第十一話 神の行進
ほんとすみません。
お待たせしました。
馬車で前線へと向かう途中、転々と所在する村により、カインたちエスフォート王国から訪れた回復術師は、怪我人や病人への治療を行っていた。
片腕のないもの、失明している者など前線に立てない兵士は後退させ、村での療養をしていたのだ。
軽傷者については、同行していた者で十分治療ができていたので、カインは重傷者だけ担当していた。
実力を隠してこのまま放置していくわけにもいかず、エクストラヒールを連発して怪我を完治させていった。
カインの回復魔法の実力を実際に見たものたちは、カインを神だと称え、各村を出発する時には盛大に見送られることになる。
「やっぱりこうなるよね……」
自重をしないで回復魔法を使ったカインは大きなため息を吐いた。
魔法を使わない獣人からしてみたら、無くなった片腕が元通りになることなど信じられないのだ。
それが一人の少年の手によって次々と回復されている様子を見れば誰でもそうなるのは仕方ないことだった。
「カイン、すごい! 腕がまた生えてくるなんて!」
ご機嫌でカインの腕にまとわりついてるのはメルだった。ケルメス獣王国の王女として威厳など全くなく、治療中もカインから離れなかった。
「回復魔法とは本当にすごいもんだな……。実際に見るまで信じられなかった」
目の前に座っているランダルでさえ感心したように頷いている。
実際にここまでの魔法が使えるのは、各国の司教クラスでないと不可能だ。しかも一日に二、三人が限度である。
カインの無限とも言える魔法量でゴリ押しした結果が物語っていた。
最初はエスフォート王国からの同行者たちも苦言を申し入れたが、生活に支障をきたす怪我のまま放置できないとカインが宣言した結果である。
上級貴族である辺境伯本人が宣言したことに、止められる者は誰一人いなかった。
そして養生していた者たちは、すぐに前線へと赴いていった。途中途中にある村に伝言を伝えながら。
――治療の神が助けにくるから待っていろと。
だからこそ今更やめるわけにもいかず、カインは全力で回復魔法を行っていた。
いくつかの村を経由し、最前線の手前の砦にたどり着いたのは二週間ほどしてからだった。
本当なら一週間ほどで到着する予定であったが、怪我人が多く、各村で全員の治療にあたってから出発していたから仕方なかった。
しかし、同行していたエスフォート王国の回復魔法を使える者たちもうれしいことがあったのだ。
「それにしても全員の回復魔法のレベルがあがるとはね……。加護もついたりしたみたいだし」
同行者たちにも光魔法のレベルがあがり、他にも生命神や魔法神の加護レベルがあがったことに喜んでいた。
また幾度となく魔法を行使したため、限界値があがり回復魔法を行使する回数も増えていたのだ。
神々がきっと見ているんだろうなとカインは思いながら何度目かのため息を吐いた。
「訓練と一緒だな。強くなるためには日々の繰り返ししかない。己の肉体もそうやって鍛えていくのだ」
ランダルや獣人たちは日々の訓練や狩りなどでレベルを上げていく。
だからこそ納得できる結果だった。
最前線手前の砦が見えてくると、カインたちの目の前に広がっていたのは数えきれない程の――墓だった。
小山に簡素な木の枝の十字に結んだだけの墓。それが街道の両端にひたすら広がっていた。
その情景を見て全員が眉根を寄せた。
「これだけの数が……」
バイサス帝国の侵略によって散っていった命。
メルもその光景に口を固く結び涙を浮かべる。
「絶対に許せねぇ……バイサスのやつらめ……」
ランダルは拳を固く握りしめ、悔しそうに呟く。
カインもこの光景が広がる原因になった召喚者たちを許せなかった。
もしかしたら日本とは関係ない人たちかもしれない。日本人であったなら同じことができるとは思えなかった。
「とりあえず急がせよう。まだ助けられる命はあるはずだ」
暗くなった回復役たち一行は先を急がせ砦へとたどり着いた。
案内された宿泊所に荷物をおろし、カインたち代表者は砦の責任者と打ち合わせを行うことになった。
アイテムボックスから取り出した食材やポーションなどを、先行して配るように手配して、カインたちは兵士の案内で一つの会議室へと通された。
部屋の中にはメルと同じ獅子族の男が先に座っていた。
ランドルより立派な体をしていたが、全身が包帯だらけであった。その包帯も血が滲むほどの怪我であった。
カインたちはそのまま促されて席に座る。
最初にその包帯だらけの獅子人からの挨拶から始まった。
「こんな前線まできてもらってすまない。あと、村々で兵士たちを回復してもらったと報告があがっている。すぐに前線へ復帰することができたと皆喜んでいる。本当に獣人族のために力を貸していただき感謝する」
獅子人の男はカインたちに向かって頭を下げた。
「ジルおじさん!!」
メルが声を上げるが、思い出したかのように獅子人の男は手をたたいた。
「久しいな、メル王女。そうだ。自己紹介をしていなかったな。この最前線を任されているジルだ。そこのメル王女の親族だ」
「はじめまして、エスフォート王国からきました、カイン・フォン・シルフォード・ドリントルです。話をする前に回復だけさせてください」
カインは右手をジルに向け、回復魔法を放つ。
光がジルを包み込み、次第と消えていった。
「これでもう大丈夫だと思いますが……」
カインの言葉に、痛みが消えたのかジルが包帯をほどき始めた。
そして傷が消えていることに目を見開いて、自分の体を確認し終わってから再度カインに向かって頭を下げたのだった。
夏にコロナをやってから体の倦怠感が思ったより残ってます。
まだまだ終息する見通しもありませんし、皆さんも気を付けてください。
ちょっと鬼ペースで書いてるので更新頻度はあがるはず?