第八話 謁見
すみませーーーーーーーん!!!
土下座じゃなくて、土下寝ですかね??
色々とやっていたらこんなに経っていました。
従者に連れられてカイン達は豪華な廊下を歩いていく。
そして一際大きく細かく装飾された扉の前で立ち止まった。
「エスフォート王国からの使者をお連れしました」
従者の言葉の後、ゆっくりと扉が開かれていく。
開かれた謁見の場は高い吹き抜けと豪華な絵が天井に描かれていた。思わず感銘の声が上がるほどに。
正面に玉座があり、左右にはこの国の貴族だと思われる獣人が整列している中、カインたちは玉座前にて膝をついて頭を下げた。
それに合わせてケルメス獣王国の王が家族と伴い入場してきた。
「面をあげよ」
カイン達は膝をついたまま頭を上げた。
「この度ははるばるエスフォート王国からの応援要請を受けていただき感謝する。詳細はあとで教えるがまずは長旅を癒すといいだろう」
カインは今回の派遣部隊の中では、最上級の貴族ではあるが、未成年のため、表立つことを国王より禁止されていた。身の危険がある場合は全力を尽くしても問題ないが、謁見の場では代表者の後ろに控えている状況だった。
「陛下よりありがたいお言葉感謝いたします。我がエスフォート王国としても今回の件については、嘆いております。軍の派遣はできなく申し訳ありませんが、まずは回復魔法が使える者を派遣することになりました。負傷者の救護については助力できるかと存じます」
「あぁ、聞いておる。王国とてバイサス帝国とは隣接している国、いつ同じようなことが起きるとは限らん。下手に国家間に刺激を与えるべきではなかろう。それに我が獣王国とて負け戦となっておるが侵略を許しているわけでもない」
ケルメス獣王国としても勇者たちを相手に善戦していた。勇者たちに勝つことはできなかったが、勇者がいない部隊には全勝し、撤退させていたのだ。
しかし規格外の勇者、聖騎士、賢者の三人を相手にするのは、いくら歴戦の猛者でも無理だった。
幾人もの強者が勇者たちの前で散っていき、参列している獣王国の貴族たちも思い出したように表情を暗くする者もいた。
その中でも一番悔しそうにしていたのは、ケルメス獣王国国王であろう。自らが一番の戦力でありながら、国王としての立場上、前線に立つことは許されない。
この王都を守るために城にいなければならないのだ。
カインたちもその気持ちを察してか、言葉を出すことはない。
「それにしても、こんな弱いものたちを加勢とは……エスフォートもたかが知れているのぉ」
静まり返った謁見の場に、響き渡る女性の言葉。
その言葉は国王の横に立っていた女性からの言葉だった。
「こら、メル。そういうのではない。バイサス帝国とエスフォート王国は宿敵の仲だ。表立って軍を派遣したら、全面戦争になってしまう。この獣王国の件がきっかけとなってしまっては申し訳ない。それに、我が獣王国では回復魔法を使える者はおらん。それだけでも十分に助かるはずだ」
「お父様……いえ、陛下。獣王国は屈強の肉体を持った兵士たちです。その者たちが負けるはずはない。きっとずるをしたはずなのだ。人族風情が我ら獣人に勝てるはずもないっ!」
王女であるメルはいくら勇者と言われていようが、肉体的に優れている獣人が人族に負けることに納得がいってなかった。
しかしその場を崩したものが一人、手を挙げた。
「陛下、よろしいでしょうか。港町領主、ガンダルが息子、ランダルと申します」
虎人として立派な体格をし、実力的には他の獣人たちよりも立派な体で手を挙げたことに視線が集中した。
「ガンダル殿の息子か……。久しいの。それでどうしたのだ?」
国王の言葉にランダルは一歩前に出て、カインに視線を送った。
「たしかに、メル王女の言われたとおり、我ら獣人族は人族に比べ、屈強な体を持ち、力負けすることなどありません」
「そうだ、その者の言う通り――」
メルが同調するが、その言葉を遮るようにランダルは言葉をつづけた。
「しかし、我ら獣人には知りえない力を持つ人族もいることは確実です。私も領主の息子として、訓練に手を抜いたことはございません。そこらの兵士がいくら集まろうが勝つ自信はございます。しかし、そこにおられる――カイン殿には手も足も出ませんでした。それだけの実力を持つ者もいることをどうか考慮してください」
エスフォート王国からの使者たちは、まずいという表情になる。カインが辺境伯であることは知っているが、未成年であり、今回。回復薬として同行しているから目立つことのないように、国王からもきつく言われていたのだ。
しかしケルメス獣王国では力がすべてであり、自分の力を隠すという習慣はなかった。
だからこそランダルはカインの実力について進言したのだった。
「……カイン殿といったか……。その者は……?」
国王も全員が自己紹介をした訳ではなかったので、誰がカインだか知らない。
あきらめたようにカインはゆっくりと立ち上がった。
幾人もの中で、一際若いカインが立ち上がったことに、国王は目を見開いた。
「はじめまして、陛下。私は、カイン・フォン・シルフォード・ドリントルです。エスフォート王国では辺境伯を承っております」
カインは挨拶をしたのち、ゆっくりと貴族の礼節をとった。
国王やメルはカインの若さに驚きの表情をした。しかも獣人の中でも強者と言われる虎人が手も足もでないという。
この謁見の場で虚偽の報告をする必要もなかった。
しかし、その言葉を裏付けるように、もう一人が前にでる。エスフォート王国への使者であったハグネスであった。
「ランダル殿の言葉に虚偽はないと思われます。十四歳にして、辺境伯という上級貴族にして、エスフォート王国近衛騎士団長、王女殿下、公爵令嬢の婚約者を持ち、エスフォート王国最強と言われる近衛騎士団長より強いと、エスフォート王国国王陛下より言葉をいただいております」
ハグネスの言葉は決定的であった。
〝エスフォート王国最強の戦力〟と言っているのだ。このまだ成人してもいない少年が。
「--しかしながら、陛下。エスフォート王国では未成年に対して参戦は許可されておりません。それでも、エスフォート王国最強と言われ、魔法全般においても他に類を見ない実力を持ったシルフォード辺境伯を派遣していただいたエスフォート王国国王陛下には感謝しかございません」
「……エスフォート国王にそこまで言わせるまでの実力か……。メルと同じ歳だというのに」
ランダル一人ではなく、ハグネスの言葉も加わりその信ぴょう性が増した。
しかし、その言葉を納得していない者はいた。
「そこまで言うならその実力を見せてみなさい!」
荒々しく言葉を上げ、カインを指さしたのは王女であるメルだった。