第十二話 ケルメス獣王国の成り立ち
いつもありがとうございます。
「皆さん、頭を上げてください。魔法が得意なので、この国に派遣されただけなんです」
実力を隠して侵略されでもしたら、絶対に後悔すると思ったカインは魔法を使って砦の外壁を頑丈にした。
しかし身体強化しか使わない獣人たちにとっては、そびえ立つ外壁を作り出したことをその目で見ていた。
まさに神の所業の如きと。
「このままでは収集つきません。一度部屋へ戻りましょう」
王国から同行していた者に促され、カインは部屋へと戻る。ジルとメルは無言のまま後をついていった。
応接室に入ると、カインはソファーに座った。しかしジルは入口で膝をつき頭を下げている。
「ジルさん、もう頭を上げてください。これからについてまだ打ち合わせが必要ですし」
「ジル叔父さん……」
メルもどうしていいかわからず動揺していると、ジルはゆっくりと立ち上がり、一度カインの前で頭を下げてからカインの対面に座った。
「改めて礼を言わせてください。この砦の勝機が見えてきました。使徒様の加護がありますから」
「ジル叔父さん、その〝使徒様〟って……」
「メルはまだ教わっていないか。成人したらそのうち教えられるだろう。このケルメス獣王国ができたのは数百年前なのは知っているだろう。その前は、各部族の集落の集まりでしかなかった。その頃は今のように獣人の立場は高くなかったのだ」
ジルが思い出すかのように、ケルメス獣王国の成り立ちを話し始めた。
集落の集まりでしかなかった獣人たちは、他国からの侵攻を何度も受け、その度に持前の力を使って跳ね返してきた。
しかし人族の数は侵攻の度に増えていき、そして魔法が主体となってきた。
身体強化しか使えない獣人たちは次第に劣勢になっていった。
その時、人族の三人組がフラッと現れたのだ。
もちろん、人族とは敵対していたから武器を構え取り囲んだ。しかし三人は気にするようなことなく、どこからか肉と酒を大量に取り出し、獣人たちへと分け与えたのだ。
最初は警戒していた獣人たちも、自らが毒見をし、安全な事を示したことで、恐る恐る食べ始め、そして一緒に酒を飲み、いつのまにか大宴会になったのだ。
次の日から三人は回復魔法をかけて回り、簡素な木の柵でしかなかった集落が魔法で土壁が作られ安全な集落ができた。
それを聞きつけた他の集落の獣人たちも集まり始め、そのうち一つの大きな街になったのだ。
街ができれば、そこを目的にさらに人は集まった。
国になるのは時間がかからなかった。
三人の人族は国の仕組みや体制などを伝え、他国からの脅威が排除されると、何も求めず笑顔で去っていったのだ。
「ほんの二年だ。集落しかなかった獣人たちがたった二年で国を興すほどになったのだ。三人が去った後も、誰もがあれは神が遣わせてくれた使徒様だと言い伝えられている」
「……すごい……そんな人たちがいたんだ……」
ジルの説明にメルは感動して涙を浮かべている。
エスフォート王国からの同行者ですら、感動している表情を浮かべていた。
しかし、カインだけは――違った。冷や汗をかきながら、そんなことをできる三人を想像していたのだ。
(その三人って、絶対にユウヤさんと父さん、母さんだよな……。両親とも動物大好きだったし……)
カインがまだ和也と言われれていた頃、三人で買い物に行くと、二人してデパートのペットショップに行くのは恒例行事であった。
犬派の父親と猫派の母親。
いつも意見が分かれ、社宅に住んでいたから飼うことはできなかったが、二人の妄想は止まらなかったのは記憶に残っている。
「その三人って……」
カインが恐る恐る尋ねると、ジルは笑顔で答える。
「王都で見なかったか? 城のすぐ横に石碑が飾られている。〝ユウヤ様〟〝セイヤ様〟〝メグミ様〟の三人だ」
(やっぱり正解だった――!!)
「……カイン様、その三人って……エスフォート王国、初代国王の……」
「うん、きっとそうだと思う」
カインは同行者に頷きながら答える。
(だからエスフォート王国は獣人たちやエルフに寛容なんだな。きっと両親だけでなくユウヤさんも……)
「カイン様はその三人と同じように実力を示し、怪我人を癒し、そして砦の壁をつくった。まさに三人の使徒と同様なことをしたのだ。これは成人している者であれば誰もが知っている。成人した獣人たちは今でも石碑の前でこの国の成り立ちを教えられるのだ」
「カインはそんな偉い人と一緒なのか……そっか」
メルは腕を組み考え始めた。そして思いついたように手を叩いた。
「なら、私がその使徒様に嫁ぐことにする!」
メルが力を込めて言葉を発するが、カインは顔をひきつらせながら答える。
「とりあえず、その話はなかったことで」
即答するカインに、メルは呆気にとられるのであった。
小出しになると思いますが、更新していく予定です。
アニメ公式HPではPV第2弾もでてますので、ぜひご確認ください。