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第六十話 再会2


「エリック公爵、なぜこの場所に?」


 ガルムの問いにエリックは首を傾げる。


「領地に行った帰りだよ。これから王都に戻る途中なのだけど、道中、サントス卿にはいつも世話になっているんだ。あれ? カインくんから聞いていない? 先週うちに泊まったのに」


 エリックの発言を聞いたガルムは冷たい視線をカインに送る。

 たしかにサントスの家に泊まった時に、エリックとシルクはいつも山菜をご馳走になっていると聞いていた。


「その件についてはまだ……」


 カインは冷や汗をかきながら視線を逸らす。


「それこそガルム卿はなぜこの場所へ? 王都からでも数日掛かるでしょう」


 ガルムは何も言わずにカインに視線を送る。その視線でエリックは悟ることができた。


「あー、やっぱりカインくんだね。込み入った話もあると思うし、僕は客間に戻るよ」


 エリックはそのまま客間への階段を登っていった。


「カイン……マルビーク領でも泊まっていたのか……」

「はい……」


 ガルムの言葉に項垂れる。


「まぁ今は良い。これから改めて話をしよう。レイネにカインも同席するように」


「わかりました」

 

 客間には、サントス、ララ、リーラのゲレッタ家が並んで座り、その対面にガルム、サラ、レイネ、カインの四人が座る。ララの旦那は王都に行っており今はいない。

 緊張感がある空気が流れる中、最初に口を開いたのはサントスだった。


「サラ、十五年か……。月日の流れるのは早いものだな。お前がガルム卿に嫁いでいるとカイン卿から聞いた時は驚いたぞ。カイン卿とは、道中、盗賊からの襲撃を受けている所を加勢してもらい助けてもらったのじゃ。屋敷に泊まって貰うように案内したらララに向かって「母上?」だからな。さすがにワシも驚いたわい」


 長い月日を思い出すように、サントスが語った。


「お父様、長く留守にしてしまい申し訳ありません。そしてララ、貴族の義務をあなたに押し付けてしまってごめんなさい……」


 サラが二人に向かって深く頭を下げた。


「サントス卿、私からも謝罪させていただく。あなたのご令嬢とは知らず、サラの事は一冒険者の女性に恋をして婚姻を結ばせていただいた。本当ならその時に確認する必要があったかもしれない。申し訳なかった」


