奇跡の光
(プリケッツよ……目覚めるのだ……!!)
プリケッツの脳内に直接声が響く。若干のエコーが掛かっている。
しかし、その声はプリケッツには届かない。寝ているからだ。
(プリケッツよ……起きろ!起きるのだ……!!)
何度脳内に語りかけてもプリケッツは大きなお尻をデロンと転がして呑気に眠っている。ちょっと可愛い。だがそれが逆にムカつく。
「もうダメだぁ……おしまいだぁ……」
私はどこぞのヘタレ王子のように両膝をついて涙を飲んだ。もうダメだと思った。一人の少女の更正などぶっちゃけどうでも良かった。唯々懲罰が恐かった。最近は懲罰続きで神を降格させるとの人事からの警告も出ている。背水の陣なのだ。
少し愚痴を聞いてほしい。私は頑張っているのだ。頑張っているからこその、失敗なのだ。
他の神々はどうだろう。仕事をさっぱりしようとしない。サボタージュである。怠慢である。失敗しようにも、何もしていないのだから失敗のしようがない。
報われない。報われないのだ。私は一人の少女の為だけにこんなにも頑張っているというのに……!
愚痴を聞いてくれてありがとう。もはやこれまでと腹をくくっていたが、奇跡は起きた。
まむこが。黒井まむこが来たのだ。1匹の猫の元へ。プリケッツの元へ……!
まむこはナンパ待ちにくたびれたらしく、フラフラとここまでやって来たのだ。偶然に。奇跡としか言いようがない。
「猫ちゃん可愛い~」
まむこはそういうとプリケッツを撫で始める。
「大きいお尻~!かぁわいぃ~!」
モフモフの臀部をモフモフしている。触りたくなる気持ちは凄く分かる。物凄いプリっとしたモフモフなのだ。
「にゃ~」
プリケッツは夢見心地である。起きろ!起きるのだ!
奇跡との遭遇に私が若干の興奮状態だった為か、プリケッツは私の念に応じるように目を覚ます。と同時に目を丸める。仰天している。何しろ目の前にターゲットがいるのだから。
幸い、ここは百貨店の裏側。人気がない。ここでなら、説得出来る。私はもう時間が無いことをプリケッツの脳内に直接叩き込み、即直談判するように促した。
プリケッツは猫である。正確に言うと、猫ではないが猫に化けている。猫は、喋れない。まむこと話すためには、人型になる必要がある。
プリケッツの体が突然眩しく光り出し、まむこは思わず目を瞑る。光が収まり、まむこが静かに目を開けると……。
そこにいたのは、全裸の渋いオッサンだった。