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とある勇者の強くてニューゲーム  作者: ヤン・デ・レスキー
9/14

ループ3: 勇者リト レベル74 ①




「いや〜!久々に呑む酒は旨いな!なぁ、そうだろ〜リト、セイ!

 ああ、セイは酒が飲めないんだったな!すまんすまん!最近歳で物忘れが激しくてな!

 ワハハ!あまり怒らないでくれ!」



「ヤン…私にはバッタービールを呑むことができれば、酒など必要ないのですよ…。それに私とアナタは同い年でしょう…」





 よお。俺はリトって言うんだ。勇者ってのをやってる。こいつらは三週間ほど前に仲間にした武闘家のヤンと僧侶のセイだ。今、俺たちは三人で「はじまりの国」の隣町にある酒場で酒盛りをしている。



 三度目の巻き戻りに成功した俺は、勇者に任命されてからノエルと接触するまでに一ヶ月の猶予があった。だからその間にヤンとセイを仲間にして三人でレベル上げを続けていた。

 今日は一旦休もうってことで酒場に来ることを提案したら喜んで着いてきてくれた。二人には感謝してもしきれない。まぁ、本当の目的はノエルと接触するためだけなんだがな。




 ノエルは無理やり魔王から命令されて俺を殺そうとしていたらしい。確かに、ノエルは「魔王様の命令で」って言っていたよな。まあ、それなら話は早い。ノエルが俺を殺す前に手っ取り早く魔王を倒せば良い。

 だが、ここから魔王城まで早くてもまだ三ヶ月はかかる。それだとノエルと接触できないし、魔王を倒した後ではノエルと仲良くなれない。

 だから最初の一ヶ月間でできるだけレベル上げをして、遠距離から魔王へ攻撃を仕掛けることにした。詳しいことは実際するってなってからにしようと思う。





「あ、あのぅ…勇者様ですか?」




 ひょこっと近づいてきたノエルが、おずおずと話しかけてきた。勇者が仲間を二人連れているとは思っていなかったのだろう。



「おう!こいつが勇者、名前はリトって言うんだぞ!お嬢ちゃん、こいつになんか用か?」



 少し酔いが回っているのであろうヤンが大声でノエルに話しかける。ノエルは困った表情を「作りながら」もリトへと話し出した。




「あ、あのう…勇者様、私を仲間にして下さいっ!」




 弱そうな見た目をした少女が仲間にしてくれと言ったことが意外だったのだろう。ヤンとセイは不思議な表情になっていた。





「リ、リト…ああは言ってるが、どうすんだ?」




 ヤンが心配そうに尋ねてくる。判断をリトに任せてくれるあたり、ヤンの驕らない性格が滲み出ていた。リトはヤンへゆっくりと頷き、ノエルへと向き直った。




「嬢ちゃん、どうして俺たちの旅に着いて行きたいんだ?」



「えっ…?そ、それは…」



 優しくノエルへ語りかけたリトの言葉に動揺したのか、はたまた聞かれると思っていなかった事を聞かれてしまったのか。ノエルは一瞬戸惑ったようだが、理由をゆっくりと話した。



「…家族が、魔物に攫われてしまって…。

 私一人では助けられなくて…。勇者様と一緒なら、助けられるかなって思ったんです」



 ノエルは事実を話したようだ。嘘はついていない。彼女の瞳は強い光を帯びていた。リトはその言葉に微笑み、笑顔でノエルへ返した。



「そぉか…。悪いが、見ての通り戦力はこれ以上必要無いんだ。

 だが、実は料理を作れる人が一人も居なくてな。嬢ちゃんが料理を作ってくれるってのなら旅に着いてきて欲しい」



「り、料理…ですか?」



「ああ、そうだ。

 折角だ、今度料理を作ってきてくれ。これから一週間はこの町にいる予定だ。その間、好きな時間で良いから嬢ちゃんの作った料理が食べてみたい。それで美味かったら旅に連れて行こう」




 リトの物言いにヤンとセイは吃驚していた。ただ、誰も料理が出来ないのは事実…。ヤンとセイも「料理なら…まぁいいか…?いいのか…?」と言った反応だ。





「は、はい、料理ですね。分かりました!

