第十話 同行者
お久しぶりです。
最後に重大な発表が!!!!!
許可を出すとゆっくりと扉が開かれる。
そこからひょこっと顔を覗かせたのは、少しだけ恥ずかしそうに頬を染めたメルだった。
「ちょっといいか……?」
「あぁ、まだ寝るには早いから問題ないよ。どうぞ中に」
カインの返事に頷いたメルはゆっくりと部屋へと入り扉を閉める。
そのままカインの対面のソファーへとゆっくりと腰かけた。
「少し待ってね、今、紅茶いれるから」
カインはアイテムボックスから取り出したカップを並べ、まだ熱い状態のポットから紅茶を注いでメルの前に置いた。
メルの対面に座り、カップに口をつける。
少しだけモジモジしていたメルは、紅茶を冷ますように息を拭いて一口飲んで気分を落ち着かせたあと、口を開く。
「あの……。聞いてもいい?」
「自分で答えられる範囲でなら。なんでも答えるって訳にもいかないから」
改まって姿勢を正したメルは真剣な表情でカインを見つめたが、カイン視線が交差すると頬を染め恥ずかしそうに視線をずらす。
「カイン殿は多分、相当に強いだろ? 多分、この国でも片手におさまるレベルの強さだと思う。それなのに前線には出れないのか?」
カインは自分自身が戦場に出れば、大勢の敵がいても一人で勝てる自信はある。
しかしエスフォート王国の中で戦争に出ていいのは成人した者だけと厳格に決まっている。
実際に自国に被害があり、さらに知り合いがもしも……の時は自ら戦場に赴くつもりではいたが、今はその状況にはなかった。
「自慢ではないけど、多分、メルの思っている以上の力はある。でも王国の決まりなんだ。自分の身を守るために力を使うときがあるかもしれない。でも自分から敵を倒しにいくことはできないんだ」
カインの言葉に少しだけ納得がいかない表情を浮かべたメルだったが、諦めたように大きなため息を吐いた。
メルの中では、カインは自分を屈服させた強者である。だからこそ前線で活躍してほしいという期待もあった。
「そ、それなら、一緒にいて、もし私がそばにいても私のことを守る自信もあるのか?」
メルはケルメス獣王国の王女であり、いくら戦闘狂が多い獣人族であったとしても、危険にさらすわけにはいかない。
「隣にいれば問題はないけど、だからといって王女の立場上、前線に赴くわけにはいかないでしょう。陛下も許可はしないはず」
「もし、お父様がいいと言えば同行しても構わないってことか……」
メルは顎に手をあて少しだけ悩む。
しかしカインは前線に行くが戦闘に参加するつもりはない。
「許可が出れば同行するのは構わないけど、前線で戦うことはないよ。自分の身を守る場合は別だけど……。大事なのは今、戦いで負傷している人たちを回復させることだから」
実際に、死んでいなければカインの回復魔法なら四肢の欠損であったとしても回復可能であった。
実力を隠すつもりない。一人でも多くの兵士が家に帰れるようにするつもりである。
「気持ちはわかった。お父様に相談してみる。できれば同行したい。国のために戦っている兵士をこの目でみたい」
まっすぐとカインを見つめるメルにゆっくりと頷いた。
「わかった。許可が出れば構わないけど、私のいうことは必ず聞いて欲しい」
「うん、わかった。遅くにありがとう。さっそく相談してくる」
残った紅茶を一気に飲み尽くし、メルは席をたち「おやすみ」と一言残して部屋を出ていった。
一人になったカインは、今回同行する原因となった勇者たちについて考え始めた。
「召喚された四人……。もしかしたら日本人なのだろうか……。一人は戦闘職ではないと言っていたが……」
戦争に自ら参加し前線に立つなど、倫理的に日本人だとは思えなかった。
カインも実際に自ら犯罪者たちに手を下したことはあった。それでも最初は葛藤があったが、自分、もしくは大切な人たちのために手をくだした。
実際にグラシア領が攻められたらカインは前線に立つつもりはあるが、侵略のために前線に立つつもりはなかった。
カインの中でも、もし相手が日本人であった場合、自ら手を下せるか疑問はある。
「とりあえず明日からどうなるかな……」
飲み終わったカップをアイテムボックスに仕舞いこみ、カインはベッドへと寝ころんで目をつむった。
◇◇◇
次の日、使用人たちは戦地へと運ぶ物資を馬車に積み込んでいく。
回復役や物資の運搬のために三十台の馬車が連なっていた。
朝食を済ませたカインたちは用意された馬車に乗り込んでいくと、メルが手を振りながら勢いよくカインの馬車へと駆けていった。
「カイン殿~! お父様から許可をもらってきましたっ」
駆けてきたメルを見たランダルが、カインに視線を送る。
「カイン殿……。もしかしてメル王女も同行を……?」
焦ったランダムが問いかけにカインは苦笑しながらも頷く。
「陛下の許可が出たらという条件をつけましたが……出たみたいですね」
カインとランダルが乗っている馬車に、メルも乗り込んでカインの隣に座った。
「ふふふん」
ご機嫌なメルに苦笑していると、出発の合図と同時に馬車がゆっくりと進み始める。
カインたちを乗せた馬車は、前線へと動き始めたのだった。
アニメ化決定しました。
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えっと、まだURL知らないんですけどね。