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第三夜

 こんな夢を見た。

 六つになる子どもを負っている。たしかに自分の子である。ただ不思議な事にいつの間にか目が潰れて、青坊主になっている。自分が御前の目はいつ潰れたのかいと聞くと、「なに昔からさ、もう二千八百年も前になるさ」と答えた。声は子どもの声に相違ないが、言葉つきはまるで大人である。しかも、対等だ。

 いつのまにか、左右は乾燥した原野だ・・・。

「原野になったね」と背中で言った。

「どうして解る」と顔を後ろに振り向けるようにして聞いたら、

「だって、石を踏む音と風の音しか聞こえない」と答えた。

 自分は我子ながら少し怖くなった。こんなものを背負っていては、この先どうなるか分からない。

 あの丘の向こうには皆がいる。こんな物、皆には見られたくない。どこか打っ遣る所はなかろうかと見ると大きな岩が見えた。あすこならばと考え出す途端に、背中で、

「ふふん」と言う声がした。

「何を笑うんだ」

 子どもは返事をしなかった。ただ


御父おとっさん、重いかい」と聞いた。

「重かあない」と答えると

「今に重くなるよ」と言った。


 自分は黙って大きな岩の方に歩いて行った・・・。

 誰も見ていない岩陰に子どもを打っ遣ろうと思った瞬間、「何か望みはないか?」と尋ねている自分に気づいた。すると「日陰になるからそこをどいてくれ」と大樽に暮らしている賢者(*)が答えた。

「くっくっ」と背中で笑い声がした。

 それでも格好付けで言った。「もしわたしがアレクサンドロスでなかったら、わたしはディオゲネスになりたい」

「くっくっ」と背中でますます大きく甲高い笑い声がした。

 しかし背中の我子には誰も気がつかない。自分にしか見えないようだ・・・。

“あぁ、ここはポンペイウス劇場の隣の列柱廊だ”と思った。

 暗殺者達によって何度も何度も刺された。暗殺者達には背中の我子は見えなかったようだが、背中の我子が重荷になって身軽に動けなかった。

 それにわざとらしさを感じた。

 それで「息子よ、お前もか?」と最後に叫んだ。

 ・・・。


「御前は一体、何人、いや、何千、何万、何十万、何百万の人を殺した?

 その中には女、子どももいた。慈悲を乞う無抵抗な男達もいた。

 それを御前は・・・」

 自分はこの言葉を聞くや否や、アッシリアの王、マケドニアのアレクサンドロス三世、古代ローマのガイウス・ユリウス・カエサルだったこと。さらにモンゴル帝国のチンギス・ハン、フランスのナポレオン、そしてドイツのヒットラー、最後はどこかの国の大統領だったという自覚が、忽然として頭の中に起こった。


 自分がとんでもない人殺しだったのだなと始めて気がついた途端に、背中の子が急に石地蔵のように重くなった。




*古代ギリシャの哲学者(紀元前412年?~紀元前323年)

 この話はフリー百科事典「ウィキペディア」を参考にしました。 

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