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とある勇者の強くてニューゲーム  作者: ヤン・デ・レスキー
4/14

ループ1:勇者リト レベル44 ②



「あ…ええと、私は魔法が少しだけ使えます!一番得意な魔法は火属性の魔法なのですよ!」



 よお。俺はリトって言うんだ。知ってるから続きをさっさと話せ?わーったよ。あのクソ国王、異空間から俺を戻してくれたのは良いが…今この返答に俺の命がかかってないか?!しかも数十分前に戻すとか言ってなかったか?!!チクショー、嘘つきやがったなクソ国王め…!

 どこか遠くから「すまーん!この方が楽しそうじゃったから(^_−)−☆」などと聞こえた気もするが気のせいだ。まぁ初対面のように話せば良いんだよな?!


「…魔法使いってところかぁ?」



「あ、はい!そうです!魔法使いです!」



 よっしゃ!なんか知らねぇけど乗り切ったっぽいな!言い方を変えるだけで変わるもんなのか…??まぁいい、問題は別だ。ノエルの料理が俺は食いてえだけなんだからな!



「俺も魔法は多少は使える。必要ない。ノエル、魔法ではなく…他にお前にしか頼めないことがある」


「は、はい…?なんでしょう…?」



 まずい、ノエルが若干引いてる!けどこれは譲れない問題だ…一か八か!また異空間送りになっても良いから試してみるか!


 リトは椅子から立ち、ノエルの方へ向いた。ノエルは怪訝な顔をしている。


 そして…土下座した。



「頼む…!!俺のためにメシを作ってくれ…!!この通りだ!!!!」



「は、はい…?」



 突然土下座しだしたリトは周りの目から見てもかなり奇妙なのだろう。「お!浮気でもしたのか兄ちゃん!」「嬢ちゃん、一発殴ってやりな!」などと野次馬が飛んでくる。



「頼むうううう"う"!!!ノエルが居ないと俺ぁダメなんだよぉお"お"お"!!!!!側にいてくれよぉ"ぉ"!!!!!」



「え、ええっ…?!わ、分かりましたから!!料理作りますから!!なので顔を上げてください!!!」



 初対面の男に土下座され、若干妙なことを言われながらも泣き落としに掛られたノエルはパニックに陥り、料理作りを約束した。





◇◇◇




 あれから数日後、ノエルがリトの滞在している宿屋へ料理を持ってきてくれたらしい。

 こんこんと聞き慣れた感覚でノックが鳴る。彼女が来たようだ。



「勇者様、こんにちは。料理をお待ちしました」



 リトが扉を開けると、大きな鍋を持ったノエルが微笑んだ。うん、可愛い。



「リトで良い、名前…言ってなかったか?遅くなって悪かった。入ってくれ」



「リト様、お邪魔します」


 部屋に入ったノエルから鍋を預かり、テーブルの上へと置いた。美味しそうな匂いが辺りに漂っている。


「ええと、その鍋は中にインペリアル子豚の角煮が入っています。白コメも持ってきました、一緒に食べると美味しいんですよ」


 ノエルはそう言うと空間の切れ目から炊き立ての白コメを出した。リトは(俺はこの前、白コメと同じところに収容されてたのか…?)などとも思いながらも、言及しないようにした。



「食べてもいいか?」


「はい、是非食べてください!」


「…いただきます」


 リトは料理に、そしてノエルに感謝の意を込めて祈った。そして角煮に箸を伸ばした。


 角煮はとても懐かしい味がした。ノエルの作る料理だ。オカンの作る料理とは少し違うが、最高に美味しい、ノエルにしか作れない味だった。


「……!


 …リト様、泣いていらっしゃるのですか?」



 無自覚に泣いていたのだろう。ノエルが眉を下げて尋ねてきた。


「……とても、美味しい…」


「リト様…。…本当に、私の手料理が食べたかったのですか?」


「そうだ。オカンの味と似ているが、ずっとそれより美味いノエルの料理が食べたかった」


 リトの尋常ではない様子にノエルは不思議な感情を覚えた。会うのは2回目のこの男が、何故ここまでノエルの料理に執着しているのか…

 


 ノエルは一つの答えを持ってはいた。おそらく彼の母親も同じ作り方をしたのだろう。だが、何故彼がノエルの料理がそう作られると分かっていたのか。これがノエルには分からなかったのだ。



 ノエルには、この男…リトが、ホンモノの勇者であることしか分からなかった。








◇◇◇






「くそっ…!!また俺はノエルを殺した…!」



 ノエルを仲間にしてから半年と2ヶ月が経った。武闘家のヤンと僧侶のセイも既に仲間にしてある。やはり、魔王城まであと半分の距離に来るとノエルは俺を殺そうとするらしい。