 では、明日の晩にまた持っていきますね」




「料理は俺一人分で良いからな」




「分かりました、では、また明日」




 ノエルはトコトコと去っていった。とりあえず、ファーストコンタクトには成功した感じだろうか。



「なあ…リト、本当に…良いのか?」



 酔いが覚めたのだろうか、ヤンが再び心配そうに尋ねてきた。






「ああ。彼女の料理は美味しいと()()()()()からな」








◇◇◇






 翌日、日が地平へと沈み、暗き闇が空を覆う頃。ノエルはリトの泊まっている部屋へと来たらしい。こんこん、と聞き慣れたノック音が聞こえた。




「こんばんは。昨日、仲間にしてくれと言った…ノエルと申します。勇者様、料理をお持ちしました」



「おー、悪いな。入ってくれ」



「はい、お邪魔しますね」




 ノエルはまたインペリアル子豚の角煮を持ってきてくれたらしい。嗅ぎ慣れた匂いが部屋を満たした。


 リトはノエルが持ってきた鍋を調べてみる事にした。じっ、と見つめると鍋に入っている角煮のステータスが見えてくる。

 豚肉、出汁、ネギ…あとは呪いと呪いと呪いと呪い…。材料の他に、大量の呪いが篭っていた。おいしさの秘密はやはりこれか、とリトは一人納得した。

 眼前では、ノエルがリトのことをじっと観察している。早く死なないかな〜などと思っているのであろうか。すまないな、ノエル。俺には呪いは極上のスパイスでしかない。


 箸を持つ前に、リトはノエルへ話しかけた。



「…ノエル」



「は、はい…?」



「とても手間がかかっていることが分かった。ありがとう」




 えっ、という表情をしたノエルを見ることもせず、リトは角煮へと手を伸ばした。

 いざ口に入れようとしたところで、パシッと箸を持っている手を止められた。ノエルだ。




「何すんだ、ノエル」



「勇者様…この料理に呪いが掛かっていると分かっていましたよね…?」



 ノエルの声が震えていた。どうやらステータスを見ていた事に気づかれていたらしい。



「そうなのか。知らなかったな」



 リトはわざと知らないふりをし、もう一度角煮を口へ運ぼうとした。しかしまたノエルに止められる。



「今、呪いが入っていると話したのに何故食べようとするのですか!」




 ノエルは何故かとても怒っているらしい。リトは平然と答えた。




「ノエル、食事中はあまり声を荒げないでくれ。俺はノエルの料理が食べたかったんだ。あとはもう言わなくて良いか?


 それと、俺に呪いは効かない」




 話は終わりだとばかりにリトは角煮を食べた。ノエルは、はっとした表情を見せた後にリトの方を黙って見つめていた。リトはそのまま黙って料理を食べ尽くした。





「…今日の料理も、最高に美味かった。ノエル、ぜひ俺たちの旅に着いてきてほしい。

 ああ、ヤンとセイには呪いを込めていないやつを作ってもらえれば尚のこと嬉しいぞ」




「…勇者様、何故食べたのですか?

 普通の人は、呪いの籠ったモノなんて触れようとすら思いません。呪いがたとえ効かなくとも、避けることはすると思います」




「…俺は、魔力の籠められた料理しかほぼ食べることが出来ない身体なんだ。普通の食事も取れるっちゃ取れるが美味いと思わねえ。

 ノエルの料理は、莫大な魔力を使って呪いを付与していた。俺はノエルの作る料理を…とてつもなく、世界一美味しいと感じた。


 …頼む、俺の旅に着いてきてくれ。ノエルの作るメシをずっと食べていたい」




 リトは続けるようにノエルへと頭を下げた。


 ノエルは…リトの猛烈なアプローチ(?)に折れたらしい。か細い声で「…はい」と答えた。









◇◇◇







 ノエルを仲間に加えてから数週間が過ぎた。勇者一行は、魔王城まであと三分のニの所まで来ていた。前回はノエルのことを気遣いながら魔王城までの道のりを進んでいたが、今回はお構いなしだ。ヤンとセイもひいひい言いながら着いてきてくれている。ノエルは自己強化の魔術でも使っているのだろうか、疲れている様子は無かった。



