第一章 生は金なり
もし、永遠の時間を買うことができるなら アナタは買いますか?
もし、お金を手に入れることができるなら アナタは売りますか?
《ねえねえ、恵梨華 来週一緒に出かけない?? 》
友達の由美子が電話口で楽しそうに言う。
《ごめーん、あたし今金欠だから無理なんだよね……》
《そっか……じゃあまた今度誘うね!またね!》
電話口から由美子の声が消え 携帯は再び熱を持った鉄の塊になった。
「はぁ……お金欲しいなぁ」
ベッドの上に寝転びながら、ぼそりと呟いた。
「あーあ 高校生になってからお母さんもお父さんもテストの結果に過剰に反応しちゃってさ、三桁とったからって 今月のお小遣い無しは流石に酷くな~い? 」
ベッドの上に置いてある大きな灰色のネコのぬいぐるみに愚痴をこぼす。しかし当然ではあるが猫から返事は返ってこない。
「何か、手っ取り早くお金を稼ぐ方法ないかなぁ」
惠梨華はそう呟くと、目を閉じて やがて眠りに落ちていった。
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次の日、惠梨華は普段と同じように歩いて学校へと向かった。
そしていつもと同じように友人に挨拶し、いつもと同じように自分の席に着く。
「恵梨華も大変だよね~今月お小遣い無しだなんてさ」
前の席の由美子が冗談めいた口調で言う。
「笑い事じゃないよ~今月どうやって乗り切ればいいのさ~」
恵梨華は机に突っ伏し、頭を抱えながらそう呟いた。
「まあ、お金が必要になっらた両親に頼むしかないんじゃない?? 」
「う~ん……できれば両親は頼りたくないなぁ……」
それには理由がある。なぜなら両親の性格上からして
お金を貸すときに恩着せがましく言うからに決まっているからである。
――別に貸してあげてもいいけど、お礼の一つくらい欲しいわね――
そう言って財布からお金を取り出す母の顔が容易に浮かぶ。
「あ、そういえば……」
由美子は何かを思い出したかのように話し始めた。
「なんか、時間商人って人がいるらしんだよ」
「時間商人?? 何それ、時間を売買してる人なの? 」
恵梨華は不思議そうに尋ねた。
「そうそう! フードを被っていて、でっかい懐中時計を持った男の人らしいよ! 」
「なにそれ……完全に変な人じゃん」
恵梨華は由美子の発言に対し、苦笑いを浮かべていたが
それとは対照的に、由美子は嬉々とした様子で話を続ける。
「その人は、なんだか一時間十万円で売買してくれるんだって! 」
「十万円!? そんな大金がもらえるの?? 」
恵梨華は予想外の金額に思わず大きな声で反応してしまった。
「うん! 三年の先輩もそれでお金もらったって言ってたよ! 」
「そうなんだ……でも、一時間って何の一時間なのかな? 」
「さあ? そこまではわからないけど……恵梨華も一時間売ってお金もらっちゃえば?? 」
「何言ってるのよ由美子ちゃん、だいたい何処にいるか……」
「ほら~ホームルーム始めるぞ~」
担任の田中の声が教室に響く。二人は会話に夢中になっていたあまり、彼が入ってきたことに気付かなかった。田中が点呼を取り始めたので、由美子は前へと向き直ることにし、恵梨華も田中に点呼されるのを待つことにした。
そしてその後は、特に朝の話題にも触れることはなく一日が過ぎていく。
だが、恵梨華は一日中、由美子の言った時間商人のことが気になり続けていた。 しかし一度終わってしまった話題を掘り返すのも野暮な気がしたので、恵梨華は聞こうにも聞けない状態でいたのだった。そんなことを考えているうちに学校の一日が終わってしまった。
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「あ~疲れた……数学とか本当にやる意味がわからない」
恵梨華はそう独り言をつぶやいながら、帰りの道を歩く。夕日が気だるそうな恵梨華をあざ笑うかのように見つめている。