 テーブルに手を付き、ガルムも並んで頭を下げた。


「二人とも頭を上げてくれ。こうして無事に再会できたのだ。そしてワシの孫にも会うことができた。レイネだったか? サラの父のサントスじゃ」


 レイネとカインの二人に向けて優しい目で微笑む。


「はじめまして、おじい様。ガルムの長女のレイネでございます。年は十四になりました。現在は王都の学園に通っております」


 レイネは一度立ち上がり、スカートの裾を摘まみ上げ貴族令嬢らしい挨拶をする。

 年頃のレイネに「おじい様」と言われ、サントスも少し照れた表情をする。今までまだ十歳にも満たないリーラしか孫はいないと思っていたからだ。

サラの事は忘れたことはなかったが、十五年もの長い時間を経過することによって諦めて忘れようとしていた。


「それとカイン卿、本当にありがとう。卿のお陰で娘と再会することができ、新しい孫が二人も出来たのだ。まさかここまで早く来てくれるとは思わなかったけどな」


 カインの飛翔(フライ)や転移があるから出来た移動速度であり、一般的な馬車での移動ではありえなかった。

 その事にはサントスは触れず、今回は再会を喜ぶだけとした。

 次にララやリーラが挨拶をし、和やかに話は進んだ。


「サントス卿、これからは親戚にあたります。これまで以上に協力していきましょう」


「ガルム卿、その言葉はありがたい。これからも頼みますぞ」


 二人ががっちりと握手をして、家族の再会が終わった。

 ガルムはサントスと、サラはララと個別で話すことになり、レイネ、カイン、リーラの三人は別室に移った。

 レイネは自分に妹が出来たことが嬉しくてたまらないらしく、目を輝かせてリーラを見てウズウズとしている。


「どうしました? レイネお姉様?」


 レイネの挙動不審な行動に、首を傾げたリーラだったが、レイネにとってはツボだったらしい。


「もうっ! リーラちゃん! 可愛い!」


 いきなりリーラを抱きしめた。レイネの急な行動にリーラはびっくりする。


「えっ!? レイネお姉様?」


 驚くリーラの隣で、カインは『やはり』と手で額を抑えた。


「ねぇ、カイン。私にも従妹が出来たのよ? 今までシルフォード家の女の子は私一人だったでしょう。もうこのまま王都に連れて行っていい?」


「レイネ姉様、それは駄目でしょう……二年も経てば、リーラも王都の学園を受けるはずです。そうしたら一緒にいれますから」


 レイネの問いに呆れながら答える。このまま連れて行ったら誘拐でしかない。リーラが王都の学園に通うことがあれば再会できるだろう。


「そうよねっ! 学園で待っているわ!」


 リーラが入学するときには、すでにレイネは卒業しているはずだが、喜んでいるレイネに水を差すこともないとカインは黙る。

 途中、カインがリバーシを出して順番に対戦をしていった。リーラは物覚えが良く、すぐにレイネとの勝負にも勝つようになった。やはり一番強いのはカインだったが。

 三人で楽しく過ごしていると夕食の時間となった。


 食事にはエリックを筆頭に、シルフォード家、ゲレッタ家が揃っている。


「今日はめでたい日ですから、豪華にするように手配いたしました」


 テーブルに乗せられている料理は、豚の丸焼きから山菜の炒めものなど多岐に渡っており、この人数では消費できる量ではなかった。

 ガルムとサントスの二人で話した時に、エリックも同席したらしく、状況については理解できていた。


「それでは、シルフォード家とゲレッタ家が晴れて親戚となったことで、エスフォート王国に乾杯」


「「「「乾杯」」」」


 エリックの乾杯の合図で、グラスを高くあげる。

 待機しているメイドたちが、切り分けられた料理が各自の前に運んでいく。

 大人たちはアルコールが進んだことで、滑舌が良くなっていく。和やかな会話は続き、食事が終わったあとも部屋を変えて飲み直すそうだ。

 カインとレイネには個室が与えられたが、リーラと一緒に寝たいとレイネが駄々をこねはじめた。


「せっかくなんだから、私はリーラちゃんと一緒に寝るわ! カイン、おやすみなさい! 行こうリーラちゃん」


「えっ……。はい……。カインお兄様おやすみなさい」


「うん、おやすみ。――レイネ姉様のこと頼んだよ」


 カインが最後まで言い終わる前に、すでにリーラはレイネに連れて行かれてしまった。

 個室にはベッドと、テーブルと椅子が二脚置いてあるだけだ。それでも十帖ほどある部屋ということもあり、十分な広さを確保している。

 カインは床に座り、座禅を組み瞑想を始めた。これだけは日課となっており、毎日欠かさずやっている。

 すでにステータスは人外というか亜神となっており、数字では表示されず、これ以上ステータスを上げる必要もないのだが、それでもユウヤには勝てるレベルではなかった。

 ユウヤに比べれば特に問題ないだろうとカインは考えていた。

 日課を終え、ゆったりとしたベッドに入る眠ることにした。


 朝食はダイニングに皆が揃ってから始められた。