 前回戦ったときよりも圧倒的にノエルは強かった。前は火の玉をぽんぽん飛ばしていたのに、今回は業火の鎖でリトの身体を縛りつけ、マグマの海へと沈めようとしてきた。リトは出来るだけ長い間耐えたのだが、HPが残り1のところでもうダメだと鎖を引き千切ると、千切れた鎖が飛んでいった方向にノエルがいた。そしてノエルは鎖に焼かれて死んだのだ。



「…ノエル。ノエルは嫌がるかもしれねぇが…俺は必ずノエルを生かしてみせる。また、()()()()()()()


 リトはセイから貰った二つめの小瓶を握りしめ、ぽつりと呟いた。




 リト、ヤン、セイの三人はノエルの死を悼みながらも、魔王討伐への道を歩んだ。





◇◇◇




 ノエルを亡くしてから二ヶ月後。リト達は魔王城の中を闊歩していた。


「いや〜、リトが出てくる魔物を片っ端から片付けていくから、俺たちは楽でいいな!


 なぁリト、もしかして魔王城に住んでたのか?」



「そんな訳ないでしょうヤン。いくらリトが魔王城の罠とかを分かっているからと言って、そこまで気を抜いていたら死にますよ。ここは魔物の親玉が住むところです。気をつけなさい」



「うん、まぁそうだな…すまない、セイ、リト」



「気にしなくていいぞ、俺ぁ魔王城に住んでたからな!」



「「は?」」



「ジョーダンだよジョーダン!でも俺も、魔王へ続く最短ルートにある罠しか知らねぇから、あんま離れんなよ」



 リトは前回辿った魔王城のルートを進んでいるだけだ。ループしているとどこに罠があるか知ってるから楽だなとかは全くもって思っていない。思っていない。





 その後、魔王を倒したリトは魔王にボソッと言葉を吐いた。



「ケっ、少しの間だが、ノエルと仲良く黄泉で過ごすんだな」


「……ノ、エル…」


「話は終わりだ。じゃあな」



 リトが魔王へ剣を突き刺す。魔王は静かに黒い泥となり消えた。



「(ふむ…魔王も魔物の一種…ですか。やはりノエルさんが塵となった時とは少し違いますね…)」



「セーイ!何してんだ!行くぞー!!」


「ああ、すまない。今行きます」



 魔王を討ち倒した後、もうここに用はない。リト達は魔王城から出ようとしたが、ふと、他の道を手当たり次第進んでみることにした。



 魔王を倒したからか、新しく通る道へ入っても魔物は出てこない。罠に気をつけながらリト達は奥へ奥へと進んだ。


 魔王城の地下へ差し掛かった時、魔物とは違う何かの臭いを捉えたリトはその方向へ進んでいく。ヤン、セイもしばらく進んだ後にその臭いを感知し、その正体を確認するべく黙って歩いた。


 リト達の足が止まった。遂にそれが見えたのだ。リトはセイに頼み、辺りを光魔法で明るくしてもらった。


 見えたものは…大きな山だ。人が数十人ほど重なっているような…いや、人が数十人積み上げられてできた屍の山がリト達の前にはあった。辺りには、言葉にしたくないが…液体がぶちまけられている。山の一部一部がまだ人のカタチをしていることが余計にリト達の正気を抉る。



「…」


「…リト、帰りましょう。三人でこの人たちを連れ帰るのは不可能です。連れ帰ってこられた方も迷惑でしょう」



「…セイ、そうだな。帰るか」



 三人は死体の山へ鎮魂の祈りを捧げ、魔王城を去った。







◇◇◇



 魔王を倒してから数日後、『はじまりの国』へ帰る予定のリトは、ヤンとセイに別れの挨拶をしていた。



「ヤン、セイ。今回もありがとな。その…お前らが居てくれたから、俺は正気を保てた。いろいろと…ありがとう」


「ゔゔっ…リドぉ……こちらごそありがどぉ…リドだぢどの旅…楽しがっだよぉ……セイもぉ"…ありがどな……グスン」


「ヤン!何泣いているのですか、私とは同じ街に帰るでしょう!リトに会いたいならまた手紙を書けば良いのです!ほら…はじまりの国の隣にある街とかで落ち合って、一緒にビールを呑むとかどうです?」


「セイ…おまえ……お酒飲めねぇだろ、、?」



「私はもちろんバッタービールですよ!アルコールはダメですからね!」



「…ふふ。二人とも、いつかまた会おうな」



「「勿論だ!(です!)」」






◇◇◇





 場所は変わって『はじまりの国』。魔王を討伐した勇者、リトはハジマリ国王と謁見していた。



「勇者リトよ!よくぞ戻った!今回のタイムは…11ヶ月か!ふぉふぉふぉ…

 して、勇者リトよ。そなたの望みは分かっておるのだが…一つ頼まれごとをしとくれんかのう?(^_−)−☆」



 どうせロクな頼み事ではないが、リトは聞いてみることにした。



「ふぉ、実はのう…ここから魔王城までの半分くらいのところに、寂れた山村があるのじゃよ…。(^ー^)

