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第二章 廃課金

自分の寿命一時間を渡す代わりに十万円を得た恵梨華は

実感の湧かないまま 帰宅したのであった。

「恵梨華〜ご飯よ〜」


一階から母の声が響く


「恵梨華〜? 聞こえないの? 」


再び母の声が響く。今度はさっきよりも少し大きく。


「恵梨華〜! 降りてこないと

ご飯あげないからね! 」


 母の声に少し怒りの感情が乗っていたのは分かっていたが恵梨華は返事をしなかった。

 母は諦めたのかその後、恵梨華を呼ぶことはなくリビングへと戻ってしまった。



-----------------------------------------------------------



 恵梨華はベッドの上に体育座りをしていた。視線の先にあるのはベッドの上に置かれた十万円の札束である。札束は返事をするわけでもなくただ、目の前にポツンと座っている。

 部屋の中は非常に静かで、息遣いと壁に掛けた時計の進む音だけが、一定のリズムを刻みながら聞こえていた。


「勢いで貰っちゃったけど、これって本当に使えるのかな」


 恵梨華はそんな事をボソッと呟いた。あの時は目の前に札束があった事への興奮で忘れていたがこれが本物という証拠はどこにもない。

 札束から一枚抜き出してみた。特に何の変哲もない一万円札である。


「まあ、モノは試しよね……」


 恵梨華はそう言ってクローゼットの中からパーカーを取り出すと自宅近くのコンビニへと向かった。



-----------------------------------------------------------



テロリン テロリン



 コンビニに入るとお馴染みの音楽が恵梨華を出迎える。そのまま菓子売り場へと向かっていき自分の好みの菓子を2、3個手にとってみた。

 恵梨華はその場で少し悩んだが、決心をしたのかカウンターへと向かってゆく。


 カウンターでは女性の店員が 何千 何百の客へと向けてきた笑顔で恵梨華を迎えた。恵梨華は手にある商品をカウンターに置き、パーカーの中に入っている一万円を握り締めた。

 店員は先程の笑顔とはうって変わり、無表情で商品のバーコードを読み始める。


ピッ ピッ ピッ


無機質な機械音が頭の中に響く。


「合計で452円になります」


 恵梨華は怪しまれないように堂々と一万円札を取り出しカウンターの上へと置いた。


(もしこれが偽札だったら、私は捕まるのかな……)


