1と2、3・・・
一番最初は固有能力だった。
生まれつき、持っている能力。本人の資質。
多くは『○○識別』。
○○には土とか、穀物、家畜等が入り、その物の良し悪しが分かる能力だ。農民には必須とも言える。
また、環境や遺伝で持ちやすい持ちにくいが有るらしく、農民に滅多に無い『速算』とかは商人がよく持っている。
そして、稀に特殊な能力が発現する事もある。
農民の3男の私がそうだった。『継承転生』と言うよく分からない能力。使い道がなければ無いも同然の能力だった。
私が13になる年。不作の年だった。
識別の能力を有する兄、弟達。無能の私。真っ先に口減らしに選ばれたのは当然だと思った。
斧を片手に立つ父に縛られた私は奇妙にも感謝した。
手をかける事が出来ないからと、餓死するまで放っておかれる子も居ると言う。静かに、目から綺麗なモノを出す父はとても愛情深い人だと思った。
「……すまない」
(ありがとう)
そして私は死んだ。
次に私は産まれた。
発動してしまえば私の能力はわかった。記憶は記録として継承され、身体能力は数値として継承され、死から生へ巡る転生をした。
とは言え、産まれた家は貴族か大商人かと言うような快適かつ見た事の無いモノに囲まれた所で、初めは混乱した。
しかも、違う国にでも産まれたのか言葉も分からず、身体自体は赤ん坊で不自由であり、大声で叫んだり泣きわめいた記憶が有る。
さて、前世で死んだ13になる年。
中学生になって、ようやく今世に馴染んだ気がする。少し前まで、前世を引きずりちょっと、いや大分妄想癖の強い子として両親には迷惑をかけてしまったと思う。
一度本気で病院へ連れていかれそうになった。
今世は前世とは違う世界だ。
もしくは、違う惑星である。まあ、どちらにせよ常識やらなにやらが違うと言う訳だ。
小学生では違いがいまいち分からず、勉強が出来ると大喜びであったのが懐かしい。いや、事実として知識は財産になり得る事は前も今も同じなのだけれども。
初め、貴族か大商人かと思ったのは間違いで、学べるのはそう言う世界、国の制度と言うだけの話だった。
両親は特に裕福でなければ貧しくもない程度の、優しい人達だった。心地よい愛情は前世の親を思い出させ、今世の親への感謝へと繋がった。
顔は前世の面影が有りつつ両親の子と言えたのが不思議だった。髪や目の色合いもほんのり前世の赤が混じったのか、黒の両親に対して明るい茶髪だった。
私は世界が違えば得難い学習環境と、親への感謝を糧に学費が免除される特待生の地位をもぎ取った。しかもエスカレーター式付属高校の、だ。
お祝いに、両親と旅行へ出かける途中。事故に巻き込まれた。
両親は私を庇って即死した事に、赤い血の寒さと赤い炎の熱さの中で不幸中の幸いだと思ってしまった。
そして私は死んだ。
3度目の生は瞬く間に過ぎた。
大人しすぎた赤ん坊の私は、悪魔付きとされ炎に焼かれた。
両親は悪魔払いから金を受け取っていた。
4度目の生は、農民の4男だった。赤ん坊に擬態するのが難しい。
その世界では、生き残った次男が畑を継いで私や弟達は労働力として一生を過ごした。継がせる畑もない私達に子が作れる筈もなく、最期は一人病で死んだ。
5度目の生は、そこそこの貴族であった。
継承された髪や目の色のせいか、母が不貞を疑われ私は一生軟禁生活を送った。関わる人が少ない為、言語を覚えるのに苦労した事が私の存在価値を下げたらしく、2人目の弟が産まれた頃に病死した。
6度目の生は、孤児であった。
5つの時に流行り病で呆気なく死んだ。
良い環境や両親と言うモノはたいへんに有り難い。