吹奏楽は何とやら・・・
僕がチューバを吹いたのは、中学に入学してすぐの事だった。
何部に入ろうか、どこに行こうかとウロウロしていると廊下にこんなポスターが貼ってあった。
“金管楽器、木管楽器、弦楽器やって見ませんかーー
初心者でも大歓迎!!音痴でもOK!!
音楽に興味なくても大丈夫です・・・是非見学に!!
音楽室へレッツゴーーー
部員募集中!!!!!!!!!!
吹奏楽部 可奈& 洋子”
なんだか明るい部活動だなーーどんな部活なんだろう?
一度見てみるかな?
そんな軽い気持ちで音楽室を訪れた僕・・・
なんだか今になってドアを開けるのが怖くなってしまった。
誰もいなかったらどうしよう・・・
そんな時、いきなりドアが開いた・・・
{ガラガラガラ}
そこに立っていたのは女子だった。
「見学希望の方ですか?それとも即入部希望かな?」
僕は、いきなり現れた女子に度肝を抜かれた。
美人というほどもないが顔立ちが整っていて、そして何よりさらさらした髪をしていた。
「えっと・・・・見学でお願いします。」
そういい終わる前に彼女は笑顔で音楽室に入るように言った。
音楽室は、他の教室より少し広く様々な楽器が置かれていたが部員は3人しかいないようだった。
3人は、入ってきた僕の方を見てにっこりと笑っていた。
一人は、カタツムリのような楽器を持っていて・・・
一人は、黒色の縦笛みたいなものを持っていた。
そして彼女は、というと銀色の横笛のようなものを持ってにっこりと笑っていた。
この教室も中には俺しか男子がいないという寂しさもあったが彼女の笑みで寂しくなくなった。
彼女を見ていると手に持っていた楽器の説明と部員の説明をしてくれた。
「えっとねーーこの楽器は、フルートって言うんだよ。
で、あそこのカタツムリを持っているのが可奈・・・夕凪可奈で、持っているのがホルンて言う楽器。
でもう一人が洋子・・・奈華洋子で、手に持っているのがクラリネット・・・
私のフルートと、クラリネットは木管楽器で、ホルンが金管楽器。
あっそうそう、私は部長の稀那 優。君はなんて言う名前??」
僕の頭は、ぐちゃぐちゃになった。
カタツムリがホルンで・・・???
フルートが黒い奴だっけ???
名前聞かれたんだった。
「僕は、名嘉魔 尤馬です。」
自分的に尤馬っていう名前は気に入っている。
「みんなーーー尤馬君今日から部員だからよろしく!!それでは、拍手!!」
「えっ・・・いつから部員になったんですか??」
僕は、またも不意をつかれた。この部に入るとは、決めてないのに・・・
「今さっき・・・だからみんな拍手ーーー」
周りは、拍手で音が遮断されたようになった。
拍手が鳴りやんで不意に我に返る。
「先輩・・いつから僕がこの部に入ることになったんですか?」
「先輩じゃあないよ。同じ1年だよ。ここにいるみんなも・・・
あと君が名前言った時から既に、この部の部員になっているのだーーーハッハッハーーー」
「えっ・・・吹奏楽部のメンバーはここに居る1年生だけなんですか??」
「そう。けど大丈夫、心配ご無用ここで楽器にいらった事がないのは君だけだから。
私たちは、小学校の時から慣れ親しんだ楽器だから。
ところで尤馬君は、何の楽器をやるのかな?」
そういわれて仕方なくあたりを見渡す。楽器のケースが沢山置いてある。
どれにしようか、近くにあった四角い箱を開ける。
それには、ラッパが入っていた。
「おぉそれは、トランペットって言う楽器だよ。」
僕は、ふたを閉じる。
「あの〜〜簡単な楽器ってありませんか?」
僕は、音楽に興味があったとしてもピアノとかにしか手を触れたことがない。
こんな本当の楽器みたいなものは生まれてこの方触らなかった。
