二人の騎士
空は黄昏の色をしていた。
その空の下、荒涼たる戦場にて剣を撃ち合うは二人の騎士。
帝国随一の騎士『黒剣』のローランと、共和国の英雄『光の騎士』アンドリューだ。
「もはや帝国の騎士はお前しかいない!投降しろ!ローラン!」
「出来ぬ相談だなアンドリュー。貴様も騎士ならばわかっていよう。」
アンドリューの後方から共和国の歩兵達が、帝国の兵達の屍を踏みつけながら押し寄せてくる。
「よせ!来るな!」
アンドリューの剣戟の一瞬の隙をつき、ローランの二つ名の証たる黒剣に黒きオーラが凝縮される。
「ぬん!」
怒気ともつかぬ息と共にローランの黒剣から斬撃が振り下ろされた。その斬撃は大きくなり、巨大な斬撃の波となりアンドリューと共和国の兵達へと襲い掛かった。
アンドリューは辛うじて手にした聖剣にて受け止めるべく構えたが、力の弱き共和国の歩兵達は為すすべなく斬撃の波に飲み込まれていった。
「くっ…!」
聖剣を支えにアンドリューが立ち上がった。周囲を見渡すと、大地は抉られ、見るも無残な姿になった共和国の兵達が横たわっていた。アンドリューは辛うじて息のある兵に駆け寄った。
「リア!しっかりしろ!すぐ救護兵を…!」
その兵はリアという名だった。
「アンドリュー…。いいんだ…。それより…あんたに頼みたいことがある。」
「喋るな!傷は浅くないんだぞ!」
リアは真正面からあの斬撃の波を受けたのだろう。胴が袈裟に抉られていた。
「今度…娘の誕生日なんだ…。戦争が終わったら…家族で祝おうって…約束してたんだ。」
「大丈夫だ!お前は死なない!絶対娘さんの元に連れて帰る!」
リアは言うまでもなく、死へ向かっていた。アンドリューもそれはわかっているはずだった。
「娘に…謝っといてくれ…。約束守れなくて…ごめんなって。お父さんは…ミーナとお母さんのことが…大好きだったって…。どうか…家族に…。」
「リア!」
リアの目の光は失われ、リアの命の灯は消えた。
「…リア…っ!」
ローランはそれを熱の無い目で見降ろし、二振り目の斬撃を放とうとしていた。
刹那その視界からアンドリューが消えたかと思われたが、消えたかのような速さでローランに切りかかっていた。
「ローランっ!!貴様ぁぁっ!!!」
「ぬぅ…っ!」
辛うじて受け切ったローランはアンドリューを打ち払う。
「何故だ…っ!。」
アンドリューの体がほのかに光を帯び始める。
「何故!!無益な争いを続けるんだ!!」
膂力が徐々に上がり始めていた。
「答えろ!ローラン!!」
アンドリューの聖剣がローランの鎧の一部を吹き飛ばした。踏みとどまったローランから血が数滴滴り落ちる。
「…言ったはずだ。お前も騎士ならわかっていようと。」
黒剣から放たれる黒きオーラをローランも帯び始め、全身を包み込み始めていた。
「騎士とは主君のために生き、主君のために戦い、そして死ぬ。…それがどんな結末を迎えようともな!」
黒きオーラに包み込まれたローランが、光を帯びたアンドリューの剣を打ち払う。
今や戦場には、黒きオーラに包まれたローランと、光を帯びたアンドリュー二人以外、誰も立つものはいなかった。
「騎士は決してそんな破滅的なものじゃない…。」
アンドリューは剣を強く握りこんだ。
「騎士とは!己の信念に剣を捧げる者のことだ!」
「下らん!そんなものは世迷言だ!」
ローランの黒剣から黒きオーラが噴出し、アンドリューがさらなる光を帯び始める。
「その信念と共に逝け!アンドリューッ!!」
「古き理想と共に滅びろ!ローランッ!!」
極限まで高められた力を込めた二人の一撃が、振り下ろされた。