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きんぱつ太郎

作者: きんぱつbot

*****


昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんはきんぱつ狂いでした。


おじいさんは山へ芝刈りに……行くふりをしてきんぱつを探しに行きました。


「稲穂って実質きんぱつなのではないだろうか」


町へ行く道中、水田を眺めながら、おじいさんはおかしな独り言を呟きました。年齢を考慮しても理解しがたいものですが、おじいさんはきんぱつ狂いなので仕方がありません。


しばらく歩くと町が見えてきました。町には沢山のきんぱつがいるので、想像するだけでおじいさんのよだれは止まりません。


「きんぱつはどこじゃー、きんぱつきんぱつ」


町はいろいろな場所から人が集まっています。

おじいさんの狙いは異国のきんぱつでした。血走った目で町を歩いて回るその姿は、通報されない方が不思議でした。


一方、おばあさんはそのころ川で洗濯……などという非効率的なことはせず、電気洗濯機でさっさと済ませ、スマホで日課のブログ更新に励んでいました。おばあさんは有名ブロガーなのです。今日のネタは「おじいさんの隠しているエロ本が金髪ばかりだったので、焚書したいのですがどうでしよう」というものでした。


「ふむふむ……焚書はやりすぎだけど、中身をマッチョの男の本に差し替えておく程度なら、か。いいのうそれ」


おばあさんは読者の意見に感心し、さっそく実行するべく書店に向かいました。すると、途中で川から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。


「ヒエ……何あれ、気持ちわる。近寄らんとこ」


人間サイズの桃は正直グロテスクでした。おばあさんは桃をスルーして書店へと急ぎました。 今はマッチョの本以外に時間を割いている暇は無いのです。


そして日が暮れるころ、おじいさんは肩を落として町から帰ってきました。


「全然きんぱつがいなかった……」


ここ最近は満足にきんぱつに声をかけることができません。それは町に「最近やべーやつが出没するから気を付けた方がいい」という噂が広まっているからですが、おじいさんが知る由もありません。仕方がないので、いつもの写真屋さんできんぱつの写真(いかがわしいやつ)を買い、家で楽しむことにしました。