 夜、寝ているノエルがむにゃむにゃと寝言を言い出したので、こっそりステータスを確認してみる。レベル79の魔女、と出ていた。ちなみにリトのレベルは現在79である。まだまだ上なのだろうか。




 皆が寝静まっていることを確認したリトは、そっと寝袋から抜け出して魔王城の方を見据えた。



 今から魔王城へと最大出力で火魔法をぶつける。届くかどうかはギリギリのところだろう。だが、これ以上近づいてノエルとの戦闘にはなりたくない。一か八かだが、リトは火魔法を連続で撃ち出した。最大出力で三度火魔法をぶつける。一度目は城壁を崩し、高層階にある魔王の間を露出させる為。二度目は魔王へとぶつける為。三度目は魔王を殺す為だ。



 結果はここからでは分からない。さて、どう出るか。そう思いながらリトはふらふらと寝袋へと戻った。









◇◇◇








 リトが旅に出てから四ヶ月の時間が経とうとしていた。魔物が消えなかったことから、魔王は生きていると分かった。だが、少し変化はあったらしい。ノエルがいつもの街で仕掛けて来ることは無く、遂に魔王城の前まで着いてきてくれたのだ。




「おー、これが魔王城…ってかなんかボロくないか?上の方崩れ落ちているように見えるぞ」



「ヤン、魔王城が綺麗だったら観光客で溢れかえるでしょう。こういうのはわざと汚くするものなのですよ」



「そ、そうなのか…?」




 確かに何度か見た魔王城よりも今回の魔王城はボロかった。恐らく、リトの放った魔法は魔王城へと直撃したのだろう。その対応で内部の魔物が駆り出され、勇者の処分どうこうの話では無くなった可能性が高い。




「おやおや、勇者御一行ではございませんか。それに…貴女も一緒に居るのですね。城へ溶岩の玉をぶつけてきたのは貴女ですか?防火壁に変えておいて正解でしたよ」



 ギギギ…と音を立てながら魔王城の門が開かれ、魔王がゆっくりと歩いてきた。




「火の玉をぶつけたのはノエルじゃない。俺だ」



 ノエルが何かを言う前にリトが口を開く。

 ヤンは「えっ?これリトがやったのか?」とびっくりしているようだ。

 魔王は「ククク…」と笑いながら応えた。




「そうですか…。アナタのせいで魔王城はボロボロです」



 魔王はそうリトへと言った後、ノエルの方を向いた。



「さて、魔王城がこうなった原因は貴女にあります。貴女が勇者を処分しなかったが為に魔王城は崩壊寸前、貴女の家族に渡す食糧も少ない状況です。

 貴女に挽回のチャンスを上げましょう、勇者を殺しなさい。私は今から()()ができたのでそちらへ向かおうと思います。期限は…そうですね、私が()()を終える前に終わらせておいた方が、貴女のためでしょうね」




 そう言い終わるのと同時に魔王は城の中へと戻っていった。リトがそれを追おうとして足を踏み出した瞬間、リトの身体が動かなくなった。



 必死に目を動かして見てみると、とても辛そうな表情をしたノエルが見えた。



 …ああ、今回も始まったか。



 リトは一人、そうため息をついた。しかも今回は身体の動きを封じられた状態だ。魔王を殺すから待ってろと言おうにも口を動かすことが出来ない。




 ノエルは火魔法を使い、リトへ業火の鎖を巻きつける。リトの身体が鎖の力で軋むが、リトにとって全く痛くも痒くも無かった。火除のマントのお陰だ。

 しばらくして火魔法が通じていないと気づいたノエルはリトへと雷を落とす。流石にこれは痛い。身体が焦げるような錯覚とピリピリとした感覚がリトの身体を走り抜けた。

 リトはただ、耐えるしか無かった。雷の雨に触覚を奪われ、眩い光に視界を奪われ、暗き深淵に心を奪われてもリトは耐え続けた。





 突如、猛攻が止み、身体の自由が戻ってきた。急いでノエルの方を見るとそこには…



 倒れたノエルと、肩で息をしているセイがいた。















これまでのデータを、セーブしますか?


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 いいえ


勇者リト レベル84 セーブが完了しました


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