」
どうやらもろに食らったようだ。すぐに立ち上がって攻撃を再開しているが、あれはどう考えたって致命傷レベルの攻撃だった。今すぐに回復するべきだ。
「…。」
命あっての物種じゃないのかと、俺の中の何かが囁く。アイツが一人でやれるって言っていたんだからいいだろう。と。だが、
「<上級回復ルルァア!>」
俺は少女に向かって回復魔法をかけた。今の俺ができる一番の魔法だ。傷の程度はわからないが骨折や臓器の大破までなら治っているはず!この戦闘に参加するのは怖えけど、あんなちみっこいやつを見捨てて逃げるほど俺は人間腐っちゃいない!
「!………助かる!」
アイアンベアーから離れてこちらに着地する少女。コイツの腕は恐ろしいが、それよりも俺の命に直接関わるようなやつがすぐそこにいる。そいつの対処が先だ。
「そんな礼は後だ!コイツをどうする!?」
勢いで介入しちまったが、俺には回復と初級の火属性魔法しかない。正直攻撃面で助けになることは何もないだろう。そんなことを伝えると。
「………攻撃魔法が使えるの?」
なぜか興味を向けられてしまった。なんで?
「………あなたには私を回復しつつ、やってほしいたいことがある。」
少女からの要望。アイツに決定打を与えられる可能性があるのはコイツだけだ!俺が何かすることでこの脅威を退けられるならなんだってやってやる!
「なにをすればいいんだ!」
「………合図を出したらアイツの気を引くこと。」
なんだそれ!
「………説明している暇はないから察して。とどめは私がやるから。」
そういってアイラはまた奴のほうへ向かっていき、戦いを再開し始めた。ど、どうすりゃいいんだ!?今までやったことがないから、モンスターの気の引き方なんて思いつかない!盆踊りでもすればいいのか!?
そんなことを考えている間にも勝負は続く。どうやらアイラのほうもなにやら体に何かしらのバフのようなものがかかっているのか、明らかに致命傷であろう攻撃を、体表面でしか判断できないが打撲痕や切り傷で耐えているように見える。それを俺の回復魔法で随時直しているが、もし弱点のようなものがあってたまたまそこに当たったり、あの謎の腕に時間制限があったりしたら一撃で死んでしまうかもしれない。死んだらさすがの回復魔法でも生き返らせることは不可能だから、早めに決着をつけなければいけない。どうする!?
そもそも、さっきなんでアイツはヒーラーの俺に気を引いてほしいなんて言ったんだ?俺ができることなんて後は初級の火魔法くらいしか…
「あ…。」
そっか。さっき火属性の魔法に興味持たれていたのってそういうことか。確かにこれなら行けるかも知れない!後は、アイツに打ち付けるための合図を待てばいい!やってやる!
「………今!」
「っ!<初級火魔法>!!」
合図に合わせて俺の渾身の火属性魔法を奴に向けて放つ!いくら威力の低い初級とはいえ、
「グァッ!?」
驚いてこちらを振り向かせることはできる!そんな大きな隙を見せていいのかクマさんよぉ!
「………これで終わり!」
ドスゥッ!!
グギャァァァァァァ!!!!!!
慌てて少女に振り向き直すアイアンベアー。それを待っていたかのように彼女は爪をヤツの鋼の毛に覆われておらず、かつむき出しの部分、つまり目に突き刺した!激しい痛みと視界を奪われたことで壮絶な悲鳴をあげながら倒れこむ巨体。どうやら爪が目にとどまらず脳にまで到達したようで、動く気配はゼロだ。つまり…。
「………………倒した。」
本当に、討伐してしまった。少女の言葉通りに。にわかには信じられない。俺はその場にへたり込もうとしたが、先に膝をついたやつがいた。この戦闘における勝者、アイラだ。
「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
俺は慌てて彼女に駆け寄る。こいつのことバカとか言ったの誰だよすげーよコイツ。聞きたいこともあるし、絶対死なせちゃならない。安静にさせなければという一心でとりあえず横にし、回復魔法をかけ、必死に呼びかける。どうやら傷は治ったらしいが、疲労が半端じゃなかったのだろう。穏やかな寝息が聞こえる。
ん?寝息?
「………スゥ、スゥ…。」
「コイツ、寝てやがる…!」
訂正、コイツ、やっぱバカ。
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