「そうだな・・・・・意外と肺活量ありそうだからチューバとか。」
「だめだってあんな重いの。それよりもユーフォとか・・・・・」
なんだか自分だけ置いて行かれた気分だ。
どんな楽器でも良いのに。
「じゃあ、チューバをだしてください。」
僕は、チューバという楽器に触れてみることにした。
大きなケースから出された楽器は、金色に光っていて腰よりちょっとしたぐらいの大きさだった。
「えっと・・・これは、チューバ。はぁ出すのに一苦労だったよ。
で、これは金管楽器だから可奈ちゃんに教えてもらって。
可奈ーーーーちょっと教えてあげてくれる。」
部長がそういうとホルンを吹いていた夕凪が歩いてきた。
「よろしく。」
彼女は、クールに言った。
「よろしくお願いします。」
「じゃあまずマウスピースの練習からだけど・・・・
チューバの先に付いている銀色のワイングラスみたいなの分かるかな・・・」
僕は、指示されたように先っちょに付いていた銀色のワイングラス型をしたものを取り外す。
「それそれ、でその後に・・・・こうやって唇につけて吹く。」
【ぶ〜〜〜】
何ともいえないような音が夕凪が拭いたマウスピースから奏で出る。
僕もまねしてやってみる。
【ぶ〜〜〜っ】
結構な音だ。
なんだか唇が自然と振動している。
音の高さは、彼女の方が高い。
この違いは、このマウスピースの大きさによるものだと思う。
「そう。結構うまいじゃん。この調子ならチューバは、楽勝かな?」
そういって今度は、楽器の本体にマウスピースをつけるように言う。
チューバは、大きいので椅子に座って吹く。
このときに背もたれまで座ってはいけないと言われたので、半分ぐらいのところで座る。
チューバは、意外と重量がある。
細身の俺には、少し重労働かと思われたが慣れたらそうでも無さそうだった。
「マウスピースは、付けたね。じゃあ、今さっき音が出たように唇を振動させて音を出す。」
【トゥーーー】
夕凪が出した音は、紛れもなく楽器の音だった。
マウスピースで吹いた時よりも澄んでいて綺麗な音。
僕がやっても出るのだろうか。
息を吸って吹いてみる。
【ボゥ〜〜】
なんだか気力の無いような音・・・・
こんな音で良いのだろうか。
「尤馬君出たじゃん!!!なんかえぇ感じやない?ねえ可奈。」
「うん、結構うまいし慣れも早い。もしかしたら・・・・」
こんなに褒められると変な笑みが出てしまう。
「そうですか?じゃあ、僕チューバやります。」
それがチューバと彼女との出会いだった。
チューバを習得するのにそんなに時間はかからなかった。
ビーフラットの音から1オクターブ以上も出せるようになったのが2ヶ月後だった。
なんだか鼻が高いような気がした。
その頃には、吹奏楽部は11人まで部員が増えていた。
部員の中には僕のような楽器をいらった事のない男子は、いなかったが
パーカッションという打楽器の所に男子がいた。
あとは女子ばっかりの部活動だ。
楽器の名前も覚えた。
奈華と他2名がやっているのがクラリネット・・・・計3人
夕凪、他1人がやっているのがホルン・・・計2人
トランペットが1人・・・計1人
稀那がやっているフルートは2人・・・計2人
俺チューバ1人
そして大きなバイオリンみたいなコントラバスが1人
あとはパーカッションで2人
だから11人・・・・・・・・・・・
8月には、コンクールがある。
夏休みは、休みと言うより練習時間の方が長い。
僕は、チューバの音を極めるために頑張っている。
毎日のロングトーンは、欠かさず。
基礎の練習・・・・。
そして曲の練習。
僕たちの夏休みは、そうして終わった。
コンクールは、というとまあまあの結果で銀賞。
今年の部員が1年生だけだとは、思えない結果だった。
来年は、どうなるのかな?
