episode3-11.5
アイツが出て行ってから、もう二十分が経とうとしていた。アイツは俺が逃げないようにと、両手両足をタオルで縛り、さらに猿轡をかませてここから出て行ったのだ。ご丁寧に、扉を閉めて鍵までかけていった。
まったく身動きが取れない状況で、窓がないこの真っ暗な部屋な部屋に取り残された俺は、どこからか聞こえるチョコの声だけを頼りに、不安な気持ちを無理矢理押さえ込んでいた。本当は泣きたかったけど、泣き顔を見せたらアイツに馬鹿にされると思い、必死で堪えた。
そこからさらに五分が経過した時、扉の鍵が外される音がし、ガラガラ、という開閉音とともに光が差し込んできた。
「やぁ、お待たせ」
アイツの声だった。今の今まで、どこに行っていたのだろう。無理矢理猿轡が外された。少し頬が痛んだ。
「悪いけど、今日の遊びは中止。君は今すぐ家に帰れ」
「……は?」
驚いた。今までコイツが「遊び」を中止したことなど、一度もなかったからだ。
「いいん、ですか」
「ああ。そのかわり誰にも見られるなよ。体育館裏の非常口を使え。いいか、もし誰かに見られたら、マジでぶっ殺してやるからな」
余裕ぶった態度を見せながらも、何処か焦りの色が見える。おかしい。こんなこと、今までに一度だってなかったのに。
もしや、何かあったのか。
「あの、何かあったんですか」
「うるさい、黙っていろ。ちっ、硬く結びすぎたか。しかたない」
そう言って、コイツは懐から例のサバイバルナイフを取り出し、慣れた手つきで収納されていた刃をむき出しにした。
「や、やめろ!」
「騒ぐな! 別にお前を傷つけるわけじゃない。タオルを切るだけだ。お前に傷は付けない。傷つけずとも、お前はすでにこっちの支配下にあるんだ」
その言葉通り、ナイフの刃はゆっくり、結ばれたタオルにあてがわれた。
「大丈夫だ。まだ時間はある。まだ平気だ。落ち着け。落ち着け。あいつは間違っている。何か、決定的な勘違いをしているんだ」
なにやらブツブツと呟きだした。本当に焦っているのか、ナイフを持つ手が微かに震えている。
そのときだった。
「こんなところで、なにをやっているのかしら」
優しそうな、女の人の声が聞こえてきた。聞き覚えがある。多分、この学校の先生だ。
目の前のアイツが、息を呑むのが分かった。顔がみるみる青ざめていき、唇が震えだした。
「……どうして、あなたがここに?」
「それはこっちの台詞よ。あなた、こんなところにいるべきじゃないでしょう」
なんだこれは。一体何が起きたんだ。あれは確か、四年生の担任ではなかったか。そうだ。確か、名前は道元。だが、どうして彼女がここへ?
もしかして、俺は助かったのか?
「さ、決定的な場面を見られちゃったんだから、白状してもらいましょうか。
ねえ、亘先生」




