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第五十七話 マルビーク領4


 温泉を堪能したカインは、探査(サーチ)を使い脱衣室に先ほどのメイドがいないことを確認し、アイテムボックスから替えの服を出し早々に着替えた。

 濡れた髪の毛も魔法を使って乾かす。


「本当に気持ちよかった……」


 前世であればこれでコーヒー牛乳を飲むという行動に移るはずだが、この世界にあるはずもない。 

 コーヒーでさえ、ユウヤの所で飲むことは出来たが今まで巡り合うことはなかった。

 脱衣室から出ると湯着からメイド服に着替えたメイドが控えている。


「カイン様、食事までもう少し時間があるとのことで、応接室でエリック閣下がお待ちになられております」


 先ほどの事など何もなかったように接してくる。

 ため息をつきながらメイドの案内で先ほどの応接室に戻った。メイドが扉をノックし、中から「入っていいよ」との声が聞こえてから扉を開ける。


「カインくん、温泉どうだった? この屋敷の自慢でもあるんだ」


「本当に良かったです。また入りたいくらいに」


 エリックの対面に座り素直な感想を伝えた。エリックはカインの言葉に満足そうな顔で頷く。


「そのうち義息子になるのだから、いつでも来ていいからね? 転移ですぐに来ることができるでしょ」


「その時はお世話になります」


 メイドが部屋の端で淹れていた紅茶を二人の前に置いていく。


「それと、カインくん、昼間の君の事を襲った冒険者だけど、鉱山奴隷になることが決定したよ。この土地は温泉もあるけど、鉱山も有名でね。そこで十年ほど勤めてもらうことになった。街中で剣を抜いただけでも問題だが、カインくんに襲いかかったからね。厳罰で死刑という話もあったけど、有用な鉱山奴隷にさせてもらった」


 カインは素直に頷く。さすがに街中で襲いかかったのだ。情状の余地はないことはカインも理解している。


「これが奴隷として売った冒険者たちの代金だ。あと、今回の侘びも含めて少し上乗せしてあるよ」


 エリックが小袋をカインに手渡す。中を覗くと数枚の白金貨と金貨が入っている。


「これは多すぎでは? 奴隷商に売ってもそこまではいかないですよね」


「うん、だから侘び料だね、奴隷は五人売って金貨五枚、侘び料が白金貨五枚だ。申し訳ないがこれは受け取ってくれ」


 カインは自分の対応の悪さもあり牢に入ったのは仕方ないと思っていた。しかも公爵家の当主が頭を下げて既に謝罪もしている。その上これだけの侘び料をもらうのは心苦しい。


「でも、これは多すぎ――」


「カインくん、ドリントルの開発をしているでしょ? 一日にして街を囲むようにふた回り以上大きな街壁できたと聞いたよ? 街の開発には色々と費用が掛かる。それに使ってもらえればいい」


