事故
何度も死ねば、死後の世界とやらが見えてくる。
魂のみが漂う空間で、距離も時間も曖昧な場所……なのだが。
近くて遠い場所から場所へ唐突に線が結ばれた。丁度線上には私。
(おぉ、魂転移の衝突事故……)
所謂、召喚である。時間と距離の無いような空間を通す事で離れた場所からタイムラグ無く魂を移動させる術である。
ちなみに魂限定とは言え純粋に時間や空間を歪める転移(召喚)よりコストは安い。
※他視点
死んだ。修学旅行途中のバスの中で思った。土砂崩れに巻き込まれた、単純に運が悪かっただけの話。冷たい感覚が手足から身体の中心に浸透してきて、視界が暗くなって………
パッと明るくなった。あれぇ?
「ええと、皆様この度のご不幸誠に御愁傷様でございます」
ザ・女神様が居た。
ついでに、バスに乗っていた僕のクラスメイト達と先生と絶望の運転手。
御愁傷様って、そう言う事だろうなぁ。
「お亡くなりになって、魂になられた皆様はただ今霊魂召喚の最中でございます。本来、強い魂を喚び出す霊魂召喚ですが纏まって亡くなられた複数の魂を誤って捉えた結果、そこまで強くもないあなた方が召喚されようとしています。召喚は私の世界での事。弱いまま異なる世界へ行くあなた方を不憫に思い、私、第3等創造神へセリアが加護を授けようと思います」
「あ、あの~」
そこで運転手が声を上げた。
「嗚呼、貴方は……」
「はい、はい……。この子達を死なせたのは俺の責任です。俺はこのまま死なせてください。どうかその分神様の加護はこの子達にお願いします」
憤りを顔に浮かべたクラスメイトも、その懺悔に気まずさを浮かべた。本当に自然な事故だったのは分かっては居るのだ。
「山田さん……」
「良いんです。佐藤先生。俺はこのままのうのうと生きられる程強くは無いので……」
「……」
「貴方の覚悟は尊重しましょう」
運転手、山田さんは女神様に触れられるととても安らいだ表情で消えていった。
その後、しんみりした空気を誰も崩せず粛々と加護が与えられていった。
「中道 公さん……ん?」
「え?実体有るのコレ?」
名前を呼ばれて、光る玉を胸に押し当てられる。他の皆はスルリと入っていったソレが……入らない。
しばらくグイグイ(僕に圧力がかかっている感じは無い)パントマイムみたいな動きの女神様が唐突に接近してきた、がその綺麗なご尊顔を拝見する余裕はなかった。
「「う、腕が!?」」
光る玉が吸い込まれ、勢い余って女神様の腕が僕の胸に突き刺さった。
慌てて離れたが、僕の胸に穴は無いし、女神様の腕も無い。
フワッと腕は元に戻ったが。
「ま、まあ大丈夫です(私の力の一部が入っちゃった?)」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫です!」
とまあ、アクシデントはこの位だった。
ここで少し空気が変わって、余裕が出てきた僕ら。委員長だった藤岡さんが恐る恐る発言した。
「すみません、えっと……女神様。ここにはどのくらい居られますか?」
元の世界に~なんて、バカな事は誰も言わなかった。死ぬ間際の経験、そして山田さんが消えていった瞬間を見た時から本来僕らが死んだ人である事は理解していた。
「召喚先の世界の時間は止めてあるので、いつまでいても大丈夫ですよ。肉体の構築は召喚先でされるので、生理的な問題も有りません。……そうですね、私の世界の事も少し話しましょうか」
そして、女神様は女神様だった。僕らの事を汲み取ってくれて情報までくれた。
その世界は魔法の世界だと言う。
そして、魔物(魔石を核に動く生物)が多数を占める世界らしい。
人類(エルフや獣人、魔人含む)の領域は世界でも1割に満たず、常に魔物の脅威にさらされている状態。
人類は日々、魔物に対抗しようと発展してきた中で生み出されたのが霊魂召喚だと言う。
喚び出される者は当然強者だが、制御が効かず本当に危険な時に使われてきた。
召喚された者は基本的に切り札なので、全国家で丁重な扱いを受ける。
「た、戦い?」
「いえ、加護は各自に向いた事柄への補助と成長に特化しています。戦い以外の支援も重要です。まさか英雄がイモを噛り、ボロを着て棒切れを振り回す訳が無いでしょう?」
「なるほど」
「それから、忘れないでください。あなた方は、全員で英雄として召喚されると言う事を」
そして、幾つかの作戦を立てた後、女神様にお礼を言って僕らは召喚先に降り立った。