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第三話

 整えられたベッド、中身はなく開け放たれたクローゼット。それらを一瞥して、ユアンは満足そうに頷く。


「忘れ物はなし、っと」


 半年間使ったーーといっても、着替えに戻るくらいだったのだが、その部屋の戸を閉め、鍵をまわす。

 実習生とシールの貼られた鍵を指で遊びながら屋上へ向かう。はっと思い出し、ずっと腕に付けていた "実習生" と書かれた黄色い腕章を外す。

 ついに実習が終わったのだ。


 金属でできた無機質な重い戸を押し開けると、ふわりと微風がユアンの頬を撫でた。鳥のさえずりなど何十年も前に聴こえなくなり、今日もまた恐ろしいほどに、しんとした早朝。空気を吸い込むと静けさが肺肝に染み渡るようだった。向かって数十歩の管理人室へと行く。


 管理人室にはヴィニーが定位置のパソコン前に座っていた。




 軽く挨拶をして、腕章と鍵をもとあった場所へと戻し、ヴィニーの前に立った。

「ヴィニーさん、半年間お世話になりました」

 ヴィニーは少し照れ臭そうに笑った。

「あぁいや、すまなかったね。ポートアのことで役に立てなくて…… 」

「なに言ってるんすか。そこまでしてもらってすごい嬉しかったんすから」

 ユアンの顔を見て、本心から言ったのだとわかったのだろう。ヴィニーは優しく微笑むと、その後ろにあった時計に目を移した。ユアンもその目線を追って時計にたどり着く。4時半をさしていた。


「あ、俺そろそろ行きますね」

「あぁ、いってらっしゃい」

いつものように傘差しに入った刀を背負うとドアノブに手をかけた。

「本部は大変だと思うがあんたならやれるだろうさ。たまに遊びにおいで」

その声に振り返り、はいっ、と元気よく応える。普段大人びているユアンが本来の年齢、15歳の少年に戻ったようだった。



 屋上から飛びおりる。一つに束ねた長い髪の濃い藍色が宙で踊る。これから首都へ居を移す者の荷物とは思えないほど身軽な斜めかけのかばんを左手で抑え、見事に着地して見せる。そして、所々アスファルトの欠けている道をいった。



 ユアンがネルデン支部に着く頃には、既に今期の実習生が全員集まっていた。

 今回のネンデル会場での合格者はユアンを含め7人。基準を満たせば何人でも合格する。

 管理人国家試験は年に2回、大きな都市6カ所で春と秋に一週間かけて行われ、その場で合格者が発表されるという一風変わったスタイルをとっている。そして、合格が決まればそのまま実習場所へと配置される。

 乱れたこの世では貧しい地域も増えており、宿も金もない人への配慮がなされているというわけだ。

 管理人は進化した動物達の攻撃を一手に引き受けるため、死に至ることも多く、常に人員不足。国は人員集めに躍起になっていた。そのため国からの支援も多く、優秀であればタダ同然で教育を受けられ、食べ物に困ることもない。危険な仕事であるため、給金も高い。入学年齢は16歳以下という制限があるものの、人気は高く入学試験には募集枠の約20倍の希望者が集まる。

 現にユアンもほとんど金を持っておらず、奨学金でここまできたのだった。



短髪で眼鏡の似合うホーマーがむすっとした顔でユアンの到着を待っていた。

「ユアン遅いぞ」

真面目なホーマーは時間に厳しい。とはいえ、まだ集合時間の5分前だった。

「まぁまぁ、遅刻じゃないじゃん? 」

リアのフォローがなかったら、またくどくどお説教がはじまっていただろう。



 全員が揃ったところで支部の事務所の扉を開く。部屋には支部長と秘書しかいない。他の職員の迷惑にならないよう、出勤前に集合時間を設定していたため朝早いのだ。



アルヴァがむすっとした顔ですわっていた。

「遅いぞ」

先程のホーマーと被ってみえた。ぶっとユアンが吹き出す。ギロリとユアンを睨む。

「何がおかしい」

「いや、ホーマーと同じようなこというもんだから……」

ユアンがクスクスと笑いながらいう。リアとディランも同じことを思っていたのだろう。つられて笑い出した。ホーマーが慌てていることもまた笑いをさそった。


 ホーマーの説教を逃れたユアンだったが、結局仲良く三人でもっと長い説教を受ける羽目になったのだった。



 三人が解放される頃には他の者は秘書につれられ出立していた。ユアン一行も地図とコンパスなど赴任先への移動に必要なものを受付で受け取り、玄関口へ向かう。


「あー、鼓膜破れるかと思った」

ディランが耳を抑える。

「久しぶりにみんなで怒られたね」

「最近はトラブルメーカーが近くに居なかったからな」

ディランとリアが示し合わせしたように揃ってユアンを見る。

「俺⁉ まぁ、否定はしないけどさぁ」

凹んだような仕草をする。

 この三人は育成学校の頃から仲がよく、実戦にめっぽう強かったのと、よく呼び出しをくらってたのだ。それゆえ、誰が付けたのか、 " 3×3(さんかけさん)t " ーー才能にあふれてる ( talented ) けど、悪戯して ( trick ) よく怒られる ( be told off ) 3人組ーーと呼ばれていた。



 そのまま玄関口まで来ると、じゃあ、とまた明日会うかのような挨拶をして、ディランとリアはカーターへ、ユアンはポートアへと旅立った。



おそくなりましたぁー。・゜・(ノД`)・゜・。


読んでくださってありがとうございます!


ペースは遅いですが今後も読んでいただけると嬉しいです!♪

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