「こんなんじゃ満足できねえぜ……」


その時、おじいさんは橋の根元に大きな桃が挟まっているのを見つけました。


「実質、尻なのでは」


おじいさんは若干興奮しながら桃を引き上げ、担ぎながら家へと帰っていきました。


そのころ、おばあさんは金髪本を筋肉本にすり替える作業を終え、満足していました。おじいさんの苦悶に悶える表情が目に浮かびます。


「ただいま一、帰ったぞう」


と、そのおじいさんが帰ってきました。巨大な桃を抱えて。


「うわあああああああああああ!」


おばあさんは思わずおじいさんを突き飛ばしました。おじいさんは盛大に転びました。その拍子に桃はすぽーんとすっぽ抜けてしまい、家の中でバウンドしました。


桃はスーパーボールのようによく跳ね、家の中をめちゃくちゃに散らかしました。おばあさんが仕込んだ筋肉の本も宙を舞っています。


「おお……! 尻が暴れておる……静まりたまえ、静まりたまえ……!」


おじいさんの妄言が通じたのか、桃はバウンドを止めテーブルの上に鎮座する格好になりました。


「……あんた、どうするのさ、これ」


「わからんなあ」


二人が途方に暮れていると、唐突に桃がパカッと割れ、中から白い白煙と勇壮なBGMと共に屈強な全裸の髭男が姿を現しました。


「我が名は、桃太郎」


桃太郎と名乗る男はニタアと笑いました。おばあさんは死期を悟りました。おじいさんはせっかく拾った尻が割れてしまったことを悲しんでいました。


「我を助けてくれたことを感謝する、心優しき美男美女の夫婦よ」


桃太郎の目は節穴のようです。


「おお、見た目のわりに気さくな青年じゃな。わしが拾ってあげたのじゃ、なんか大きなお尻みたいで面白かったのじゃ」


「そうか。感謝する。我は桃に封印された太古の戦士だ。……どうやら、ここには我のかつての主も友も好敵手も存在しないようようだな」


「よくわからんが、落ち込むんじゃない。……そうだ、きんぱつの写真ならあるぞ!」


おじいさんは今日入手したばかりの新鮮なきんぱつの写真を桃太郎に渡しました。


「これはいったい……ほう、これはこれは。ふむ…………とても良いものだな」


桃太郎はニッコリと微笑みました。おじいさんは桃太郎とガッツリ握手を交わしました。おじいさんはこの時代での桃太郎の最初の友になったのです。



おばあさんはこの日、家を出ていきました。



その後、おじいさんと桃太郎はきんぱつ漬けの暮らしをしました。


桃太郎は非常に精悍な顔立ちで屈強な身体をしているため、町で非常にモテました。中でも異国のきんぱつにはウケがよく、貧弱なJAPANESEでは満足できない美女が群がってきました。桃太郎も満更でも無い様子でした。また、おじいさんはおじいさんで桃太郎へのマッチング事業をプロデュースし、そのおこぼれにあずかっていました。


ある日、いつものように二人で町を闊歩していると一人のきんぱつが興味深いことを呟きました。


「海の向こうには住んでいる女性が全てきんぱつである『黄金の島·金ケ島」があるって噂よ」



それを聞いたおじいさんは想像しただけで鼻血がとまらなくなり、入院することになってしまいました。


桃太郎はお見舞いに行った時、おじいさんにこう言いました。


「おじいさん。我は金ヶ島へ行って、沢山のきんぱつを連れてくる。待っていろ」


「桃太郎 いや、待て! わしも行く! お前だけにいい思いをさせてたまるか! 抜け駆けはOxF? <%¥!」


桃太郎はフッと微笑み、病室を後にしました。


「我と共に金ヶ島へ行きたい者はいないか?」


桃太郎は町で呼びかけると、早速呼びかけました。すると三人のきんぱつ狂いがそれに応じました。


「大工の猿渡でさあ。特技は木材で人を殴ることよう」


「パイロットの雉田です。趣味は株式投資です」


「警察官の犬飼です。ゴールデンレトリバーはきんぱつに近いと思います」


桃太郎は真剣な顔で尋ねました。


「お前たち、きんぱつは好きか?」


「「「言うまでもない」」」


桃太郎は三人とガッシリ握手を交わしました。きんぱつは交わらないと思われた者たちを結びつけるのです。感動的ですよね。


「僕の飛行機で行きましょう」


雉田はクレイジーな仲間たちを空港へ案内し、飛行機に乗せました。途中、空港職員が一行の暴挙を阻止しようとしてきましたが、桃太郎があっさり蹴散らしました。


「へへえ、俺っちの出番は無さそうだなあ」


猿渡は少し寂しそうに角材を撫でていました。どうやら前科がありそうです。


「さあ、いざ金ケ島へ」


飛行機は愉快な仲間たちを乗せ、金ヶ島へと飛び立ちます。金ヶ島の場所は誰も知らなかったのでたどり着くか心配でしたが、四人は選ばれし変態にのみ備わる「きんぱつセンス」という直感力を活用できます。これはきんぱつの多そうな方向がわかるという天賦の才で、誰もが羨む能力と言えるでしょう。


「さあ、着陸するぞ」


雉田は金ケ島のそこそこ平らなところに着陸しました。飛行機がそんなに簡単に着陸できるわけないだろ!と突っ込みたい人もいるでしょうが、これは童話なのでチョチョイのチョイです。