ちなみに一番良いのが金、そして銀、銅と続く。
銀を取ったとき部長ははしゃいでいた。
「いえ〜い。やったー銀取ったぞー尤馬君やったぞー!!!山岡中の快挙だよ〜〜」
はいはい。快挙です。
「ところで部長これからどうするんですか?」
「ん?これから、決まってんじゃん。アンコンよアンコン♪」
なんかすっごく明るいんですけど・・・
「アンコンってなんですか?」
「えっと・・・可奈!!可奈〜アンコンってなんだっけ・・・。」
分からないで使ってたのかよ。
「それは、アンサンブルコンテスト。少人数で分かれてやる音楽のコンクール。
ちなみにこの前あったコンクールは全員でやった・・・。」
「曲はどうするんですか?あとアンコン何時あるんですか?」
「12月・・・曲は各グループで決める。」
「グループ分けは、どうします?」
「くじ〜〜〜!!」
部長が大声ではしゃぎまくる。
そうしてくじ引きをした結果。
2つのグループに分かれた。
・クラリネット1人、ホルン2人、コントラバス1人、パーカッション1人、計5人の五重奏。
・フルート2人、クラリネット2人、トランペット1人、パーカッション1人そして僕のチューバで7人の7重奏。
何で僕は、部長と一緒なんだ・・。
部長はちょっと苦手だった。
ポジティブ命みたいな人だし・・・明るすぎる。
十二月までまだまだ時間がある。
夏休み明けと言うこともあり僕はまだ、眠気に襲われていた。
それにしても暇・・・・
今、国語の授業をやっている。
食後の国語は、強烈に眠気を誘う・・・。
すみません先生お休みなさい。
寝ているうちにもう11月。
そんなこんなで色々あって・・・・。
僕は、チューバを吹きまくっていた。
時々めんどくさくなったりしたけど・・・
部長の馬力で何とか今までやってきた。
野球部とかテニス部は、今の時期寒空の中で体を動かしているが
僕たちも暖かい環境とはいえない音楽室でグループに分かれて練習をしている。
基礎の練習をして・・・・
その後曲の練習をする。
曲は冬にちなんで《そりすべり》
明るくて元気あふれる部長ならでわの選曲だ。
そして、無茶な練習を繰り返し・・・・
いつの間にか12月中旬のコンクール前日。
前の日という事もあり僕たちは、練習を早めに切り上げ楽器を磨く。
ぴかぴかになった楽器は、1階に持って降りる・・。
この作業が僕にとっては苦痛だった。
何にせよ重たいこのチューバを3階から1階に持って降りるのが腕の疲労になる。
そんな時にポジティブの奴に何か言われると腹が立つ・・。
「よっ、やってるね〜〜〜尤馬!!いよいよ明日・・・。」
「部長なんですか?今ものすごく忙しいんですけど。部長暇そうですね・・・・どうせなら手伝ってくださいよ・・・」
「え〜〜〜〜〜面倒だし・・・重そうだし・・・いいや。」
「そうですか・・・じゃあ邪魔をしないでください。」
僕は、やっとの事で1階に持って降りることができた。
腕が痛くてもう死にそうだ。
僕たちは、アンサンブルコンテストに出た。
結果は、2つとも金。なんだか鼻が高い。
練習は、きつかったけど賞をもらったときの達成感は忘れられない。
僕は、この3年間を吹奏楽に費やしても良いなと思った。
そんなある日、部長が僕を呼び出した。
「部長なんですか?」
声をかけると部長は、なんだか神妙な顔をしていた。
「あのさ・・・・・・」
いつもと違う、ネガチィブ感。なんだか不思議だ。
「はい、なんですか?」
「う〜〜〜んとね。じゃん!!
私たち山岡中吹奏楽部が地域のお祭りに参加する事になりました。」
なぜ僕にそんなことを言うんですか?部員全員に言ってください。
僕は、つっこみを入れる??そして部長の手の中にあったポスターを見る。
そこには、山岡地区の御輿祭の案内が書いてあり・・・
{山岡中吹奏楽部の演奏}とプログラムの中に書いてあった。
誰が勝手に決めたんだ・・・。
「で・・・チューバ担当の尤馬君には、立って吹いてもらいたいのよ〜〜」
「えぇ??僕が立って吹くんですか?そんなの無理ですよ・・・」
「いや、尤馬君だったらできる。ちなみに部員全員立つんだから。」
チューバは、お世辞といえないほど重たいのに。
それを部長は知ってか知らずか・・・
いや、絶対知っているだろう。
せっかくやる気になったのに・・・もう、いやだ!!