 そんなことを考えると冷や汗が止まらない。心臓の鼓動が早くなるのを感じて、このままここから立ち去ってしまいたいと思うほど緊張していた。

 だが、店員は特に気にすることもなく淡々と数字を打ち込んでゆく。


「9548円のお返しです」


 店員はそう言ってお釣りを渡した。恵梨華は汗ばんだ手でレシートとお釣りを握り締め早足でコンビニを後にしたのだった。



----------------------------------------------------------



 部屋に戻った恵梨華は先程購入した菓子を齧りながら、残った札束と、先ほど受け取った小銭たちを見つめていた。


「本物だったんだ。本当に私十万円もらえたんだ……」


 十万円は本物であったと証明されたのだ。恵梨華からは先程までの疑惑が消え、大金を手に入れたという喜びが溢れ出そうだった。


「やった……お金がある……! これでたくさん買い物もできるし友達とも遊べる! 」


 恵梨華は喜びのあまり小躍りをし始めた。言葉にならない喜びを全身で表現する。

 下から母の怒声が響く。


「夜遅くに何ドンドンしてるの! うるさい! 」


 恵梨華の興奮は収まらなかったが、一旦踊るのをやめると机の上の携帯を手に取り、震える手で由美子に電話をした。


《由美子ちゃん! 由美子ちゃん! 》

《何~?? どうしたの?? 》


電話口から眠そうな由美子の声が聞こえる。


《私、時間商人に会ったよ! お金もらえたよ!! 》

《え!? 本当にもらえたの!!? 》


さっきまで眠そうな様子だったのが嘘の様に元気な声が聞こえた。


《うん! 明日詳しいこと話すね!! 》


 そう言うと恵梨華は電話を切り、携帯を元あった場所に戻しベッドに横になった。

 静かな部屋の中に時計の針が進む音とそれより少し早い恵梨華の鼓動の音が響く。


「たかが一時間売るだけで十万円ももらえるなら また売ってもいいかも……」


 興奮冷めやらぬ恵梨華は、横になったあとしばらく眠ることができなかったが徐々に落ち着き始め、そして眠りに落ちた。



----------------------------------------------------------



「えっ……!? 本当に十万円もらったんだね!! 」


由美子は目を見開いて恵梨華の財布の中を見つめる。


「うん! 私もびっくりしちゃったよ!! 」


恵梨華は興奮した様子でそう答えた。


「でもいいな~私も時間商人に会いたいな~」

「由美子ちゃんはバス通学だから厳しいかもね~」

「今ほど自分のバス通学を恨んだことはないよ……」

恵梨華の何気ない一言に、由美子は肩をがっくり落としてしまった。


「あ! そういえばこの前出掛けようって言ってたよね? 

お金手に入ったから行こう! ね?? 」


慌てて由美子を励ますように言う。


「そうだね! オススメの映画があるんだけど見に行かない!? 」


由美子は水を得た魚のように元気を取り戻して食いついてきた。


「私、お金持ちだから奢ってあげるよ~」

「この~調子に乗りやがって~! 」


由美子が恵梨華の頬をつつく。


「痛いよ~由美子ちゃ~ん」


だが、何かを思い出したかのように由美子はつつくのをやめた。


「でも、寿命を一時間売ったって言ってたけど大丈夫?特に体に変化はない?? 」


心配そうに由美子は尋ねる。


「あ~それが何にも起こらなかったよ! ホントに! こんな簡単に十万円貰えるなら、もっと売ってもいいかもね」


 恵梨華はおちゃらけた様子でそう話した。確かに、寿命を一時間売ったとはいえど、特にこれといって体に異変が起きたわけではなかったからだ。


「あんまり売りすぎると死んじゃうかもよ~? 」


恵梨華の様子を見て由美子は安心したものの、安心しきれていない自分がいた。


「大丈夫大丈夫! 寿命って言ったって あと何十年も先の話でしょ? 

そこからの一時間だもん。たいしたことないよ!! 」

「だといいけど……でも、」


キーン コーン カーン コーン


「あ、一時間目体育じゃん! 急いで着替えないと!! 」


恵梨華は慌てた様子で制服を脱ぎながら言う。


「そうだね! 一時間目から体育は辛いなぁ……」


由美子はそう言いながら渋々着替え始めた。




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 欲しかったお金を手に入れた恵梨華が十万円を使い切るのに、そう長い時間はかからなかった。




------------------------------------------------------------




「あ~買いたいもの沢山買って、 友達と遊んでたらもうあと少ししかないや」


 恵梨華はため息をつきながら学校から自宅への道を歩いていた。沈み掛けの夕日が、相変わらず恵梨華を見つめている。


「そういえば、この道で時間商人に出会ったのよね。また会えないかな……」


そんなことをぼやいていると、不意に後ろから声をかけられた。


「恵梨華さん 時間を 売りませんか?? 」


 振り返るとそこにはフードを被って大きな懐中時計を持った男が立っていた。あの時と同じように。


「時間商人さん! ちょうどいいところに!!

また買い取ってもらえませんか??時間! 」


恵梨華は待ってましたと言わんばかりの様子で言った。


「構いませんよ 私は 時間商人 ですから 」

「じゃあ、今日は二時間買い取って欲しい! 」


 恵梨華はなんの躊躇もなくそう言う。お金が欲しい恵梨華にとって”時間を売る”ということへの実感など既にどうでも良くなっていた。


「分かりました では この懐中時計に 触ってください 触ったら契約が完了します 完了し次第 代金を 支払います」


 前と同じように懐中時計に触れる。時間商人があの時と同じように、微かに笑った気がした。


「お売りいただき ありがとうございました それでは代金の 二十万円です お受け取り ください」


 時間商人は服の中から以前より厚みを帯びた札束を取り出し恵梨華に渡すと 何も言わずに去っていった。


「やった……これでまたお金が増えた。時間商人いいかも……」


 もはや以前のような恐怖心や違和感はどこにもなく恵梨華はただ、手の中に握られた札束を嬉しそうに見つめていたのだった。

 無機質な筈の札束から、あの時と同じように鼓動を感じた気がした。


どうも!2話目の投稿になりました(´∀`)


ウェブの課金って恐ろしいですよね。実物が見えない分

自分が使ってる実感が湧きにくいですから


僕も緑のSNSアプリで スタンプたくさん買ってしまいました(白目)

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