出会い⑥ 初デート
そしてついに初デートの日がやってきた。まだ梅雨は明けていないが、今日の天気はまるで僕たちのことを祝福してくれているかのような晴天だった。待ち合わせはM駅の改札だった。前回待合せた検定試験の日は、六城さんが先についていたが、今日は僕がかなり早く着いてしまって、今か今かと六城さんを待っていた。待っている間も、浮き浮きしていた。
しばらくして六城さんがやってきた。今日は、可愛らしいプリント柄のピンク色のTシャツに青色のジーンズ姿だった。髪は前回と同じで今日もポニーテールで束ねていた。
「おはよう。待ったでしょう。」
六城さんが笑顔で僕に近寄ってきた。
「そんなことないよ。さっき来たところだよ。その服似合ってるよ。かわいいね。」
僕は照れながら言った。
「あははは。ありがと。桧室君もカッコいいよ。」
六城さんはニッコリと笑って言った。
今日の僕の服装は、精いっぱい頑張って、一番かっこいいいと思う赤色のTシャツに黒色のジーンズという服装だった。カッコイイといわれてすごく照れ臭かった。そして、二人並んでホームに向かって歩いて行った。まだ遊園地には着いていないけど、付き合っているという事実があり、こうして二人で一緒にいるというのが最高に嬉しかった。天気のいい日曜日なので出かける人が多いのか、電車はそこそこ混んでいて座れなかった。二人で並んで立って乗った。
電車の中では、「期末テストどうだった?」とか、学校の話とかをしていた。たくさん話をしているといつの間にか遊園地のある駅に到着していた。 僕たちは電車を降り、遊園地のゲートへ向かった。少し高いけど、二人ともフリーパスを購入した。これは、入場券とすべての乗り物が乗れるというパスだ。ゲートを抜けて園内に入った。
「うわぁ。思ってたより広いし乗り物もいっぱいあるわね。桧室君行きたいアトラクションある?」
「いろいろ行ってみたいけど六城さんが行きたいところでいいよ。」
「本当?じゃあ私ここのジェットコースター乗ってみたかったんだ。いい?」
「いいよ。じゃあ行こう。」
僕たちは最初にジェットコースターに乗ることにした。ここのジェットコースターは時速が130kmを超えるという、この辺りでは最速のマシンで有名だ。六城さんはいつもよりテンションが高く、満面の笑顔ですごく楽しそうだった。そんな六城さんを見て、僕もとてもテンションが上がった。
ジェットコースターは少し並んだが、並んでいる時間もいろいろ話ができて楽しかった。そして僕たちの順番がやってきた。荷物を荷物置き場に置いて、座席に座り安全バーを下ろした。怖さもあったが、六城さんが横にいる嬉しさの方が勝った。六城さんは今か今かとスタートが待ちきれない感じだった。
ジェットコースターがスタートして上へ上へと登って行った。なんだかドキドキしてきた。そして一気に降下していった。ものすごいスピードだった。
「キャー!」
六城さんは悲鳴を上げていた。僕も「うわぁ」と声にならない声を上げていた。とても、隣の六城さんの様子を見る余裕などなかった。何回かコース上を上下し、おまけに1回転するところもあり、かなり走ってジェットコースターは元の位置に戻ってきた。
「はあはあ。すごかったわね。楽しかったわ。」
六城さんは嬉しそうに言った。
「うん。楽しかったね。僕、少し油断してたかもしれない。こんなにすごいとは思わなかったよ。」
僕は正直に感想を言った。
このあと、急流下りやお化け屋敷、ゴーカートのアトラクションを楽しんだ。二人とも、ものすごくはしゃいでいた。時間はあっという間に過ぎ、気が付いたらお昼の12時を回り、13時近くになっていた。
「何だかお腹すいてきたわね。お昼ご飯にしましょ。」
六城さんが言った。
「そうだね。楽しすぎて時間が過ぎるのを忘れていたよ。」
僕たちは昼食にすることにした。レストランやカフェ、あとは売店があったが、僕たちはレストランに入った。店内は混んでいて少し待った。僕はカツカレーを注文し、六城さんはカルボナーラを注文した。しばらくして料理がやってきて僕たちは食べ始めた。
「桧室君っていつもお昼ご飯はどうしてるの?」
「僕はいつもお弁当だよ。」
「そうなんだ。学校に学食はないの?」