けど断ることは、できないし。
「仕方ない・・・やります。やれば良いんですね!!」
やけくそだ〜〜
「それで良い!!よっ男だ尤馬君!!」
そういうことで、今僕は立ちながら吹いている・・・・。
あり得ないほど腕に負担がかかっている。
曲は、コンクールの曲とアンコンの曲、そして今はやっている2曲、合計5曲だ。
こんな日曜日にこんなに体力を使うとは、吹奏楽部に入って一番災厄な行事。
聞いてる人は、高齢者かちっちゃい子供・・・。
そして、あれから1ヶ月・・・・。
なんか色々とありすぎて訳が分からなくなって来た。
卒業式と入学式・・・あと部活動紹介。
今、僕たちは中学2年生。
新しい新入部員を集めるために、僕たちはポスターを作って貼った。
僕が作ったポスターは、部長と同様に汚い。
貼る場所なんてあるのか?
ちなみに去年ポスターを作った夕凪たちは・・・
本当のポスターと言うほど立派だった。
夕凪たちはポスター作りの天才だ!!
なんだか時間がだんだんと過ぎていく。
そして三年最後のコンクール。
ステージに上がった僕たちはライトにてらされ課題曲を演奏する。
頑張って練習したこの夏休みを思いだす。
楽しかったことを思いだす。
チューバやってて良かったと思う。
そして曲演奏が終わる。
辺りからは拍手喝采。
もう天にでも昇る気分だ。
最後のコンクールは、見事に金賞。
卒業に花を飾った。
部長はと言うと。
「良くやったぞーーみんな〜本当にありがとう。」
「オッ部長が泣いてやがる。」そう言ったのは、パーカの男子が言った。
「オイオイ、泣くんじゃねーよ〜」
僕も言う。けれど最後が金で本当に良かった。
「みんなありがとーー」
部長はまだ言い続ける。
そして卒業式前日。
僕は学校に忘れものをしていないかと教室にいた。
すると、部長いや、旧部長の稀那が入ってきた。
「まだ残ってたの?早く帰らないと・・・」彼女は寂しそうに言っている。
「はい、忘れものをしていないかと。それより部長は。」
「うんっとね、もうこの教室使わないじゃんだから見収めかなって。
ところで尤馬は何所の高校に行くの?」
「えっ、俺ですか・・・近くの普通科の高校です。えっと圧補高校です。」
「そうなんだー私と一緒じゃん!初めて知ったわーーーでッ、高校入っても吹奏楽続けてくれるのかな?」
彼女は、満面の笑みを浮かべて言う。どうしたらいいのだろう。
高校入ってからと決めていたから・・・。
今決められるはずもない。
「まだ決めていません。すみません。ところで部長は?」
「その部長ってやめてくれないかな?そりゃあもちろん!!」
「そうですか〜」
こんな会話で僕たちは卒業前の会話を終えた。
なんだか色々ありすぎて思い出が大変なことになっている。
だけどこの3年間、とっても楽しかったです部長。
僕は、その後高校に入学し、部長とも再会した。
吹奏楽もただいま続行中で、いつもで続ければいいのやら・・・
ちなみに部長は今でも部長である。
空は、オレンジに色づいているけれど
僕の心は部長に振り回されて淡いブルーになっている。
高校、大学。どんな進路に進もうか、音楽をつづけようか今不安要素になりつつある。
みなさんは、音楽の授業が嫌いだった頃もあったかもしれませんが。
なんだか合奏をすると良い気分になりますよ。
今でも遅くないと思います。
小学校で使ったリコーダーでも教室にありそうなオルガンでも何でも良いから
もう一度使ってみてください。
絶対に人生が楽しくなっていくと思います。
私が音楽に目覚めたのは、小学校の頃だったと思います。なんだか色々とあって楽しい日々だったと思い出ではなっています。