「僕がパトカーを手配しますよ」


犬飼がパトカーを呼びました。これで移動がぐっと楽になります。乗ってきた警官は桃太郎が蹴散らしてじしまえばいい。


そのつもりでした。


「ん?見ない顔だねぇ」


パトカーから出てきたのは金髪爆乳のドケパいミニスカポリスのお姉さんでした。


『わあい(╹◡╹)』


四人は一瞬で知性を失いました。恐ろしい島です。


「どうしたの? まさか迷子かしら?」


お姉さんがくすくすと笑いました。これはいけません。非常に性的です。


「非常に良いきんぱつだ。素晴らしい。この島はみんなそうなのだろうか?」


桃太郎が重みのある声で、しかしながら鼻息荒く下心丸出しで尋ねました。


「え? まあ金髪が多いと言えば多いよ。ああ、なるほど観光客ね。ダメじゃないか、気軽にパトカーを呼んじゃあ」


「僕が呼びました。僕も警察なんです」


犬飼が警察手帳を見せた。


「へえ、そうだったの。で、何の用?」


「いやまあパトカーを移動手段にしようと思いまして……」


次の瞬間、犬飼はお姉さんに足払いをかけられ、ガッチリと背中からホールドされ、パトカーの中にぶち込まれました。(その際、他の三人は美しくひらめく金髪と眩しいおみ足とばいんばいんに揺れる乳に釘付けでした)


「ちょっとこのアホは署に連れて行くからー」


犬飼はお姉さんに連行されてしまいました。


残された三人は少し羨ましいと思いましたが、この様子ならまだまだ沢山のきんぱつがいるはずです。心を躍らせながら、とりあえず町へ向かうことにしました。


「……なんてこった 」


「これが……Shangri-la!」


「(╹◡╹)」


町に着いた三人はとんでもない光景を目の当たりにしました。見渡す限りのきんぱつ、きんぱつ、きんぱつ、きんぱつ……ここは俗に言う「きんぱつスクランブル交差点」でした。


きんぱつロソグ、きんぱつポニテ、きんぱつツインテ、きんぱつショート、きんぱつボブ、きんぱつサイドテール、きんぱつおさげ……とにかく、みんなきんぱつでした。


「わあああああい!! きんぱつきんぱつ!(╹◡╹)」


理性を失った三人はきんぱつスクランブル交差点に突撃しました。


「きゃあぁああああ!!」


当然、きんぱつたちからは悲鳴が上がります。すると、さっそく警察(もちろんきんぱつの)が駆けつけてきました。


「ちょっと署まで来てもらおうか?」


雉田はあっという間に捕まりました。何故かベルトが緩んでいましたが気のせいだと思いたい。


猿渡は角材で抵抗しようとしましたが


「へへえ今まで色んなやつを殴り殺してきたが、きんぱつちゃんにそれはできねぇよな……」


とあっさり諦めて連行されました。やはり前科はあったようです。


桃太郎はというと、驚異的な身体能力で警察を振り切り、途中で何人かのきんぱつを攫おうとしながら(未遂)きんぱつスクランブル交差点から脱出しました。


「待てえええええ!」


桃太郎は警察の叫び声を背中に浴びながら山の方へ逃走しました。


「なんで追いかけられなくてはいけないんだ」


桃太郎は違う時代の人間であり、ちやほやされているのに慣れていたので困惑していました。


「きんぱつはどこだ。おじいさんにきんぱつを連れて帰るのだ。約束したのだ」


桃太郎は義理堅いのです。目を閉じればおじいさんの顔がおぼろげながら浮かんできます。あれ、どんな顔だっけ?


しばらく山道を歩いていくと神社が見えてきました。


「むむむっ!!!」


桃太郎のきんぱつセンスが反応しました。この気配……間違いない!


