ナビゲーター
「うわっ!……っと、ごめんなさい……」
一人の少年が思わずと言った声をあげて、視線を集め小さく謝った。
場所は召喚の間。
召喚した側の人間は、予想外の召喚人数に慌てて居たのでやけに大人しい召喚者達の様子と一人驚いた少年の事は流された。
(ええと、聞こえてる?)
(はい。大丈夫です。では、改めまして私は先達者とお呼び下さい。ささやかながらナカミチ・タカ様の世界案内人を務めさせていただきます)
私は現在、ナカミチ・タカと言う少年の魂に張り付いている。事故ったせいだろう。女神の所ではこの少年の陰に隠れていた。加護を受ける時にヒヤリとしたが、結果的に良い事も有った。
伊達に人生やってないと言う事か、私も英雄として霊魂召喚された事が有る。
魂の質量としてナカミチ・タカを押し潰し乗っとる事も出来るが、私には次も有る。ただ、ずっと隠れているのも暇なので、ナカミチ・タカの記憶から最適な存在を選んだ。
ラノベでよく有る自我の有るスキルである。
(ナビゲーターさん?長いから、ナビって呼んでも良い?僕の事はタカで良いよ)
(はい。タカ様)
「英雄様方、一先ず席を御用意いたしましたので案内させていただきます」
「分かりました」
代表して会話をするのは佐藤先生だ。生徒はうっかり余計な事を喋らないように基本的に黙っている。
裏方は急増した英雄様への対応に必死である。まず、食材。部屋に人。殿下と呼ばれる方々も集まっているのだが、英雄は彼らよりも優先されるらしい。
(ナビって、もしかして女神様の加護?)
(そのようなモノです。正確には『学習定着』であり、私は偶然の産物です)
(あ、女神様の腕?)
(……)
女神様の腕と言うか、その構成神力が私のモノにはなった。
固有能力『継承転生』『自己空間』
異能力『偽擬適応』『物質操作』
特殊技能『自己解析』『他者解析』『完全記憶』
祝福『種族限界破棄』
加護『恵厄豊穣』『学習定着』
神能力『記録閲覧』
加護は、実際は私が奪った形になる。が、ステータスは私が入っているナカミチ・タカの身体にも影響するので問題はない。むしろ他の能力の影響も出る。
各国の使者には紅茶。
英雄達には紅茶と軽食が出された所で、話が始まった。
言葉が通じるのは女神様の加護のお陰だろう。
「……現在、残っている国は20年前より半数となった。どうか人類の生域圏を確保する為に協力して欲しい」
「……まず、皆で話し合いをしたいので申し訳ありませんが、席を外して頂けますか?」
「分かった」
「……」
「あ、わたくしどもはお茶を……」
「いえ、あの。身内の話ですので」
と、パッと見て人が居なくなった所で井頭さんが口を開く。
「えっと、何か見られてる感覚があります」
「じゃあ、私が……遮断・『結界』」
結界を張った髙橋さんがチラッと見ると、井頭さんは頷いた。
「ッフ~。やっぱり英雄様っつっても監視されんのか」
「えっと、皆。机の上のモノには特に害になるものは入ってないみたい」
途端、誰も手を付けてなかった紅茶に手を伸ばし始めた。
「あ~、緊張した」
「喉カラカラだよ」
「うんうん。目が明らかに値踏みに変わっていってたよね~」
「若いからかな」
「はいはい。皆さん。どれだけ時間が有るか分かりません。どうこれからについて意見をください」
「まず、女神様の所で話した通り今はバラバラになるのは良くないよね」
「でもさ、強要されたらどうするの?衣食住は向こうが出してくれるんだよね」
「衣については僕が、防具の延長上って事で作れる、と思う」
「食は、魔物肉が食べられるらしいし、私の『箱庭田畑』である程度の植物は収穫出来る。……お米も取れる、よ?」
「後は……住か?魔物の土地でも戦闘能力のごり押しで住めるな」
「じゃあ、逆に要求って何だろう。最悪、おれ等だけで生きられるとして、スムーズに向こうに協力したとして対価は、お金か?」
召喚されなきゃ生きてなかったとか、それとこれとは別なのである。
「あんまり、向こうからモノを受けとると……」
そして約2時間後。
佐藤先生と各国の代表とで握手が交わされた。