 前日飲みすぎたらしく、エリック、ガルム、サントスの三人は具合の悪そうな顔をしていた。

 他が食事を進める中、三人だけは何に手をつけるでもなく水だけを飲んでいる。


「うぅ……。具合が悪い……。サントス卿が強すぎるのだ……」


 エリックも眉間にシワを寄せ、水だけを飲んでいる。


「昨日は酒が進むほど嬉しかったからのぉ……うぷっ」


 サントスも飲みすぎが原因で放心状態となっていた。

 そんな姿をサラとララは仕方ないといった顔をして呆れていた。


「カイン……。二日酔いが治る魔法とか使えないのか……? さすがにこれはちょっと……」


 普段は魔法を人前で使用させるのを控えているガルムであったが、さすがに今日のガルムはカインの僅かな希望に賭けたのであった。


「多分大丈夫だと思いますよ? 父上、掛けてみますか?」


「頼む……」


 具合が悪そうに頷くガルムを含め、エリックとサントスにも状態異常回復魔法(コンディションヒール)を次々と掛けていく。

 カインが回復魔法を放つと、三人の表情は打って変わり清々しくさっぱりとした顔となった。


「カイン、助かった」

「カインくん、ありがとう」

「カイン卿、申し訳ない」


 三人に頭を下げられたことで、カインは頬を掻きながら席に戻った。


「それにしてもそんな回復魔法まで使えるなんて……。一家に一人カインくんだね!」


 エリックの冗談に皆が笑いながら、食事が再開した。

 和やかに食事は進む。食後にエリックが王都に向かうため、馬車を全員で見送ることになった。


「本当なら、カインくんと一緒にね……って訳にもいかないのが辛いよね。これも貴族の義務だから仕方ないけど」


 転移魔法を知っているエリックは、羨ましそうに見送るシルフォード家を見渡す。それを知ってか、申し訳なさそうな顔をしたガルムが答える。


「――エリック卿、では、また王都で。お気を付けください」

「エリック公爵、お気をつけてください」


 屋敷の前では、シルフォード家、ゲレッタ家が並びエリックのことを見送る。

 護衛の騎士二十人が先導をした馬車が進み始める。テレスティアとシルクがオークの群れに襲われたことがきっかけで護衛が増員されたのだ。

 馬車が見えなくなるまで見送り、その後屋敷に戻った。


「では、私たちも帰るとするか」


 ガルムの一言にサントスは疑問を口にした。


「ガルム卿、馬車は……? そういえば門まで歩いてこられたと報告を受けていたが……」


「……それに関しては色々とありましてな、これから見ることを秘密にしてもらえると助かります」


「――もちろんお約束しましょう。では、サラのことを頼みますぞ。カイン卿、またいつでも遊びに来ておくれ」


「お父様、また顔を見せにきます。ララもリーラもまたね」


 サラがゲレッタ家の面々を見渡して頭を下げた。


「サントス子爵、また寄らせていただきます」


 カインも一礼する。

 

 屋敷に入り応接室に集まった。部屋の中はシルフォード家とゲレッタ家の三人のみとなっている。

 これから転移魔法で帰るにあたって、見せるのは最低限にしておきたい。


「なぜこの部屋で……? これからお帰りになるのでは」


 まだ理解出来てないサントスに、ガルムはカインに視線を送る。


「サントス子爵、実は……僕は転移魔法を使えます。それで王都からここまで転移してきました。徒歩だったのもそのためだったのです」


 転移魔法と聞き、サントスは目を大きく見開く。もちろんララもそうだ。リーラはまだ理解出来ておらず首を傾げている。


「なんとっ! カイン卿の麒麟児振りはわかっておったが、伝説の転移魔法まで使えるとは……。ゲレッタ家の血筋からそのような伝説の魔術師が出ることになるとは」


「陛下より、口止めされていることもある。サントス卿頼みますぞ」


 ガルムの念押しにサントスは頷いた。

 シルフォード家の面々がカインの肩に手を乗せる。


「では、お世話になりました」


 カインが一言お礼を言い、頭を下げた。


『転移』


 一瞬にして部屋にいた四人が消えていく。

 実際に目の前で転移して消えていった四人の場所を、部屋に残された三人は無言でただ眺めていた。


「お父様、こんなことがありえるのですね……」

「うむ、サラの子がここまでなるとは……」

「またレイネ様と会いたいです」


 こうしてサラの家族との再会は終わった。





 


投稿が遅れてすいません。

書籍化作業だけではなく、私事ですが、現在自宅の引越し準備をしており、その関係でなかなか執筆時間がとれておりません。4月、6月に二度の引越しを計画しているため、色々と多忙となっております。

次回更新は二週間後には投稿する予定となっております。

間隔が空いてしまって申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
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