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心情の行方  作者: ひろゆき
3/5

 三 ~ 幻影の笑み ~

 どうして?

 笑うな……。

 笑わないでくれ……。

 町が死にかけてから、どれだけの時が流れたかは分からない。

 すべては鬼のせい。

 鬼のせいで恋人は命を絶たなければいけなかった。

 もちろん、納得なんかしていない。

 恋人の命を無駄になんかしたくない。

 だからこの場所に来た。


 月の瞬きが照らすなか、体が固まり、彼女の不敵な笑みが……。

 そのとき、彼女の足元に横たわっていたものが、ぎこちなく動いた。

 それは死体だったのか、人形じゃなかったのか。

 恐怖が息を奪っていくなか、ゆっくりと立ち上がり、バキバキと、まるで外れていた関節をはめていくような音を軋ませる。

 うなだれるように起き上がった人影。

 彼女と同じ赤いドレスを着た後ろ姿。細く華奢な腕と足。それが女性であると直感する。

 肩の辺りまで伸びていた髪を乱暴に揺らすと、唐突にこちらに振り返る。


 全身に巡っていたはずの血が一気に固まったみたいに、熱が奪われてしまい、視界が霞んでいく。

 そこに現れた恋人の姿に。

 死んだはずの恋人の姿に。


 時計の針止まってしまった。

 あのとき、恋人を喪ってから。

 なんで恋人は死んだ?

 町のため?

 人のため?

 つまらない問いかけが胸をざわめかせる。


 そこにいたのは恋人。

 そうじゃない。

 恋人はもういない。

 目に見えているのは幻なんだ、と止まりそうな心臓に言い聞かせる。

 なぜなら、そこにいる恋人は、感情を捨ててしまったみたいに蒼白であり、焦点が定まっていないのか、遠い場所を眺めている。

 そのとき、こちらの動揺を悟ったのか、口角を吊り上げて笑みを作り上げた。

 感情の死んだ顔に浮かぶ笑みが、より恐怖を誘い、背筋を冷やした。

 

 恋人は目を逸らさず、肩を揺らしてすっと動き出す。

 まるで操り人形みたいなぎこちない動きで彼女の前を横切ると、彼女の座る椅子の後ろにゆっくりと回った。

 笑みを崩さない彼女を、後ろから抱きしめるように細い腕を胸の前に伸ばし、彼女の顔の横に自分の顔を並べた。

 こちらを挑発するように、胸にやった腕を彼女は掴み、より目を細める。

 すると恋人も目を細める。

 刹那、命が芽吹いていたころの恋人の笑顔がそこに甦った。

 胸の奥を掻き乱す二人の笑顔。恋人との思い出さえも踏み潰されているみたいな、不快感が全身を裂いていく。

 彼女の唇が動く。

 彼女の言葉が心を嘲笑った。


 ーー そうか、恋人は殺されたか。

 幻……。 幻なんだと痛感していても、分かっていても……。

 それでも……。 

 辛さは変わらない。

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