続く死
「……経験上、私はどうも女性に愛を向ける事が苦手なようですよ?」
これまでの生でも、私から告白した経験は少ないが、決まってフられるのは私。曰く『良い人』なのだそう。
「構いませんわ。その分を私が愛します」
12も下の女性は、美しくそう言った。
「私自身が賜った位は男爵。とても公爵家のご令嬢が嫁ぐ家ではありません」
しかも、魔物討伐の戦功だ。ご令嬢にはさぞ血生臭い事だろう。
「時に、名の重さは位を覆すモノですわ。『絶技の騎士』ギルバート・リーン男爵様」
その名を付けたのは、貴女の父君でしょうに。
私はフェアラ・フィルマメント公爵令嬢と婚約した。
婚約を期に魔物討伐隊は引退し、近衛と呼ばれる貴族の護衛職に就いた。とある公爵令嬢の護衛である。
実質、無職も同然だが私の『恵厄豊穣』のせいで魔物が増えているのに変わりはない。まだ、26の私が指導を行う立場になった。危険と言われようが、時には外へ飛び出す事も有る。
大丈夫、公爵令嬢(の住む都市)の護衛である。
「愛しています。フェアラ」
「うふふ。結局、私に何も望まなかったわね愛しい貴方」
「貴女が生きている以上に望む事などあったでしょうか」
「……最後の最期に最大の無理難題を持ってきたわね。ギル、私は貴方に何か与えられたのかしら」
「貴女との優しい平穏な時間を」
「……そうね。ギル、優しい時間だったわ」
フェアラが死んだ。大往生と言えるだろう。
私は数々の生で得たモノのせいで、共に年を重ねても健康体である。
……そして。
「セバス、私ももう逝く。探さないでくれ」
「……旦那様はまだまだご健康でいらっしゃいます」
長年仕えた執事の子にそう告げた。
最も長く共に居た者達も、両親や兄弟達も、もう居ない。
一人になった自室で、特殊な毒を煽る。
持ち物はほとんど子等に譲った。
『継承転生』によってこの身体は私のモノとして次の生へ継承される。
私は忽然と消えたように見えるのだろう。
今回の生は幸せだった。
嗚呼、残酷な事にそれでも私は次の生を生きて死んでも次が有るのだろう。
それでも、私はどの生も等しく生きるのだろう。
私は、人の何倍もの生を生きても次を受け入れる余裕が……満足を感じる事は無いのだろう。
産まれて。
生きる。
その度に知らない事を知って。
死ぬ。
裕福な男性に生まれて伴侶に続いて死ぬ事が有った。
貧乏な女性に生まれて友と死ぬ事が有った。
エルフに、獣人に、人工生命に生まれる事が有った。
たぶん、ヒトに近ければ魂が肉体に適応するのだろう。
それでも、私は私だった。