七話
学校ェ
「あなたが徐元直でいいかしら?」
ニート脱却し、下っ端その一として上司の仕上げた書類を書庫に運び、目録を作る仕事をしていた時に後ろから話しかけられた。
振り向いてみたら眼鏡娘が一名。
この時代。レンズはあれどもガラスはないようだ。
「はい。そうですが、どちら様?」
「ボクは賈駆。董卓様の筆頭軍師を務めてる。あなたの名前はさっき登用を持ち掛けた陳宮より聞いたわ。これより幾つか質問する。答えなさい。それにより抜擢如何を判断するわ」
音々音、余計なことしやがって…。
大体の事情は予想が付く。
あれだけ賢くかつ、後世に名を残す才を持つ音々音に賈駆さんが気付いたのだろう。
賈駆も確か曹操のとこの有名人だった気がするし、人を見る目があったのだ。
そして…私が敢えて水鏡先生の紹介状を出さないで低い地位を狙っていた事を音々音は知らない。
一応は低い地位から始める理由はでっち上げはしたが、彼女は一緒に旅をした私を気遣ってくれたのだろう。
しかし、三国志において董卓滅亡後も生き残り名を残した陳宮と私は違う。
私は残念ながら陳宮程の頭はないし、武力に至ってはアッパラパッパーもいいところ。
董卓勢力の末端の今ですら胃が痛む程度には社会情勢に気を遣ってるのに、更に昇進とか冗談じゃない。
昇進確定な理由は陳宮だ。おそらく賈駆としては、有能だが董卓に対する忠誠は低い陳宮の好意を引き出すために私の昇進は決定事項だ。
だが、私を無条件に昇進だと周囲が反発する。だから形だけでも試験をして適当な部署に昇進といったところか。
この昇進回避の方法は一つ。賈駆から嫌悪を引き出しかつ、能力も無いことをアピールする。自分の凡才さに胡座をかかず、敢えてアホな答えを返すぐらいがベストだろう。
陳宮の好意と釣り合わないほどにウザイ人間だと思われれば昇進もないだろう。
この問答は下手したら命懸け。
まさに(`・ω・´)←こんな顔になるぜ。
* * * * *
なんだコレは?
偶然の巡り合わせで才人陳宮を見付け登用を持ち掛けた。
二つ返事で受け入れられた。何でも、彼女の尊敬する人物が董家に仕えているかららしい。
彼女はその尊敬する人物である徐庶も能力に相応しい地位に付けて欲しいと言ってきた。
陳宮の見立てで才ある人物の採用を断るはずもなく、ただどんな人物か気になったから話しかけた。
予想は裏切られた。
徐庶は想像とは異なりかなり下衆な人物だった。
民の扱いについて聞けば。
『民と油は搾り取れるだけ搾り取るもの。民は生かさぬように殺さぬように扱うものでありましょう』
罪人の扱いを聞けば。
『本来は罪を犯した以上は必ず死すべきなのです。だが、それ以上に貢献するなら話は別。すなわち己の命を金で買える者は赦すべきかと』
仮にも陳宮が推薦した人物。冗談かと思えば至極まじめな顔で言っている。
吐き気がした。
外道な事を真顔で言えるコイツと。
そこに有用性を見出す己に。
『搾り取れるだけ搾り取る』
『生かさぬように殺さぬように』
『命を金でを買える者は赦す』
いずれにしても真っ当な発言ではない。
華雄や霞などの武官連中なら激高して斬り殺してもおかしくはない。
だが、正しいのだ。
少なくとも。
『搾り取るもの以上に搾り取り』
『生かさず緩やかに殺し』
『赦す以前に犯罪者を捕まえきれず、欲のために無実の者を捕らえる』
そんなことをしている無能な連中と違い、効率と結果を求めた合理性において最優の結論。
仮にもこれだけの事を考える頭脳を持つならば、言った内容を実現もしてみせるのだろう。
月と近い自分では月に隠せず、かといって適した配下もいないために出来ない、倫理的に許されない策の数々。
コイツになら任せられるかも知れない。
氏素性も知れないヤツにいきなりやらせるつもりは無いが、しばらく様子を見てあるいは。
私人としては最悪だが、それでも使えるならば使う。
月が天に至るために。
* * * * *
Mission failedでござる。
質問された内容に日本史の資料集に載ってた、国司の暴政の表れた短歌とやらや、信長さんがマジ切れした相手のやったことやら。
つまり、後に曹操という英雄に重用される方なら嫌がるような内容を答えてみた。
そしたら昇進した。
仕事内容は税金を払えない方々に対する対応。
…これは将来。
『徐庶とかいうDQNが税金払えないウチの娘を×××しやがってぇ、マジありえないんですけどぉ。ちょっと関羽の兄貴、ヤッちゃって下さい』
『げぇっ関羽!?アッーーー!』
フラグなのは確定的に明らか。
そこに事実関係なんて無意味だろう。
チュ○ンヌさんを始めとして徴税官ってのは悪役なんだ。
逃げようとも既に賈駆さんに言われちまった。
『城内に部屋を用意させるし部下も付けるわ』
この状態で逃亡?
しかもあの暴君董卓の元から?
殺されるわっ!!
やっぱり益州で大人しく絵描きしてればよかった。
* * * * *
「徐庶殿、これについてどう思われますか?」
「この策について徐庶殿の意見を伺いたいのですぞ」
現状をなんとかせねばと思いながらいつの間にやら随分経った。
最近、音々音が妙に彼女の仕事について意見を求めてくる。
初期の。
『賈駆殿も見る目がないのです』
と可愛くプンスカと怒っていた頃よりは対応は楽なのだが。
私にどうしろと?
現代知識は役に立たないし、素の私の思考能力なんて尚更。
書類仕事なら計算はもちろんのこと、二千年後の数学まで身につけているから役に立てるが、政策なんて知らん。
流民の対策とか聞かれても知らんよ。
世界の警察は世界恐慌の時を公共事業で乗り切ったらしいが、そんな金はどこにもない事は仕事柄、一応は理解しているつもりだ。
「無理やり増税とかして、その金で城壁の補修とかを流民を遣ってやるとか?」
まぁ、既に七公三民な以上は増税しても民がお亡くなりだろうし、音々音もそこは分かっているだろうが。
「おお!その手がありましたか!流石は徐庶殿なのですぞ」
(・_・)エッ..?
「明日の朝議で使わせていただくのですぞ。ちゃんと徐庶殿の名前も出すのです」
(゜∀゜;ノ)ノ
陳宮公台。十八歳以上。
担当は軍事。
財政や税率は門外漢であった。
後二、三回で定番のシスイカンかな。
キャラが増えると漢字ガガガガガ