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第四夜

 こんな夢を見た。

 くすんだ壁に「マンション サンライズ」とあった。その看板の前に古ぼけ錆びた鉄パイプイスを置いて、爺さんが缶ビールを飲んで夕涼みしている。肴はコンビニで買ってきた珍味らしい。

 爺さんは酒の加減でなかなか赤くなっている。その上顔中つやつやして皺というほどのものはどこにも見当たらない。ただ白い髯をありたけ生やしているから年寄りという事だけは分かる。自分は子どもながら、この爺さんの年はいくつだろうと思った。そこへ小さなエコバックを持った太ったおばさんが買い物から帰ってきて、お愛想に、

「お爺さんはいくつかね」と聞いた。爺さんはさっきからくちゃくちゃしていた珍味を飲みこんで、

「いくらか忘れたよ」と澄ましていた。おばさんは肩を竦めて爺さんの顔を見た。爺さんは缶ビールをぐいと飲んで、そうして、ふうと長い息を白い髯の間から吹きだした。するとおばさんが、

「爺さんはこの“アパート サンセット”(住民達は自分達の住むマンションを自嘲的にそう呼んでいた)の何号室だっけ?」と聞いた。爺さんが住人である事は間違いないが、誰も何号室の住人か知らない。でも、それを誰も不思議がらないし気味悪くも思っていない。

 おばさんは爺さんが返事をしてくれないので、質問を変えた。

「お爺さんは何処から来たのかい?」

爺さんは長い息を途中で切って、

「宇宙の果てだよ」と言い左手の親指で東の空を指差した。

 おばさんは再び肩を竦めて「どこへいくかね」とまた聞いた。すると爺さんが、缶ビールをグイと一息のんで(さっきから爺さんはビールを飲んでいる。いくら飲んでも飲んでもビールが無くならない。不思議な缶だ)、前のように息をふうと吹いて、

「宇宙の果てだよ」と言い、今度は左手の人指し指で西の空を指差した。

「真直ぐかい」とおばさんが聞いた時、爺さんがふうと吹いた息が通りの方に真直ぐに行った。

 爺さんが突然立ち上がり、表へ出た。自分も後から出た。爺さんの腰に小さな船のような物がぶら下がっている。それが妙に精巧にできていた。肩からは四角な箱を腋の下の釣るしている。

 爺さんはいつもこの二つを持っていた。よほど大事な物らしい・・・。

 爺さんは公園のブランコまで来た。ブランコで子どもが三・四人遊んでいた。爺さんは公園の遊び場の中央に腰の“船”を置いて、

「今にそれが宇宙艦になるよ。本物の宇宙艦になるから、見ておれよ」と繰り返して言った。

 子ども達は一生懸命それを見ていた。自分も見ていた。

「見ておろう、見ておろう、好いか」と言い、肩からの四角の箱を叩いた。自分は“船”ばかり見ていた。けれども“船”は一向に本物の宇宙艦にならなかった。

 そのうち「爺さんの嘘つき。爺さんは嘘つきだ」と言いながら、一人、またひとり家に帰っていき、子どもは自分ひとりになった。でも、自分は“船”を見ていた。どうしても、本物の宇宙艦が見たかった。

「今になる。きっと、本物の宇宙艦になる」と爺さんは言った。それで、自分は一生懸命“船”を見ていた。それども、一向に“船”は本物の宇宙艦にならなかった。

 いつの間にか、辺りが真っ暗になっていてお腹も空いてきた。

 それで自分も「爺さんの嘘つき。爺さんは嘘つきだ」と言って、“アパート サンセット”の方に歩き出した。


 自分が公園を出ると、急に後ろの方が明るく点滅した。

 振り返ると、ついさっき前まで自分がいた辺りの上空にあの“船”の宇宙艦が停止していて、あの爺さんがそれに向かって上昇して行き、爺さんの姿がその中に消えるとそれは一瞬のうちに飛び去った。



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