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第五十二話 まさかの出会い


 今、カインは空を飛翔(フライ)で飛んでいる。


 休日となり、予定通り転移する拠点登録を行うためにマルビーク領に向かうことにした。マルビーク領は王都から北東に位置し、山岳地帯近くとなっている。

 ドリントルの街からは王都を挟んで反対側になることもあり、一度王都まで『転移』した後に、道に沿って飛んでいる。

 初夏を迎えたことで、天候に恵まれ、暖かな風の気持ちよさを感じながらカインは飛ぶ。

 途中、グラシア領から王都に向かう道の合流地点を通過した。


「ここで、テレスとシルクに初めて会ったんだよな」


 カインは二人と出会った時の事を思い出した。王都で行われるお披露目会に向かう途中で、オークの群れに襲われていた一団を助けたことをきっかけに、男爵を叙爵し、屋敷も拝領した。そして二人の婚約者も出来た。

 街道には行商とその護衛と思われる集団が進んでいるのを、上空から眺めながらカインは進んでいく。

 この世界、空を飛ぶという発想はあまりない。ワイバーンという空を飛ぶ竜種も存在しているが、生息地域が違うために道を行き交う人が上空を眺めることは、ほぼないに等しい。カインが空を飛んでいても気づく者はなかった。

 マルビーク領までは馬車で十日ほどの距離があり、三百キロ程度の距離がある。カインが本気で空を飛べば一時間もあれば着くことが可能だが、心地よい天候を感じていることもあり、のんびりと道沿いを進んでいく。

 途中、街や小さな村の上空を通り抜けていく。さすがに街の上空を飛ぶのはカインも躊躇い大回りをした。

 上空で静止し、地図を確認し、再度進み始める。

 あと幾つかの街を通り過ぎればマルビークの街に着くという所で、戦闘が起こっているのが見えた。

 林を抜ける一本道で、両側から襲撃を受けている。

 貴族用の馬車と数人の護衛の一団に、盗賊と思われる二十人ほどの集団が襲いかかっている。


「あの人数差はキツそうだな。応援に行くか」


 カインはすぐに近くの林に着地し、戦闘が行われている場所に向かっていく。

 護衛の騎士たちは誰一人倒れることなく、盗賊を撃退している。すでに数人の盗賊たちが騎士の周りに倒れていた。


「加勢します!」


 カインは大声で、騎士たちに叫ぶように伝えた。そして盗賊たちの後ろから魔法を放っていく。


空気弾(エアバレット)


 カインの右手から放れたれた魔法は盗賊たちに襲いかかっていく。

 まだ状況もわからないので、殺傷能力は控えめにしていた。

 突如、後ろから現れた子供に驚き、そして魔法の攻撃を受けた盗賊たちは次々と倒れていく。


「加勢感謝する! お前らあと少しだ! 気合入れろ!」


「「「「「おうっ!」」」」」


 護衛の隊長と思しき騎士が声を張って鼓舞し、騎士たちも応えるように剣に力を込め、盗賊たちを切り捨てていく。 カインが加勢してから数分後には、立っている盗賊は誰もいなかった。

 騎士たちはまだ生存している者を次々とロープで縛っていく。

 そして隊長と思われる騎士がカインに寄ってきた。

 数歩離れたところで止まりカインに声を掛ける。


「加勢感謝する。子供だと思っていたが強いな。私はダンロフの街の騎士団長をしている、ロデックと言う。貴公の名は?」


 見た目は三十歳後半、身長は百八十を超え、鍛え抜かれた体から放たれているオーラが他の騎士たちとは違っていた。


「冒険者のカインです。マルビークまで旅をしておりましたが、盗賊に襲われているのを見かけ加勢させてもらいました」


 カインはそう返事をし、懐からギルドカードを出した。

 カインのギルドカードはAクラスということもあり金色(ゴールド)に輝いている。

 騎士団長のロデックは、実力はあるが子供だと思っていた少年が、Aランクだと知り舌を巻く。


「その年でAランクとは……。これは助かったな。少し待て、領主様に話してくる」


 カインにそう言ったあと、馬車に向けて走っていく。

 カインは馬車を見ると、見たことはないが紋章が彩られており、貴族の馬車だということが確認できた。


「やっぱり貴族だよね……。面倒なことにならなければいいけど……」


 ロデックと馬車に乗っていると思われる貴族との話が終わったようで、馬車の扉が開かれて、初老の男性が降りてきた。

 五十を過ぎているように見え、白髪は後ろに流され、綺麗にまとめられている。

 初老の男性はカインの元に歩み寄ってくる。そしてカインの前に立つと、顔をじっと見つめて話し始めた。


「カインと言ったか、加勢感謝する。さすがにあの大人数では、ロデックがいくら強いとは言え苦戦は免れん。ここではなんじゃ。礼もしたいし次の街まで同行してくれんか? ワシの治めている街じゃ」


