捕まった先は
「ん・・・んん・・・」
直也は少しずつ意識を取り戻し、目を開けていく。
視界もぼんやりしたものから、くっきりとしたものに変わってくる。
(そうか・・・俺達パソコン室で・・・)
横たわっている自分の身体を起こそうとするが、腕の自由が利かない。
腕を見ると、腕は後ろに回され手錠をかけられていた。
いわゆる拘束状態というやつだ。
部屋も牢獄みたいな感じで広くなく、窓もなくて部屋の明かりは電気一つだけ。
隣にはまだ意識を失っている由梨もいて、彼女もまた直也同様に手錠をかけられていた。
下半身を使ってなんとか座る状態まで持ってくる直也。
手錠がされているだけで、その手錠は柱とかにつながっているわけでもなく、腕の自由が利かないだけで逃げようと思えばすぐにでも逃げ出せる事ができる。
拘束するなら、何故徹底的にやらないのか?
直也は考えるが、答えがみつからないというなんとも皮肉な状況。
それに由梨の意識がまだ回復してない以上、ここから自分一人だけで逃げ出すわけにもいかない。
そう考え、直也はおとなしくその場で座っておく事にした。
由梨はいつまで経っても起きず、さすがの直也も心配になり由梨を起こそうとした時だった。
かつーん。かつーん。
と何者かが近づいてくる事を告げる足音が響く。
内心ハラハラしている直也だが、眠っている由梨の前に立ち上がり彼女を守ろうとした。
足音は更に大きくなり、それは直也達が拘束されている部屋の前で止まる。
ゆっくりと・・・。
そして「ギィ・・・」という扉独特の軋む音と同時に扉が開く―――。
そこに立っていたのは黒いスーツを身にまとった少々老けた女性。
年齢でいえば45歳前後といったところだろうか?
金色の長い髪が波打つようにウェーブがかっていた。
「あら?起きてたの?」
きょとんと聞いてくる女性に対し、直也もまたきょとんとしてしまう。
その女性から何の敵意も感じないのだ。
呆気に取られていると、女性は直也の背後に立ち、彼の手錠を外してくれた。
由梨の事も起こし、直也と同じように手錠を外す。
「手荒な真似を許してちょうだい。二人ともあのままだと帰っちゃいそうだったからつい」
ふふっと悪びれた様子もなくお茶目に笑う女性。
そして自分についてくるように二人を促し、女性と直也達はその部屋を出た。
つれてこられた場所は、色々な機械が置いてある場所だった。
コンピューターやら巨大なモニターやらまるでSFのような世界だ。
その機械を十人ほどの人数がいじっている。
「これは一体・・・」
二人は唖然としていると、女性はまた「ふふっ」と笑う。
「どう?すごいでしょ?」
「すごいけど・・・ここはどこなの・・・?」
少し怯えた様子の由梨が女性に質問をぶつける。
「ここはあなた達が通っている学園の地下よ」
そう知らされても直也はそれを信じられるわけもない。
由梨は信じきってしまって、また少し興奮気味に「すごい!」と騒いでいるが。
直也の信じてないような様子を見た女性は、それならばと機械をいじっている一人の男を呼び出す。
「り、理事長!?」
そう。この学園の現理事長を務めている「田中孝太郎」だった。
彼は二人にたいしてにこりと笑うと、また作業を始めるように機械とにらめっこを始めた。
「それとね。あなた達以外にも人を呼んでるのよ」
そう言われた瞬間、直也達が通ってきた通路からぎゃーぎゃー騒ぐ声が聞こえる。
「おい!なんだってんだよ!」
「は、離してください!変態!痴漢!警察呼びますよ!?」
男の声と女の声。
直也は無言のまま声がする方を見つめる。
その二人の声を、彼は知っていたからだ。
その姿が見えた時、やっぱり!と言わんばかりにその人物の名前を呼んだ。
「和斗!」
「直也!?お前なんでこんな所に!?」
「あ、みいちゃんだ!」
「あ!由梨先輩いいいいいいいいいい!!」
和斗と呼ばれた男は直也に。
みいちゃんと呼ばれた女は由梨に駆け寄った。
男の名前は「上原和斗」。
180cmはあろう身長に筋肉質でいいガタイをしている。
金髪の逆立った髪は、和斗を少し悪い印象で見てしまうかもしれないが、これでも学園の人気者。
女の名は「木下美里」。
みんなから「みいちゃん」と呼ばれ、可愛がられている妹的存在だ。
154cmとこの中では小さく、由梨と同じくらいの髪の長さで横で結っている。
彼女は由梨の事が大好きという事で、割と有名。
そんなみんなに可愛がられる存在の美里にも、学園で唯一嫌いなものがあった。
「うえ、いたんですか。近藤先輩」
・・・そう。直也だ。
由梨といつも一緒にいて、幼なじみという関係の彼に対して美里は敵意を持っていた。
「おこちゃまのくせに生意気な事言うなよ」
「なっ!?またそうやって馬鹿にするんですね!?」
「やーい、おこちゃま~」
美里のあからさまな態度に、直也も負けじと応戦する。
この二人の関係も端から見たら兄妹のようなのだろう。
わーわーと騒いでいると、女性が手をパンと叩き、遠まわしに自分に注目するようにした。
「さて、役者は揃ったわ。早速だけど話を始めましょ」
そう言って女性は「自己紹介しないとね」と咳払いをし、本題の前に自己紹介を始めたのだった。