四 ~ 殺意の矛先 ~
誰かを責めれば、楽なのかもしれない。
辛さを紛らわしたいから……。
「そうか。恋人は殺されたか」
「……さすがだな。人を殺して弄ぶなんて」
「これのことか? その驚きようからして、その恋人に似ているのか。どうだ、死人にもう一度会えた気分は?」
「死人を冒涜するなっ」
「ハハハッ。そう捉えるか。だが、先ほども言ったが、私は人間を殺してなどいなければ、死体で遊んでいない。そうだな、これはある種の“幻”だ。お前も分かっているんじゃないか」
「……お前のために、あいつは殺されたんだ」
「それは人間の傲慢だ。まったく、人間とは無駄なことを好むようだ」
「あいつの死を無駄なんて言うなっ」
「生贄のことか? それのどこが無駄ではないのだ?」
「町のために、あいつは命を捧げたんだ」
「それがどうして私に関わる?」
「……町は日照り続きで枯渇していた。作物も育たなければ、水もなくなり、干ばつも起きてる。このままいけば、いずれ暴動が起きる。そうなれば、いつ人に危害が加わるのか分からない。それを治めるのにあいつは……」
「だからなんだ?」
「天候不良は鬼の息吹のせいだとされている。鬼の気を鎮めればーー」
「それが人間の業だと言うのだ。天候など自然の理にすぎん」
「だが、町の人はみなそう思っている」
「哀れだな。そんなものは思いすごしだ。己に不易があれば、すぐに誰かのせいにする。雨が降らないのは理。作為でもなんでもない。数日雨が降らなくても、いつかは降る。それを堪えるのを恐れ、あがいているだけだ。それは例え、三日後に雨が降ったとしても、昨日、誰かの命を捧げていれば、それのおかげだと、己を称える。それは耐えることから逃げているだけだ」
「…………」
「さらに人間とは、不可解なことが起こると、すぐに異形の者のせいにする。私からすれば、人間こそ異形の者でしかない。それを理解しておらぬ。まして、すべての出来事には“因果”がある。それは人間にもしかり。それを知らぬのだから」
「……だから、あいつが死んだのも無意味だと……」
「お前にも見えているのだろ、この者たちの姿が。この者たちもそうだ。人間の愚行によって命を絶たれた者の魂が彷徨い、具現化しているだけ」
「愚行…… それって生贄のこと…… なら、ここにいるだけ生贄が」
「何かの災いが起これば命をすぐに捧げる。皮肉なものだ。私を忌み嫌いながら、私に命を捧げられ、魂がここに留まるのだから」
「…………」
「理解したか? 私はこいつを殺してなどおらず、誰が恋人を殺したのかを」
「……それは」
「分かっているようだな。お前が向けるべき殺意の矛先を。それを納得したくないからこそ、私に刃を向けているだけなんだと。素直になればどうだ?」
「素直に……」
誰が悪い?
悪いのは……。
そんなことは……。
分かって……。