「頼もーう!!」


「はいはーい?」


「イエス! イエスイエスイエス!」


桃太郎は歓喜した。理由は現れたのがきんぱつの巫女さんだったからである。


「きんぱつきんぱつ(╹◡╹)」


「え、ええ 急にどうされました?」


桃太郎は舐めるような下種の視線を向けたままぐるぐると巫女さんの周りを歩き出した。とてつもなく気持ち悪い動きでした。


「きんぱつおいてけ(╹◡╹)きんぱつおいてけ(╹◡╹)」


巫女さんは溜息をつきました。


「かわいそうに 魔物に取り憑かれたのでしょうか」


単に頭がおかしいだけの桃太郎を見て巫女さんは憐れんでいました。しかし、それが桃太郎にとって運の尽きでした。


「悪霊よ、静まりたまえ……ハアッ!」


巫女さんが気合を入れると桃太郎はその場に一瞬で崩れ落ちました。自分が何をされたか理解していない桃太郎は呆けた顔で地面に転がっておりました。


「これでよし、と。さて……あ、もしもし警察の方でしょうか。はい、あの一人迷子の方がいまして……そうですね。凄く屈強な感じで……はい、はい。あ、地面に転がしました。はい……ということでよろしくお願いしますね。ふう……」


しばらくして、警察がやってきました。桃太郎はその間転がったまま指一本動かすことができませんでした。


「何かさっきみたような……まあいいや。行くぞ」


桃太郎は金髪爆乳のドケバいミニスカポリスのお姉さんにパトカーに乗せられてしまいました。


「きんぱつ……」


桃太郎は窓の外をぼんやり眺めながら呟きました。きんぱつは凄い、自分なんかでは敵わない。フッと自嘲気味に笑いました。ここでこのまま暮らすのも悪くないと思いながら。




こうして、この後は桃太郎は金ケ島で「きんぱつ(╹◡╹)」と叫びながら幸せに暮らしました。ちなみに、犬飼·猿渡·雉田は生涯の友でした。



一方、おじいさんは帰ってこない桃太郎を恨みながらひっそりと亡くなりました。



めでたしめでたし



*****



「うわー、おもしろかった! きんぱつ太郎は何回聞いても頭おかしいなあ。僕もう他の童話じゃ満足できないよ」


金次郎の膝の上で、息子の金太が足をバタつかせながら笑う。


「そうかそうか。でも、きんぱつには気を付けるんだぞ。人を狂わせてしまう魅力があるからな」


金次郎は読み聞かせていた「きんぱつ太郎」の絵本を閉じて金太の頭を撫でた。


「へーそうなんだ。でも、パパ……」


「どうした?」


「ママもきんばつじゃん」


「(╹◡╹)」


「ん? でもよく考えたら僕の友達も近所もきんぱつだらけだ。もしかしてここって金ケ……」


「ははは、童話と現実を同じにしてはいけないよ。今日は早く寝なさい」


「はーい」


金太がどたどたと部屋へ走っていく。やれやれ元気なものだ。


それにしても……


金次郎は手元の「きんばつ太郎」の本を見つめた。


昔は今のように周囲に「きんぱつ」が溢れていない時代だったという。その憧れがこの童話を生みだしたとされている。しかし、現代はきんぱつは稀少ではないどころか飽和状態だ。過去から今までの間にきっと何かがあったのだろう桃太郎とおじいさんが見れば泣いて喜ぶに違いない。


ふと、金太の言いかけた言葉を思い出す。さすがにそれは有り得ないだろう。なぜなら、仮に「きんぱつ太郎」が実話だとしても、かつての金ケ島がこことは限らない。きんぱつは今や世界中にありふれているからだ。


「まさか……」


金次郎は一つの可能性を思い浮かべた。もし、桃太郎と金ヶ島の存在が本当だとして。彼は金ヶ島の「中」だけで満足したのだろうか。その溢れる欲望を「外」向けてしまったのだとしたら。そして……


「どうしたの?」


金次郎の妻が声をかけてきた。


金髪のナイスバディの良妻である。


「……なんでもないよ!」


金次郎は先ほどまでの「どうでもいい考え」を頭から振り払った。

いいじゃないか、こんなにも可愛いきんばつが沢山いるんだから


桃太郎さまさまだ。


金次郎はにこにこと笑った。



今日も世界はきんぱつで満ちて平和である。


















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