第九話 殺気
とりあえずお待たせしましたとしか言いようがございません!!!!
カインを指さしたメルは、国王の血を多く引いているのか、逆立った短い金髪を後ろで束ね、服装は他の者と同じように戦いに向いた恰好をしていた。
しかも獣人なだけあり好戦的であった。自身も戦いを好み、父を国王に持っているからかもしれない。
だからこそ弱者に対して厳しい対応をする。
しかしハピネスからの説明では、この自分と同じ歳の少年が大国のエスフォート王国でも最強と言われる者だと説明されても納得いくものではなかった。
いくら同国の者が証言しても実際に見たわけではない。
虎獣人はこのケルメス獣王国でも実力は上位であったとしても、目の前にいる少年の方が強いと聞いてもメルにとって信じられるものではなかった。
「メル、同盟国から応援に来ている客人に対してそれは失礼であろう。たとえ実力を実際に見たわけではないにしてもだな。こうして、ガンダルも言っておる」
「お父様! 私は実際にこの目で見たものしか信じない!」
カインとしては実際に実力を見せることは問題ではない。すでにガンダルと対戦し実力の一部だけであるが見せている。
隠し通すつもりもないし、実際に自分の周りに危険があればその力を行使するつもりである。
しかし、実際には回復魔法が使える上位貴族として、このケルメス獣王国に赴いているので見せる必要はなかった。
ただ、どうしてもメルは納得ができなかった。
メルも国王の血をひく獅子人族だ。血統からか他の種族と比べてそれなりの実力を備えている。
しかしそれでもこの国ではメルより強者は多い。それは年齢における経験であったり、技術であったりしたからであった。
実際にメルよりランダルの方が実力は上である。
「実際に実力を見せるのは問題ありません。しかし、私はあくまで回復術師としてこの国を訪れていることだけは忘れないでいただきたい」
このままでは話が終わらないとカインは諦めたように話し始めた。
「カイン殿のその意気に感謝する。それでは誰かと対戦して実力を――」
「いえ、この場でその実力は示せますので。ただ許可をいただければ」
カインの言葉に国王は深く頷いた。
「その方法は任せる。やってみせるがよい」
カインはその言葉に頷いて、この謁見の場に広がるように――殺気を放った。
もちろん、同行している自国のメンバーを避けるように。
空気が一瞬で変わる。
カインを中心に一瞬で誰もが自分の命を一瞬で刈られると認識させた。
まだ成人にも達していない者が放つ殺気ではない。
謁見の間にいた獣人たちはあるものは泡を吹いて崩れ落ち、あるものは後ろに飛びのき柱の後ろに隠れて震えだした。
メイも殺気を浴びたことで後ろに飛びのき頭部の耳を折り畳み、尻尾を股ではさみ震えていた。
獣王でさえ、椅子に座っていなければ飛びのいたかもしれないが、冷や汗をかきながら足の震えを手で無理やり抑えていた。
「……もう良い。十分に実力は理解できた」
国王の言葉にカインは殺気を拡散させる。
殺気がなくなったことでやっとこの場にいたものたちは力を抜いた。
しかし半数はすでに意識はなく倒れてこんでいる状態であった。
ため息を吐いた国王は、後ろに隠れて震えているメイに視線を送る。
「メイ、これで十分であろう?」
国王の言葉に隠れて怯えていたメイは無言のまま、ゆっくりとカインに近づいていく。
そしてカインの前に立つとそのまま――腹を見せて寝ころんだ。
「……えっ」
まるで服従しているかのようにゴロゴロと喉を鳴らすメイにカインはどうすればいいのかわからない。
周りを見渡すが、国王を含めなんとか意識のある獣人たちも唖然としていた。
「「「「…………」」」」
もちろんエスフォート王国からの同行者たちも無言のままだ。
「……あの、これはどうすれば……? えーっと……」
足元でじゃれついてくるメイにどうしていいかわらかず、とりあえずしゃがみこみ猫をじゃらすようにお腹を撫でてみた。
撫でられているメイは気持ちよさそうに喉を鳴らす。
そんな時咳払いが一つ。
「――メイ……いつまでそうしているつもりだ……」
少しだけ怒気のこもった声が謁見の場に響き渡る。
獣人にとって、寝ころんで腹を見せるということは、相手に服従していることを現わしている。
それも先ほどまでカインに食ってかかっていた王女であるメイが真っ先に服従してみせたのだ。
だがメイにとっても初めて受けた絶望的な殺気に正気をなくし服従したのは本能であった。
国王の言葉にメイは正気を取り戻したのか、カインの元から飛びのくように退いた。
「…………」
元にいた場所に戻るとその表情は羞恥に悶えるにように真っ赤に染め俯く。
「このままでは仕方ない。話を戻すぞ。今受けた実力で問題ないとわしは考えておる。依存があるものは……いないな。細かいことは実務者たちと話すがよい。我が獣王国はエスフォート王国の助力を心より歓迎しよう」
話を終えた国王が退出すると、係に案内されエスフォート王国からの客室に通された。
ただし、カインだけは他の者より豪華な部屋に通される。
カインは他の者とは違い、エスフォート王国の上級貴族にあたるので、それに対しての待遇であった。
ソファーに座り、今後のことについて考える。
「明日には打ち合わせをして、すぐに前線に向かうことになるか……」
カインは前線に赴くことになっているが、あくまで回復要員としてである。
未成年であるカインが戦争に参加するのは国王から禁止されている。
自分の身を守る場合のみ武力行使を許可されているが、カイン自身も自分のステータスがわかっているので一人で国を相手取ることもできるのは理解していた。
――だからこそできない。
そんな時、扉がノックされたのだった。
もう一つの作品の「召喚された賢者は~」のストックを放出しようかなと。