神獣、死す
「キャーーー!!!!!!」
突如コーヒーショップに鳴り響く悲鳴。何が起こったのか。プリケッツの擬態は完璧だ。どこからどう見ても人間であるし、バレたところでそもそも人間は神獣という存在すら知らないはずだ。
何が起こった。プリケッツと同時に強盗でも入ったのか。いや、ちがう。明らかに皆がプリケッツの方を見ている。黒井まむこも。黒井まむこという奇異な名前の少女からも、奇異なものを見る眼差しを送られている。
重ねて言うが、プリケッツの擬態は完璧だ。いくら低級の神獣だからといって、変身能力に欠陥があるというわけではない。擬態は完璧なのだ。いや、完璧だからこそ、渋いオッサンの細部まで再現しているからこそ、まずかったのだ。
……盲点だった。聡明な読者はもうお分かりだろう。そう、プリケッツは……全裸だったのだ……。
しかしながら、プリケッツ。人間に、くしくも渋いオッサンに変身しているとはいえ、見事なまでにプリっとした臀部である。ちょっと撫でてみたい感すらある。
いや、今はそんなことを言っている場合ではない。辺りの客が変質者を捕らえようと食って掛かってきている。言うまでもないが、変質者というのは黒井まむこのことではない。プリっとした臀部の渋いオッサンの方である。
「痴漢だ!!」
「捕まえろ!!」
最初の悲鳴から絶妙な間を置いてから、正義感溢れる大人達がプリケッツへと駆け寄る。瞬時にプリケッツは自分のミスに気付き、自分の不甲斐なさを悔いて頭を抱え……たかったが抱えるのは頭ではなくむしろ股間であるということに気付き、股間の細部まで再現されたソレを抱えて一目散に外へ逃げていった。
その様子を、黒井まむこはキョトンとした表情で眺めていた。その反応からは、彼女がビッチであるかどうかの判断は中々難しかった。