永訣① アクシデント
そして冬が過ぎ、3月になり、彩音さんも無事に中学を卒業した。束の間の春休みが過ぎ、春を迎え4月になった。彩音さんは高校生になった。僕も中学3年になり、受験の年になった。受験の年といっても、僕も中高一貫校だし、まだ4月になったばかりなので大きな変化はなく、相変わらず彩音さんと会っていた。そして、それは突然のことだった。ある日の夜、彩音さんからメールが来た。そのメールはいつもと違う内容だった。
〈大河君、大変なの。大河君のことバレたかも知れないの。〉
〈えっ?どういうこと?〉
〈私たちが二人で手を繋いでいるところを学校の人に見られていて、学校から家に連絡があったみたいなの。〉
〈それって、ヤバいの?〉
〈うん。うちの学校は男女交際禁止だし、うちの親も厳しいから、もう会えないかも。〉
〈そんなのイヤだよ。何とかならないの?〉
〈私だって会えなくなるのはイヤよ。今のところ大河君がどこの誰かはバレてないわ。男の子と一緒にいるところを見られただけみたいだし、私服の日だったみたいだから上陽館中っていうのもバレてないわ。〉
〈そうなんだ。なんとかいい方法を考えないとね。〉
〈そうね。大河君のことは絶対に言わないから安心してね。また、連絡するわ。ちょっとしばらく会えないけど我慢してね。〉
〈うん。仕方がないね。〉
それからしばらく会えない日が続いた。メールもなかなか来ず、状況がわからないのでこちらからメールをするのも憚られた。彩音さんの学校は分かっているので、こちらから会いに行こうかと思ったけど彩音さんに迷惑かなと思ってやめた。そんな日が続いて僕も気分は滅入ってしまってとても沈んでいた。何とかしなければと思う気持ちはあるが、いい方法が見当たらずにただただ自分の無力感と、どうしようもない焦燥感に苛まされていた。無為と思える日々が続いていたある日、彩音さんからメールが届いた。
〈両親にかなり怒られたけど、大河君のことはどこの誰とは言わなかったからね。〉
〈ありがとう。彩音さん大丈夫?〉
〈あんまり大丈夫じゃないかも。外出するのも誰と出かけるかをきちんと言わなければいけなくなったし、門限も厳しく決められちゃった。そして親から「彩音はいい女子大に行って、いい男性とお見合いするのだから変な男と付き合ってはダメ」って言われて、大河君って変な男性じゃないのにね。何かもう疲れちゃった。〉
〈あんまり気にしたらダメだよ。もう少し時間を置けば大丈夫だって〉
僕はそういって励ますのが精いっぱいだった。
〈ありがとう。ちょっと疲れてるからもう寝るわね。おやすみなさい。〉
彩音さんはだいぶん両親に怒られたんだろう。こんなときこそ会って励ましてあげたいのに何もできないもどかしさだけが残った。