冷酷にして残酷
トゥルルルルル……
トゥルルルルル……
電話の音だ。
どこの電話の音かというと、私……神の側にある据え置きの固定電話だ。
その音はまるでカラオケで残り15分前に掛けてくるフロントからの電話のようにやかましい音だった。
えっ、もう2時間経ったの?と。えっ、15分前とか急かしすぎなんだけど?と。10分前でいいんだけど?と。
そんな微妙な嫌悪感を覚える音だった。
今は黒井まむことプリケッツの動向が気になって電話どころではない。そもそも、なぜこの天界にこんな色褪せてヤニで黄ばんだ若干ベタつく受話器があるのか。
そんな焦りと電話に対する場違い感で更に私のイライラは増していた。
トゥルルルルル……
トゥルルルルル……
電話は尚も鳴り響く。
いい加減に出ないとらちがあかないので、私は受話器を取り不機嫌そうにもしもしと返事をした。
「こちら天界HQです。終了1時間前になりますが延長なさいますか?」
何を言っているのだ?
私はカラオケ店に入っていたつもりはないし、よしんばここがカラオケ店だったとしても終了1時間前ってお前それ催促が早すぎるのではないか。10分前でいいのだ。もっと言うと5分前でもいい。
「何の終了1時間前ですか?」
私は不機嫌な態度を露骨にアピールしながら答えた。
「プリケッツ様の下界申請です」
「下界申請?24時間でしょ??」
「いえ、2時間の申請となっております」
なん……だと……?
2時間?終了1時間前?訳がわからない。
私は24時間で申請した。確かにした。
キーボードの数字の4を叩いた感触が今でも指に残っている。この感覚は嘘ではない。私は不安に駆られながらも続ける。
「私は24時間で申請しましたが……?」
「いえ、2時間での申請となっております」
そんなはずはない……そんなはずは……!
慌てて申請書のコピーを見直すと、確かに2時間での申請となっている。
何故だ?
確かに私は4のキーを押したはず……。
と思いながらキーボードを叩き直してみると……4がきかない。壊れていたのだ。キーボードの4が潰れていたのだ。
ちょっと待ってよ、と。2時間で目的達成できるわけないじゃん、と。HQも申請見てあれ、おかしいなくらい思ってくれよ、と。
そんな幼稚な言い訳を胸のなかに溜め込みつつ延長は不要と伝えて電話を切る。
ヤバい。相当ヤバい。
HQは延長しますか?などとマニュアル通りに冷酷に対応してくるが、これは罠なのだ。
延長申請にはそれ相応の理由を添えた資料を提出せねばならないし、そもそも延長した時点でペナルティなのだ。懲罰なのだ。残酷である。
一方、下界ではそんなことは露知らず1匹の猫が室外気の上で気持ち良さそうに眠っていた。