「あ~あ、お金が欲しいなぁ……」
恵梨華は朝の時間商人のことを思い出しながらポツリと呟いく。不意に、後ろから誰かに声をかけられた。
「お嬢さん 時間を 売りませんか?? 」
振り返るとフードを深くかぶり、大きな懐中時計を持った男がそう話しかけてきた。鼻から上はフードを被っているためか、よく見えない。
「は……? 」
一瞬、何のことか分からなかった恵梨華だったが、男はお構いなしに
「お嬢さん 私のことを 探していましたよね 時間を 売りたいんじゃないんですか? 」
と訪ねてきた。
「もしかして、時間商人さん?? 」
「ええ いかにも 私が時間商人です」
恐る恐る尋ねた恵梨華に対し、男はロボットのようにそう答えた。
「一時間 十万円で買取りますが どうしますか? 」
男は淡々と恵梨華に質問をする。
「えっと、一時間っていうのはなんの一時間なんでしょうか? 」
恵梨華は逃げなくてはならないと思っていたが、少し興味があったのでいつでも逃げられるように警戒しながら尋ねることにした。
「一時間 というのは 貴女の寿命から 一時間頂く という意味です」
「寿命……? 」
「はい 寿命です」
男は相変わらず無機質に恵梨華の質問に対し答える。表情が読み取れないためか、男の怪しい風貌なためか、恵梨華は男に対し得体の知れない恐怖心を抱いた。
「貴女が 本来亡くなるはずの 時間を 一時間早める 代わりに 私が 十万円 お支払いする ということです もし ご契約いただけるのならば この懐中時計を触ってください その瞬間 契約は完了し 代金を お支払いします」
男はそういって服の中からおもむろに、札束を取り出した。
「ほ、本物!? 」
「はい 確かに ここに十万円ございます」
恵梨華は揺らいだ。正直、時間を売ったことなどない恵梨華には ”時間を売る”という行為に実感が湧かないのだ。
だが、先程から感じていた得体の知れない恐怖心よりも
目の前に札束があるという事への興奮の方が強くなっていく。
「……本当に一時間でその十万円が貰えるの?? 」
恵梨華は生唾を飲み込んで目の前の札束を見つめながら尋ねる。
「はい 契約が完了し次第 お渡しします」
(寿命っていったって、何十年先に自分が死ぬのか分からないけど、 それがただ一時間早まるだけよね……そう考えたら、たいしたことないじゃん……)
恵梨華は考えたのだ。何十年先の未来を取るよりも、今目の前にある十万円を入手することのほうが賢明であると。
「分かった!契約します! 」
恵梨華は男の持つ懐中時計に恐る恐る触れる。 それまで全く表情の感じられなかった男の口元が微かに笑っているように感じられた。
「お売りいただき ありがとうございます
東原 恵梨華さま
では、お受け取り下さい」
男はそう言って札束を恵梨華に渡すと、何も言わずに去っていった。
男の姿が見えなくなった後も、恵梨華はしばらくその場所から動くことができなかった。
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あれから、どれぐらいの時間が経っただろうか。
先程まで橙色に照らされていた道が、その明度を落とし始める。
恵梨華は手の中にある札束をしばらく見つめていた。
未だに時間を売ったことに実感は湧いていないが、 今、手の中にある札束の重みや、感触は確かに感じられるものである。
無機質な筈の札束の鼓動が感じられたような気がした。
「……本当に十万円貰えちゃった」
ぽつりとそう呟くと、恵梨華は札束をカバンにしまい
再び自宅へと向かって歩き始めた。
どうも! これは自分の頭の中にあるものを必死に文章にしたものなので
拙い表現や お見苦しい点があると思いますが
温かく見守ってやってください(笑)
※赤い漫画アプリで チャンレンジ枠でほぼ同じものを投稿しています。