「ないよ。田舎の学校だし、生徒数も少ないからね。」
「私のところは学食があるわよ。結構生徒数多いからね。私はお弁当食べたり、学食で食べたりしてるわ。あら?桧室君、もう食べ終わったの?」
「ちょっとはしゃぎすぎてお腹すいてたみたい。ゆっくり食べてね。」
「ありがと。でも、私ももうすぐ食べ終わるわよ。私もお腹すいてたから。」
僕たちは食べ終わり、お金を払ってレストランを出た。外は相変わらず晴天に恵まれていた。
「次どうする?何か行きたいところある?」
六城さんが聞いてきた。僕は観覧車に乗りたかったので、
「観覧車に乗りたいな。」
と言った。
ここの観覧車はジェットコースターと並んで有名で、全長は100mを超え、1周にゆったり約15分かかる観覧車だ。
「いいわよ。行きましょう。」
僕たちは観覧車の方へ歩いて行った。有名なだけあって列ができていた。僕たちは列に並んだ。思ったほど待たずに順番が回ってきた。僕たちは観覧車に乗り込み、向かい合って座った。
「ねえ、桧室君って何か将来の夢とかあるの?」
「僕?うーん、今のところないかな。六城さんはやりたいこととかあるの?」
「私はね、何か人の役に立つ仕事がしたいなーって思ってるの。福祉とか医療とかそういう関係に進めたらいいなーって。」
「へえ、すごいね。僕も何か考えていかないといけないな。」
「まだいいんじゃない。私の両親が教育関係の仕事をしてるからその影響かな。父が教師で、母は今は主婦してるけど、母も教師をやっていたの。」
「それで家が厳しいんだね。僕のところは父親がサラリーマンで母親が主婦やってるよ。夢が叶うといいね。」
「ありがとう。でもまだ漠然としていてこれから考えていこうと思うの。それよりここすごく景色がきれいね。やっぱりこの観覧車はいいわね。」
「本当だね。遠くまでよく見えるし、最高だね。」
観覧車からの眺望はそれは素晴らしいものだった。遠くの山の稜線が美しく連なり、下を見るとアトラクションや人がまるで模型のように見えた。そして観覧車は1周して元のところに戻ってきた。僕たちは観覧車から降りた。
その後、少しゲームコーナーに行ったり、お土産店を見たりしていたが、六城さんが少し疲れたといったので、カフェで飲み物を飲んで休憩することにした。外はかなり気温が上がって暑かったので、クーラーの効いたカフェ内は心地よかった。僕はアイスカフェオレを注文し、六城さんはレモンスカッシュを注文した。
「暑くなったわね。少し疲れちゃった。ごめんね。」
六城さんがおしぼりで手を拭きながら言った。
「僕も疲れたよ。お昼ぐらいから急に暑くなって疲れたね。」
水を飲みながら僕は言った。ほどなくして、注文した飲み物が運ばれてきた。僕はシロップを入れストローでかき混ぜ一口飲んだ。ひと心地ついた感じがした。六城さんもそんな感じだった。
「はあ、少し落ち着いたね。ねえ、六城さん。」
僕は少し改まって呼びかけた。
「なあに。何だか改まってどうしたの?」
「六城さんのこと下の名前で呼びたいんだけどいいかな?」
「あははは。なんだ、そんなことか。別にいいわよ。彩音って呼んでくれたら。」
「ありがとう。でも呼び捨てはいやだから彩音さんって呼んでいい?」
「いいわよ。桧室君の好きな風に呼んでくれて。」
そう言って彩音さんは笑った。
「それじゃあ私も大河君って呼んでいい?」
「いいよ。嬉しいよ。下の名前で呼び合うとなんか距離が縮まった気がするしね。」
僕はとても嬉しかった。下の名前で呼ぶ憧れのようなものがあったのかも知れない。
「あら?もうこんな時間だわ。そろそろ帰らなきゃね。大河君。」
彩音さんは笑いながら言った。
「もうそんな時間かあ。残念だなあ。もっと彩音さんと遊びたかったな。」
「またいつでも行けるわよ。」
出来ればもう少し一緒にいたかったが、彩音さんの家が厳しいから仕方がない。名残惜しい気持ちを引きずりながら帰ることにした。夏場なのでまだまだ明るいが時間は夕方近くになっていた。僕たちは遊園地を後にした。帰りの電車では疲れていたのか彩音さんは眠ってしまった。そんな彩音さんを見ているのも幸せな気分だった。こうして僕たちの初デートは終わった。