 カインの言葉を止めるようにエリックは説明していく。そこまで気を使ってもらっているのに無下に出来るはずもなかった。


「――わかりました。素直に受け取らせていただきます」


 小袋を懐に入れ、エリックに頭を下げる。


「これで話は終わりだ、さっそく夕食にしよう。この土地の料理も中々美味しいよ」


 部屋を出てエリックの後を追う。ダイニングには既に全員が揃っているようだった。

 もちろんノエール、デリータも座っている。他にもその妻と思われる女性が座っていた。

 上座に二つ席が空いており、エリックはその一つに座り、もう一つにカインを手招きする。

 貴族の当主という立場もあり、仕方なくエリックの隣に座わることにした。

 全員が席につくと乾杯用のグラスにドリンクが注がれる。成人しているエリック達はワインだが、カインには冷たくした紅茶が置かれた。


「待たせてしまったね、今日はカイン子爵が来ている。色々と残念な勘違いもあったが、将来シルクの旦那にもなる人だ。これから仲良くしてもらいたい。それでは乾杯」


「「「「乾杯」」」」


 各自がグラスを掲げそれから飲み干していく。

 乾杯の後は、各自が自己紹介をしていった。ノエール、デリータの妻であった。

 シルクの姉は年が離れていることもあり、既に嫁いでいるとのことだ。しかも王太子に嫁いでおり王城で暮らしている。

 次の王の妻ということだ。

 王城には何度も行くことはあったが、テレス以外の王族と会ったことは叙爵の時だけだ。

いつもは他に漏れてはいけない会話が多いこともあり、密室で行われていたため仕方がない。

 料理はメイドが大皿から少しずつ取り分け各自の前に置いていく。

 美味しそうな匂いがカインの鼻をくすぐる。


「ここは山岳地帯が多いからね、山羊がよく取れるんだ」


 エリックが説明してくれる。カインはナイフとフォークを使い口に運ぶ。

 口の中はソースと混じり合いとても美味しかった。

 テーブルに置かれていかれた物を少しずつ味わいながら食を進めていく。

 食事をしながら雑談も進んでいく。


「カインくん、王都から一直線にこの街まで着たのかい?」


 エリックの問いにカインは横に顔を振る。


「途中、縁がありましてサントス子爵の館で一泊させてもらいました」


 カインの答えにエリックは驚く。


「あのサントス卿か? あの頑固そうな爺がよく初対面のカインくんを泊めてくれたね?」


「実は――」


 マルビーク領に向かう途中で、馬車が盗賊に襲われており、加勢し討伐したことを伝えた。

 まだ祖父だということはサラに確認をしていないこともあり黙っていた。


「なるほど……。それならわかるかな。あそこは女系の家系だから、カインくんなら「婿に!」とか言われてそうだね。カインくんと近い年の子もいるし」


「――たしかに……そうですね」


 まったくその通りだったことにカインは苦笑いする。


「カインくんの場合、どんどん嫁が増えそうで心配だけどね。今、シルク含めて三人でしょ? なかなかその年で三人の婚約者を持っている貴族なんていないからねぇ」


 お酒が進んだこともありエリックが饒舌になる。


「いえいえ、そんな自分で増やすことはしないですよ」


「本当にどうだか――。そういえば、ティファーナ騎士団長の実家にも顔出さないといけないね」


 本当の予定は、一日でマルビーク領まで来て、次の日にはリーベルト領に向かうつもりだったのだが色々と予定が狂っている。


「騎士団長の実家にって……?」


 デリータがエリックの言葉に入ってきた。


「まだ話してなかったっけ? カインくん、テレスティア王女殿下とシルクとティファーナ卿の三人が婚約者として決まっているのだよ」


「そ、そんな……」


 近衛騎士団長といえば、模擬戦狂いでこの王国内では有名だ。そして、同時に自分より強い者としか結婚しないとも豪語していた。


「まだ五歳の時に既にティファーナ卿より強かったからね。よかったね? もし斬りかかっていたら……ね?」


 エリックはその先は言わなかった。それでもデリータは唾を飲み込んだ。簡単に自分の未来が想像できたからだ。


「そういえば、今日は泊まっていくでしょ? もう用意もできているし」


 このまま転移で王都に帰ることもできるが、転移魔法を知っているのはエリックだけということもあり、素直に頷く。


「明日には王都に向かう予定ですが、今日はお世話になります」


「うん、カインくん、温泉好きだし、夜も入れるようにしておくよ」


 カインは先ほど入った温泉の事を思い出し即答する。


「はいっ! ぜひ」


「――本当に好きなんだね、温泉」


 カインの答えにエリックは笑顔を向ける。


「――はい……」


 勢いよく返事したことに顔を赤くしながらカインは頷いた。


 食事も済み客室に通された。もう少ししたらまた温泉に入るつもりだった。


「カイン様、温泉の準備が整っております」


 メイドより温泉が空いていることを教えてくれる。


「うん、入ります」


 メイドに案内され、脱衣室に入る。そして服を脱ごうとすると、後ろからサラサラっと音が聞こえて思わず振り返った。

 案内したメイドがメイド服を脱ごうとしていた。


「だからそれはいいってっ!!!」


「――残念です」


 本当に残念そうな顔をしたメイドは渋々と退出していく……が最後に振り返る。


「やっぱりお背中流しま――」


「出てけーー!!」


 そのまま扉を閉めるカインであった。


いつもありがとうございます。

書籍版該当部分の修正作業をしている関係で、更新が遅くなっております。

申し訳ございませんがご理解お願いいたします。

それにしても直すところがあまりにも多すぎてビビりました。


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― 新着の感想 ―
[一言] きちんと設定作ってるっぽい割にこういう変なキャラが出てくるんだよなぁw 個人的には天丼ネタは好きだからこのメイドさんめっちゃ好きw
[一言] この感想の時点でコミカライズは、ドラクエでいうルーラでルーラ(白虎姉)たちをドリントルへ連れてきて、ルーラ(定規)を与えたあたりの話 メイドさんと温泉のシーン、早く見たいw
[一言] 情状の余地はないことはカインも理解している。 →情状酌量の余地は無い事はカインも理解している。
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