「いえ、盗賊に襲われていたのを助太刀しただけですので。急ぐ旅ですのでこれで失礼いた――」


「まぁまぁ、じじい一人の馬車は寂しいのでのぉ。お主も乗ってけ」


 初老の男性は、カインの両肩を掴んで、馬車に誘導する。さすがにカインは冒険者の格好をしており、貴族からの好意を無下にするにもいかなかった。

 仕方なく男性に続いて馬車に乗り込む。


「ロデックよ、あとで騎士を寄越す。先行組は街へ知らせにいけ。二人ここで残って監視するように」


 男性はロデックに指示し、ロデックが割り振りをしていく。そして馬に乗った二人が先行して街に向かって駆けていった。

 八人いた騎士は四人になり、馬車が進み始めた。


「そういえば、まだ名前を言ってなかったの。ワシはサントスじゃ。サントス・フォン・ゲレッタ・ダンロフ子爵じゃ。ダンロフの街の領主をしておる」


「カインです。冒険者をしています。家名もありますが、冒険者の時はカインとして動いています」


 さすがに同じ領主とはいえ、カインは今、冒険者の格好をしている。そのままただの冒険者として通すことも考えたが、これから先、シルクと同行した時に、また会う可能性もあることから貴族であることは匂わせることにした。


「――やはり貴族の出か、ワシの前でも変わらんから、そう思っていたぞ。ただの冒険者ではないとな。まぁ馬車の乗せた理由は他にもあるのだが……」


 サントスは最後の言葉を発した時は、心苦しいような顔をした。

 馬車の中で、サントスはカインと会話を続けていった。カインにとっては五十近くの壮年の男性は祖父に近いものを感じられ、和やかに会話は続いていく。

 日も暮れ始めた頃に、ダンロフの街に到着した。ダンロフは人口八千人ほどの街で、エスフォート王国では中位程度の街になる。

 外壁を通り抜け街中を馬車は進んでいく。中央の一番奥に領主邸があった。


「ここがワシの屋敷じゃ。客間を用意させる。今日はゆっくりしていくとよい」


「さすがにそれは……。ご迷惑ですし宿にでも泊まります」


 領主邸に泊まると聞いて、流石に断ろうと思ったが、サントスの押しに負け屋敷の門を潜った。


「帰ったぞ。客がいる。用意を頼んだ」


 サントスの一言で、メイドたちが動いていく。カインはメイドの一人に案内され、応接室に通された。


「ここでしばらくお待ちくださいませ。今、紅茶の準備をいたします」


 メイドに淹れてもらった紅茶を飲んでいると、程なくして扉が開かれ、サントスが入ってきた。


「待たせてすまんな。さっきのことも含めて指示する必要があったからな」


 サントスはメイドが淹れた紅茶を飲みながら話を続ける。


「カインよ。どうじゃ、この街に来んか? うちは女系家系でのぉ。うちの孫の婿でも構わんぞ」


「ブッ!!」


 カインはサントスの唐突の一言で、飲んでいる紅茶を吹き出しそうになった。


「いきなり何を言っているのですか……。さすがにそれは……」


 サントスは悪びれもせず、話を続ける。


「なんだかお主を見ていると、親近感が湧いてのぉ。一応貴族の家系なら、婿に来てもらってもいいかもと思ってな。腕っぷしも先ほど確認させてもらったし、面も良い。ワシとも目を合わせて話せる。なかなかそんな若者は、最近いないからのぉ。ところでお主は兄弟で何番目じゃ?」


 サントスは笑いながら顎鬚を撫でる。


「一応、三男になります」


「それなら問題はあるまい! 婿にくれば、子爵家を継ぐこともできるぞ。さっき娘と孫を呼んでおいた。義息子はまだ仕事しているから顔を出せぬと思うがのぉ。会うだけ会ってみると良い」


 サントスの少し強引な言葉に戸惑いながらも、さすがに話を受けることはできない。


「――すいません。実はすでに婚約者はいるのです……」


 カインは申し訳なさそうな顔をし、サントスに答える。

 サントスはカインの返事に残念そうな顔をする。


「貴族として子爵家を継げることになる。それよりも大事か?」


「それは――――」


 扉がノックされ開かれる。

 入ってきたのは、銀髪の母親と思われる女性と、同じ銀髪でカインよりいくつか年下に思われる女の子だった。


 そしてカインは目を大きく見開き驚いた。


「えっ、あれ? 母上? なぜこの屋敷に……」


「ブホッ、ゲホゲホッ」


 カインの発した言葉に、今度は目の前に座っているサントスが盛大に紅茶を噴いた。



いつもお読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アニメ最終回より、ここまで一気に読ませていただきまし。 テンポ良く進んでいて、読み込んでしまいましたょ。 [一言] 更新楽しみにしてます。 頑張ってください。
[一言] まぁ馬車の乗せた理由は他にもあるのだが →まぁ馬車に乗せた理由は他にも有るのだが
[一言] まぁ馬車の乗せた理由は他にもあるのだが →まぁ馬車に乗せた理由は他にも有るのだが
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