 一年ほど前に、大規模な人攫いが起きたらしくての〜。魔王城からも遠くも無く、そこの環境も少し厳しくての。アクセスしにくいからって理由で調査を放っていたのじゃ」


「国王様、俺はそこの調査をしてくれば良いのか?」


 リトの問いにハジマリ国王はにっこりと笑い「そうじゃ。主らにしかできんぞーい(^ー^)」と言った。加えて「ヤンとセイも調査に同行させるからの〜」とか言っていた気がする。

 この人は一体何者なんだ。いや、時渡とかいう妙義を使っている時点で只者ではないな。これ以上考えるのはやめておこう…



 リトは与えられた任務を遂行すべく、謁見が終わった後、山村最寄りの訪れたことがあった街へと転移魔法を用いた。



 その街で「帰ってから数日も経ってないのにまた会うことになったんだが…?俺の涙を返せ!リト!!!」と赤面するヤンと「バッタービール…いえ、任務のことですよね。ほらヤン、恥ずかしがっていないで行きますよ」と眉を寄せるセイに再会するのは、リトがそこに着いてから数時間後の話だ。






◇◇◇




「…ここがその山村ですか。これは山村というよりも廃村ですね」



 リト達は山村へと到着した。数十人程度が住めそうな小さな村だ。この辺りは空気が薄い上に、大気中に溶け込んでいる魔力も多いため、リト達でなければ調査は難しいとハジマリ国王が言っていたのも頷けた。



「辺りに人の気配はねぇな。なぁリト、なんか分かったか?」



「数十人程度が住めそぉなところだな。人攫いか…今ごろ生きてんのかな、、、?今ごろ、生きてない、、?」



 ヤンの問いにリトが答える。リトは自分の言った言葉で顔を青褪めた。

 そういえば…一週間ほど前に…ちょうどこの村に住めそうな…ちょうど良い人数の死体を……魔王城で見た。


 リトが顔を青褪めた様子を見たヤンとセイが、その意味を察する。




「…リト、ヤン。調査は終わりです。ハジマリ国王陛下に結果を伝えましょう」



「…帰るか。でもさぁ、なんで魔物はこの村を襲ったんだ?しかもあの時の死体を見るに…1ヶ月ほどまでは生きていただろうな。

 俺たちがもう少し早く来ていたら…助けることができたのかもしれん」



 ヤンのその呟きは、深い山の中へと消えていった。





◇◇◇



「…フムフム。山村は魔物に攫われた。魔王城の下で住民らしき死体を見つけた…とな?

 

 あいわかった!勇者リト、並びに武闘家ヤン、僧侶セイよ。よく調べてきおった!そなた達に感謝を示そう。何か…望みはあるかの?なんでも叶えてやるぞ?ん?」


 ハジマリ国王のその問いに、ヤンは「強い奴と戦うことが唯一の望みだなぁ」と言い、セイは「バッタービール一年分が欲しいです」などと言ったそうな。



「フムフム、それではリトよ。明日の朝またここに来るのじゃ。

 ヤンよ。明後日の朝にまたここに来るのじゃ、ワシが相手してやろう。

 セイよ、お主の街でバッタービールを飲めるようにしておいたぞい。一年間はタダで飲み放題にしたおいたからの」



 ヤンとセイは驚いた顔をして、ありがとうございますと礼を述べた。



◇◇◇




 翌日、勇者リトが国王の元へ赴くと、前回と同様に杖を持った国王がリトを待っていた。


「よく来たな!勇者リトよ!


 特に話すことも無いので早速始めさせてもらうぞい!」


 国王がそう言い終わるのと同時に、リトの身体が青い光で発光し出した。


「(クソ)国王様、一ついいか?」


「なんじゃ?」


「俺が異空間に飲み込まれた時、(いろいろ言ってきてウザかったけど)助けてくれただろ?

 その…ありがとな」



 リトの言葉を聞いたハジマリ国王は、にっこりと笑った。



「良いのじゃぞ。そなたは大切な……なのじゃからな。

 そ…そう…ワシにはお主の心の声が…こえるか………葉遣い?いや…心遣……気をつけ……」



 もう、過去の方へとリトの存在は重きを置いたのだろう。ハジマリ国王の最後の言葉はリトへ届かなかった。











これまでのデータを、セーブしますか?


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勇者リト レベル60 セーブが完了しました

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